![]() ケアプロの川添高志社長
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「ワンコイン(500円)」「保険証・予約不要」で血糖値や中性脂肪を測定できるサービスを展開するケアプロ(東京・中野)。川添高志社長は2013年3月、世界最大の社会起業家支援組織「アショカ」のフェローに選出され、日本で最も注目が集まる起業家の一人だ。(オルタナ副編集長=吉田広子)
川添社長は、慶応大学看護医療学部を卒業し、看護師と保健師の資格を持つ。東京大学病院に勤務時代、糖尿病合併症になり、壊疽(えそ)した足を切断した患者に出会った。その男性は会社で健康診断を受ける機会がなく、糖尿病が悪化し、血液透析を受けるようになったという。
次第に仕事ができなくなり、生活保護を受給せざるを得なくなった。年間の医療費600万円は、税金でまかなわれる。日本の医療費の約3 割(約10兆円)は生活習慣病関連、社会的コストは大きい。
糖尿病は、自覚症状がないまま進行する。傷が治りにくくなるが、痛みを感じにくく、視力も落ちるため、変化に気付かない。傷口から壊疽が起きやすくなる。だからこそ、予防には定期的な健診が重要だ。
ところが、1年以上健診を受けていない「健診弱者」は全国で3300万人にも上る。中でも健診を受ける機会が少ないのは、自営業、フリーター、主婦、ホームレスだ。そこで、川添社長は2007年にケアプロを立ち上げ、ワンコイン健診を始めた。
![]() 血液検査 機器。保健師の資格を持ったスタッフが使い方を教えてくれる
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海外展開も視野に
ワンコイン健診は、血糖値なら10秒、総コレステロールや中性脂肪なら3分で結果が出る。採血は医療行為にあたるが、血液検査機器を使った「自己採血」にすることで課題をクリアした。2008年11月のサービス開始以来、14万人が受診。受診者の3割が異常値を示しているという。
ワンコイン健診は、中野店のほか2店舗あるが、健診弱者の生活導線に入るため、スーパーやジム、パチンコなどでの出張健診をメインにしている。これまでに出張健診を2千回以上実施。さらに受診者を増やすため、企業や自治体に場所の提供を呼びかけている。
ワンコイン健診は、既存の医療機関と競合すると思われがちだが、健診未受診者の掘り起こしにつながる。この革新的なサービスは早くから多くの共感を集めたが、一方で、行政指導が増え、突然出店許可が取り下げられたり、資材の流通がストップしたりするなど困難も多々あった。
川添社長は「アショカフェローに選出されたことで、大きな信頼と支援を得られた。ようやく拡大フェーズに入ってきた」と話す。今後はブランディングに力を入れていきたいという。
ケアプロのミッションは、「革新的なヘルスケアサービスをプロデュースし、健康的な社会をつくること」。2012年5月には、新事業として「24時間訪問看護サービス」を東京都中野区と足立区で開始。2014年1月には、JICAの支援を受け、インド・ニューデリーでワンコイン健診を始める予定だ。
川添社長は、「健康な人はいつまでも健康に。万が一、病気になっても安心して治療を受けられる社会をつくりたい」と力を込めた。
吉田 広子(よしだ・ひろこ)
株式会社オルタナ オルタナ編集部 オルタナ副編集長
大学卒業後、ロータリー財団国際親善奨学生として米国オレゴン大学に1年間留学(ジャーナリズム)。2007年10月に株式会社オルタナに入社、2011年から現職。 「オルタナ」は2007年に創刊したソーシャル・イノベーション・マガジン。主な取材対象は、企業の環境・CSR/CSV活動、第一次産業、自然エネルギー、ESG(環境・社会・ガバナンス)領域、ダイバーシティ、障がい者雇用、LGBTなど。編集長は森 摂(元日本経済新聞ロサンゼルス支局長)。季刊誌を全国の書店で発売するほか、オルタナ・オンライン、オルタナS(若者とソーシャルを結ぶウェブサイト)、CSRtoday(CSR担当者向けCSRサイト)などのウェブサイトを運営。サステナブル・ブランドジャパンのコンテンツ制作を行う。このほかCSR部員塾、CSR検定を運営。