• 公開日:2019.04.23
英・豪の美容業界で環境負荷を減らす取り組み始まる
  • クローディアー真理

ドライヤーで髪を乾かすよりもエネルギー消費が多い、洗髪時の水の加熱
© Brentron2000

英国や豪州で、美容業界が環境負荷を抑える取り組みが始まった。英国では、美容サロンのオーナーや美容学校の学生に、水や電力を抑えたサロンの運営方法などを教えるプログラムが進行中だ。これまでに約17000人がサステナブルなサロンの経営法を学んだ。豪州では美容院からの廃棄物を専門に回収するプロジェクトが稼働。アップサイクルなど、廃棄物の徹底的な再利用を行っている。(クローディアー真理)

英国で現在進められているプログラムは、サウサンプトン大学のデニーズ・ベイデン博士が率いる「エコ・ヘアー・アンド・ビューティー」だ。博士は美容院で行われているサービスのうち、特にエネルギー消費が多く、環境負荷が大きいのは、シャンプーなどに用いる水を加熱することだということを突き止めた。

ぬるま湯を使用し、2回洗うところを1回に減らせば、4席あるサロンを例に挙げると、年に約29万リットルの水と、2万4000 kWhの電力量が減らせるという。これは同時に5万3000英ポンド(約774万円)の節約になる。また、シャンプー後に新ツールを利用し、髪の水分を取るためのタオルの使用量を減らすことを提案。使用済みタオルの洗濯に必要な水資源や電力を抑える。

英国で行われている「エコ・ヘアー・アンド・ビューティー」プログラムのオンライン・トレーニング修了証書。修了者は現在のところ、美容院50軒と美容師1000人だ
© Eco Hair and Beauty

同プログラムでは、オンライン上でノウハウのトレーニングも行っている。ワークショップも開催し、2000人以上の美容院経営者や1万5000人近くの美容師の卵に、サステナブルなサロンの経営法を伝授している。

「美容院は、顧客に直接接するため、気候変動の対処策を啓蒙するのに絶好のポジションにある」と博士は話す。美容院内での取り組みを紹介するだけでなく、リーブイン・コンディショナーやドライ・シャンプーなど、顧客が自宅で実行できる環境負荷抑制法を教えられるからだ。そして、「こうした習慣は決して地球だけでなく、髪の毛のためにも良く、『ウィン・ウィン』なのだ」と付け加える。

国内の美容院の中にはすでにサステナブルな運営を行い、定評を得ているところがある。イングランド中央部のコッツウォルズにあるタビタ・ジェームズ・クラーンはその老舗的存在だ。

サロンで使用する電力は100%自然エネ。LED照明を取り入れ、リサイクル可能な紙製タオルを採用し、使用後のタオルの洗濯・乾燥に消費される電力を抑える。出るごみの85%をリサイクルする。パンフレットにはリサイクル紙と水性インクを用いている。

ロンドン東部にあるラルフ&ライスは、オープンして約3年ながら、サステナブルなライフスタイルを心がける人々から高い評価を受けている。生分解可能な使い捨てタオルと、節水できるシャワーヘッドを併用することで、水の使用量を通常と比較して65%削減。顧客は容器持ち込みでヘアケア商品を購入することもでき、ごみの削減に一役買っている。

地元の他企業と連携を取り、お互いをサポートすることで周辺社会の発展を図ることも心がける。サロン内に置かれる花や家具、顧客に出す軽食や飲み物などには地元企業の商品を採用している。

豪州のサステナブル・サロンズ・オーストラリア会員の美容院に提供されている各廃棄物回収容器。美容院に置くことを意識し、おしゃれな紫色だ
© Sustainable Salons Australia

一方、豪州の美容院で活発化しているのが、美容院から出る廃棄物の専門回収だ。サステナブル・サロンズ・オーストラリア(本社・シドニー)は会員となった美容院から出るごみの95%までを回収し、アップサイクルしている。

紙やフォイルを含めた金属は再生資源、プラスチックはアウトドア家具や包装材料、薬剤などの化学製品は建築現場などで使用される水に変換し、再利用される。切られた髪の毛で長いものはがん患者などのウィッグ製作のために寄付され、短いものはまとめて袋に詰め、海洋に流出した石油の除去に用いられる。

会員美容院の多くが、美容院側の環境保全に対する姿勢が顧客に好影響を与えていることを実感している。また環境を意識する人による、サステナブルなサロンでの施術を求める需要の増加にもこたえる下地ができつつある。

written by

クローディアー真理

ニュージーランド在住ジャーナリスト。環境、ソーシャル・ビジネス/イノベーションや起業を含めたビジネス、教育、テクノロジー、ボランティア、先住民マオリ、LGBTなどが得意かつ主な執筆分野。日本では約8年間にわたり、編集者として多くの海外取材をこなす。1998年にニュージーランドに移住。以後、地元日本語誌2誌の編集・制作などの職務を経て、現在に至る。Global Press所属。

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