• 公開日:2018.04.03
「副業・兼業」を企業の競争力に:ライフネット生命
  • 松島 香織

左からコーポレート本部人事総務部の篠原広高担当、システム戦略本部の大岩政博システム運用部長

ライフネット生命は、副業・兼業を前提にした採用枠を検討中だ。同社では2010年以来、延べ9人の副業・兼業を認めてきた。システム戦略本部の大岩政博システム運用部長は、そのうちの一人であり、IT企業の社長を務める。採用面接時に兼業を申し出て実現した。今年1月に創業会長から立命館アジア太平洋大学に転じた出口治明氏は「多様性こそ企業の競争力」と公言しており、同社はそのスピリットを引き継ぐ。(松島 香織)

「転職や起業はハードルが高いが、副業・兼業はもっと気軽に新しいことに挑戦できるのでは」と篠原担当

副業・兼業は、社員のニーズを拾っていくことで認めるようになり、社外での「挑戦と成長の機会」として捉えている。自己申請制のため、改めて今年2月の朝礼で社員に説明したという。現在さまざまな部署から5人が副業・兼業をしており、副業・兼業の経験者は30代から40代の男性社員が多い。

「社内ではできることが限られるので社外に出て挑戦し、社内に戻った時に自分の仕事や周囲によい影響が出ることを期待しています」とコーポレート本部人事総務部の篠原広高担当は話す。

副業・兼業は、個人が申請した時点による1年ごとの更新制だ。「本業に持ち込まない」というルールで、人事評価では副業・兼業していることがプラスやマイナス評価になったりすることはないという。

システム戦略本部の大岩政博システム運用部長は、2016年4月に入社し今年1月に部長に任命された。ライフネットへの応募は元同僚の勧めだったが、採用面接時に兼業を就業条件に出したという。

「金融系IT企業の社長を務め、現在週2日はそちらの仕事をしています。ライフネットへの出社は週3日ですが、会社との条件面が合ったので今のようなワークスタイルになりました」と大岩部長は話す。

「副業・兼業で自分の市場価値が見える。会社の肩書きを外した時、自分を客観的・多角的に知ることができる」と大岩部長

2社を兼業するようになり、大岩部長は業務を部下に任せる度合いが高くなった。裁量権を与えることは信頼関係や本人のモチベーションアップ、人材育成につながる。自身としては、両社で得た知見を互いに生かすメリットがあり、業務効率を挙げる思考トレーニングになっている。逆にデメリットは、自分の時間が減ることだという。直接のコミュニケーションが減り、メールのやりとりが多くなるため、通勤時間を利用するなどすきま時間を上手く使っている。

「大変だけど、どうにかやれているのは、会社制度や周囲の理解があるからです。自分のような働き方を受け入れてくれていることが大きい。周りの理解がないと精神的にも辛くなります」(大岩部長)

働き方の多様性を認める企業風土は、創業者の出口治明氏(現立命館アジア太平洋大学学長)の「多様性こそが企業の競争力」という理念に基づいている。隣にいる人は自分と事情が違うという考え方が、社員に浸透しているからだ。

岩瀬大輔社長は「ギブ&テイクではなく、ギブ&ギブ&ギブ&ギブだ」と言い、テイクのことは考えず、今目の前にいる人のためにできることを考えるように社員に話すという。そうしてこそ、本物の信頼関係が築けるからだ。この考え方は採用にも生かされている。

同社では30歳未満の応募者を「新卒」として扱い、「定期育成採用」と言い換えた。応募者を「応援したい人」と呼び、会社で応援したくなるような人材を採用している。また、他社での経験やNPO・NGOでの活動などを経て同社に行きついた経緯を「回り道」として歓迎している。

「彼らはこれまで他者に対してギブをしてきた、当社の社風に合う人たちです。自ずとそういう人たちが集まったから、働き方の多様性を認められるではないでしょうか」(篠原担当)

保険会社は顧客と長期間付き合い、10年更新や終身という商品を扱っている。同社の人材と組織に対する考え方も同様だ。副業・兼業に関してすぐに成果を求めるのではなく、その人が挑戦して成長すれば、いずれ会社のメリットにつながっていくと考えている。

written by

松島 香織(まつしま・かおり)

2016年株式会社オルタナ在職中に、サステナブル・ブランド ジャパン ニュースサイトの立ち上げメンバーとして運営に参画。 2022年12月株式会社博展に入社し、2025年3月までデスク(記者、編集)を務めた。

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