• 公開日:2020.10.16
年間800万トンのプラスチックが海に 世界70カ国以上で上映された『プラスチックの海』、11月13日から全国公開

高橋 慎一

年間800万トンのプラスチックが世界の海に流出しているーー。その事実を知ったクレイグ・リーソン監督は、海洋学者や環境活動家、ジャーナリストたちと共に、海の実態を調査するため撮影をはじめた。私たちがまだ知らない、本当の海の姿とは。

劇中、多くの登場人物の口から語られる『disposal(使い捨て)』という単語の響きが耳について離れない。この映画はわれわれ人間が長い月日をかけて、母なる大海にプラスチック製品を使い捨ててきた事実と、現在の絶望的な状況を真摯に見つめたドキュメンタリー作品だ。

大海原を自在に泳ぐイルカの姿を、流麗な俯瞰ショットで捉えた映像で幕を開ける本作。だが程なくその高貴な美しさを湛えた海が、大量に廃棄されるプラスチックゴミにより、もはや回復不能なレベルにまで汚染されている事実を、科学的エビデンスを基に冷静に語り出してゆく。

幼き日に、科学雑誌に掲載されたクジラの記事を読んで以来、海に生きる生物たちに畏敬の念を抱き続けてきたジャーナリストのクレイグ・リーソンは、世界中の海の惨状を知り2011年に真実を伝える映画の制作を開始した。その情熱と危機意識に共鳴した多くの人々との連帯により、映画は5年の歳月をかけて2016年に完成。現在までに70カ国を超える国々で上映活動を展開し、各地で静かなムーブメントを巻き起こしている。

巨大なクジラから手のひらに乗るイワシまで、あらゆる海洋生物がプラスチックをエサと思い誤飲し、胃の中で消化できずに死んでゆく様子を見て、海産物を常食とする日本人は慄然とするはずだ。プラゴミを飲み込んで体内毒を発生させた彼らを、最終捕食者として食べているわれわれの体の中には、すでに相当量の毒素が沈殿しているのではないだろうか。亡くなった海鳥の胃を切開し、中から大量のプラゴミがこぼれだすシーンなどは、思わず目を背けたくなるが、スクリーンから目を逸らしたところで海洋汚染は現在進行形で広がってゆく。手を打つべきは今なのだ。

本作は声高に地球の危機を訴えるのみではなく、撮影、編集、音響がいずれも素晴らしく、劇場で観賞する映画作品として高い精度を誇っている。海の深淵な美、そこで暮らす生物の躍動を美しく見せてくれるからこそ、プラスチック廃棄物が溢れかえるツバルやフィリピンの貧困居住地の現実が、解決せねばならない課題として、われわれの胸中に迫ってくるのだ。映画上映のちょうど中盤、48分が過ぎたところで「この映画がはじまってから米国で263万キロのプラスチックが捨てられた」と、観客の意表を突く字幕が表示される。直視すべき事実を映画の上映そのものと関連付けて体感させる演出も実に巧みだ。

正直言って、本作の観賞後は決して晴れやかな気分にはならないだろう。あまりの海洋汚染の深刻さに、すでに手遅れだと感じる方も多いはずだ。しかし唯一にして最大の希望は、この硬派なドキュメンタリー作品が、17カ国語に翻訳され世界中で1200回もの上映会が組まれているという事実である。11月から開始となる日本上映も、この潮流に連動することを大いに期待したい。

11月13日(金)アップリンク渋谷・吉祥寺・京都ほか全国順次ロードショー
監督:クレイグ・リーソン
配給:ユナイテッドピープル 宣伝:スリーピン
原題:A PLASTIC OCEAN 100 分/2016 年/イギリス・香港
https://unitedpeople.jp/plasticocean/

文・高橋 慎一 映画作家 / 写真家
2015年に映画『Cu-Bop』を初監督。アップリンク渋谷で半年間に渡るロングラン上映を記録する。米国7都市での巡回上映を皮切りに、世界各地の映画祭を廻り、2011年より北米での配信上映がスタートする。

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