• 公開日:2020.08.12
豊かさの再定義を求める声 GDPには健康や社会、環境データの追加が必要
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GDP(国内総生産)では真の豊かさは測れないのではないか――。11カ国の各国1000人を対象にした調査「Beyond GDP2020年版」によると、平均72%の人が既存のGDPを超える豊かさの評価指標を求めていることが分かった。

調査は、2007年、2009年、2013年に同様の調査を行ってきた調査・コンサルタント会社グローブスキャンとエシカルマーケッツが行った。オーストラリア、ブラジル、カナダ、中国、フランス、ドイツ、インド、ケニア、ロシア、英国、米国の11カ国の一般市民を対象に、自国のGDPを貨幣に基づいて測り続けるか、健康や社会(教育など)、環境に関する統計を追加するかのどちらかを選択してもらった。平均72%の回答者が、GDPの定義を拡大し、健康や教育、環境に関するデータを含めるよう求めていることが分かった。2016年の調査では平均68%だった。

オレンジは、「健康や社会、環境に関する統計は経済的なものと同様に重要であり、政府は国家の進歩を測定するためにこれらを使う必要がある」と答えた割合。青は、「経済成長は国が焦点を当てるべき最も重要なものであり、政府は貨幣ベースの経済統計を使って国の成長を測定する必要がある」と答えた割合。

「Beyond GDP」調査は、欧州委員会や欧州議会、ローマクラブ、OECD、WWFが2007年に開催した「Beyond GDP」会議をきっかけに始まった。エシカルマーケッツCEOで米内閣の科学政策アドバイザーを務めるヘイゼル・ヘンダーソン博士が調査結果を欧州議会で発表し、その後も調査が行われてきた。ヘンダーソン博士は「金融市場やメディア、多くの政府、企業、エコノミストたちはいまだにジョセフ・スティグリッツ氏が語った通り『GDPフェティシズム(GDP 物神崇拝)』に固執している。2020年の調査結果が示すのは、市民の方が経済学者や金融、企業、政府、政治家よりも先を行っているということだ」と語った。

長年にわたり、国の豊かさを評価するためのより良い指標として、GDPに代わる指標が候補として挙げられてきた。持続可能な経済福祉指標(ISEW)、真の進歩指標(GPI)、国民総幸福度(GNH)、人間開発指数(HDI)、総合的な国民純生産(NNP)、経済の規模や住民の幸福度だけではなく、経済の持続可能性を測定・報告する総合資本充足度(ACS)といったものだ。

2020年の調査では、世界中の人々が、国の全体的な健康状態を定量化するために、こうしたより総合的な指標を導入したいと考えていることが示唆されている。また、GDPを拡大する必要性は、C40市長会議が今年7月に発表した「緑と公正な復興のためのアジェンダ」、世界経済フォーラムが同6月に発表した新報告書『自然とビジネスの未来』においても明かされている。大地や海など自然環境がもたらす生産性によって10.1兆ドル(約1070兆円)の新たなビジネスチャンスが生まれると予測されている。こうした機会創出については、エシカルマーケッツが2019年5月に発表した、グリーン投資に関する調査『2019-2020 GREEN TRANSITION SCOREBOARD』からも予測できる。すでに再生可能エネルギーやエネルギー効率、企業の環境に関する研究開発などグリーンインフラへの民間投資は累積で10.3兆ドル(約1090兆円)に上る。

今回の調査を見てみると、農業など自然環境がもたらす生産性に依存しているブラジルでは、85%が健康、教育、環境に関する幅広い施策をGDPに追加することを支持していることが分かる。続くのは、ドイツ人の81%、ケニア人の79%、フランスとイギリスの77%、カナダ人の75%、ロシア人の73%、オーストラリア人の69%、アメリカ人の64%、中国人の59%、インド人の58%が新たな指標を支持している。2016年の調査では貨幣ベースのGDPを支持している人の平均は23%で今回は28%に伸びている。

一方で、新型コロナウイルス感染症の拡大はGDP主導の経済成長を破壊し、世界中で格差や不平等を拡大している。グローブスキャンのクリス・コールターCEOは「パンデミックが収束を迎える頃には、社会に大きな影響が及んでいることが明らかだ。世界の経済をどう評価していくのが最善なのか、さらなる検討が必要になるだろう。人々は、各国の成長をより総合的に測ることを求めている」と語っている。

編集・翻訳:サステナブル・ブランド ジャパン

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