• 公開日:2020.07.27
復興のメカニズムを可視化、課題解決の「教科書」に――全国SDGs未来都市ブランド会議 4
  • 廣末 智子

須田善明・女川町長

自治体と企業の連携による最先端事例を紹介する「全国SDGs未来都市ブランド会議」のリレー・トーク。3つ目のテーマは、「社会的インパクトマネジメント」だ。東日本大震災の被災地、宮城県女川町の復興の歩みを検証し、そのメカニズムを明らかにしたことの意義はどこにあるのか、公民連携の関係者らが語り合った。(廣末智子)

【ナビゲーター】
青木 茂樹・サステナブル・ブランド国際会議 アカデミックプロデューサー

【パネリスト】
須田 善明・宮城県女川町町長
青山 貴博・宮城県女川町 産業振興課 公民連携室 室長
小松 洋介・特定非営利活動法人アスヘノキボウ 代表理事
宮城 隆之・PwCコンサルティング合同会社 公共事業サービス部 パートナー

宮城県女川町舞台に自治体・コンサルが連携

社会的インパクトマネジメントとは、コンサルティングの立場からさまざまな地方創生に参画するPwCが構築した、経済的価値と社会的価値を共存させるビジネスモデル。いわゆる社会的課題を「見える化」して、そのロジックを明確化させることに優先順位を置いたもので、具体的には全国約1800の自治体をクラスタリング分析し、女川町と共通の社会構造を持つ地方公共団体を統計的に導出した。

復興の定義とは何か

宮城氏によると、モデルの構築に取り組んだのは、昨年3月にフィールドスタディーの現場として女川町を訪問した際、同町の先進的な公民連携による復興のまちづくりを間近で見て感動したのがきっかけ。「これを本業と絡めて何かできないか」と仲間と議論してプロジェクトチームを立ち上げたのが始まりだったという。

一方、須田町長は震災以降のまちづくりを、「復興の定義とは何かとずっと考えていた。個々にとっては家が再建された、事業が始まった、ということだが、町の経営者として、全体を見たときにどうあるべきか、その本質は何かと考えながらやってきた」と振り返った後、「PwCをはじめ皆さんとつながり、地域のさまざまな主体がアクティブに動いていく中にあって、新しい可能性や地方の価値を生み出していくことが、われわれ女川町における復興の定義ではないかと考えるようになった」と自信を持って語った。PwCによってそれまでの取り組みが言語化され、分析がなされたことで、町にとっては、あらためて気付かされたことがたくさんあるようだ。

それについては青山室長も「積み上げてきたものを整理し、比較検討しなければならないと思ってはいたが、個々の限界がありマンパワーの不足がある中でやれていなかった。それをPwCさんに仲間になって得意分野で研究していただき、何よりロジックモデルをつくっていただけたことが非常に有り難かった」と感謝の言葉。「今後はこの手法が、われわれのような小さな自治体、そして被災を受けた自治体、また発展途上国も含めた全世界的な(まちづくりの)教科書になっていけばすごいんじゃないかと思う」と期待を込めた。

左から女川町の須田 善明町長、同・青山 貴博室長、アスヘノキボウの小松 洋介代表理事、PwCコンサルティング合同会社 公共事業サービス部の宮城 隆之氏

女川で何か起きたのか

また復興直後から中間支援組織の代表としてまちづくりに携わる小松氏も、復興の進む女川に視察も増える一方、「女川だからできた」と捉えられることに違和感を持っていたと言い、「女川だけではなくて他の地域をより良くしていくためにも、女川で何が起きたのかという社会的インパクトのメカニズムが明らかになったことの意義は大きい」と語った。

最後に、宮城氏は、地域社会の課題を解決するための重要な要素には、社会的インパクトアプローチで活動の可視化を進めつつ、コレクティブインパクトアプローチと呼ばれる、関係者を巻き込んで同じ方向に進んでいくことが2つの重要な要素だと強調。女川町の検証結果のフレームを地方創生の最前線はもちろん、さまざまな社会課題に当てはめて活用し、自治体だけでなく、企業や金融機関の本格的な参入を促すソーシャルトランスフォーメーションを進めていく考えを示した。

written by

廣末 智子(ひろすえ・ともこ)

サステナブル・ブランド ジャパン編集局  デスク・記者

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーを経て、2022年より現職。サステナビリティを通して、さまざまな現場の思いを発信中。

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