![]() 育てた作物の品評は、定期的に行われる
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フラット(集合住宅)住まいの人のために、空き地や農地を貸し出し、家庭菜園として利用してもらう「パブリック・ガーデン・システム」がオランダで話題を呼んでいる。主要都市のエコ・スーパーマーケットと各自治体が共同運営し、郊外の空き地や農地を効率よく再利用するのが目的だ。(アムステルダム=ヴァン・W・カオル)
オランダは、日本の九州とほぼ同じ面積で居住面積が非常に限られている。総人口は約1570万人で、人口密度は東京と同じ1平方キロメートルあたり3600人。多くの人はフラットに住むが、たとえ一戸建てを持っていたとしても、庭は猫の額といった家が多く、家庭菜園は一般のオランダ人にとって夢のまた夢に近かった。
そこで、空き地の再利用と「種をまき、汗水流して収穫した野菜を楽しんでみたい」という人たちのために考案されたのが「パブリック・ガーデン・システム」だ。希望者を募り、一人当たり約30-50坪ほどの土地を1カ月50ユーロ(約5600円)で貸し出し、野菜や花を自由に育ててもらう。
![]() 見事な収穫は、菜園利用者のマスター ピース(逸品)ばかりだ
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「完全オーガニック」が売り
菜園を利用する人たちはすべて無農薬で野菜や花を育てている。このプロジェクトの斬新なところは、収穫された野菜の約半分をエコ・スーパーマーケットで、通常の農家から仕入れる額の約半分程度で買い上げてもらえるシステムを提供したことだ。自慢のエコ野菜をスーパーで販売してもらえるとあって野菜作りにも気合が入っているという。
現在、このパブリック・ガーデン・システムは6都市20カ所で展開され、売上高は1カ月で3500万円に上るという。自宅フラットから歩いて5分の場所にある菜園を、2012年から利用しているアンヌ・マリーさんは、「汗水流して作った自作の野菜や果物の味は、やっぱり格別」と話す。彼女の菜園には、じゃがいも、トマト、にんじん、レタス、西洋梨-など、野菜や樹木が植えられている。スーパーで買い取ってもらうほか、菜園利用者同士でシェアしている。
普通のスーパーで販売される野菜や果物の約40%が輸入というオランダで、これらの野菜は、正真正銘「地元産」だ。それに加え、完全オーガニックというポイントが最大の売りになり、一般商品より値段は高めでも売り上げは上々で、品切れを嘆くファンもいるほどだ。
定期的に購入する顧客によれば、スーパーで買う野菜と違い、味に深みがあるという。「野菜の形やサイズが不ぞろいで面白い。昔の野菜を思い出す」と表現する人もいる。太陽の光をたくさん浴び、手塩にかけて育てられたこれらの野菜の評判は、各メディアに頻繁に登場するようになり、大手スーパーもそれらの販売に興味を示している。
2013年夏には、老人ホームやワークショップ会場などに、これらの野菜を使った料理を配布するサービスが開始される予定だ。料理は、プロジェクトに協賛する著名レストランらが引き受ける。「菜園を持ちたい」という夢を叶えることが、遊ぶ土地の解消にもなり、ビジネスとしても成功している。今後、どのようなプロジェクトが新たに始まるのか、注目が集まる。