北ドイツにあるハノーファー市は、2020年までにCО2排出量を1990年比で4割減らすことを宣言した。そこで活躍するのが、2001年に設立された有限会社気候保護エージェントだ。自治体の気候保護プログラムの策定や、無料でレストランや美容院の省エネ対策を実施する。(ハノーファー=田口 理穂)
![]() 集中冷気製造装置に立つゼーゲブレヒト店長
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気候保護エージェントは、市町村や電力公社、自然エネルギー関係の事業所をはじめ、50以上の企業からなる支援組合が出資している。利用料は基本的に無料で、コンサルタントを紹介したり、補助金申請の手助けをしたりする。
特に、中小企業向けの無料のエネルギー効率チェックが人気だ。レストランやカフェ、タバコ屋、事務所、美容院など個人経営の事業所を対象に、2時間にわたって現場でエネルギーの使用状況を分析する。その結果をもとに省エネ対策に取り組む場合、助成金や融資を受けられるよう支援する。
通常、食料品店のエネルギーの6割は電力である。そのうち7割は冷蔵に利用されているため、冷蔵の技術改良は大きな効果がある。
例えば、ハノーファーにあるチェーンのスーパー・エデカは、改装することで、エネルギー消費の50%削減に成功した。このスーパーには30年前の冷蔵庫があり、電力を大量に消費していた。しかも冷蔵庫は排熱を出すため、夏場は売り場が不用意に熱くなっていた。灯油による暖房コストも高かった。
改装工事では、集中冷気製造装置を中庭に設置し、作られた冷気をパイプで店内に送るようにした。パイプは断熱されているためロスが少なく、排熱が売り場に入ることもない。開店時間中は冷蔵庫を頻繁に開け閉めするので温度を低めに設定し、夜間は高めにした。
同装置の排熱は、暖房にも冷房にも利用できる。天井に空気交換器を設置し、夏場は冷気と湿気を店内に取り込んでいる。外の気温がマイナスでも集中冷気製造装置の排熱だけで、十分暖房となる。ショーウインドウは2重ガラスにし、断熱機能を高めた。以前はボイラー2基が灯油を燃やして暖房していたが、一切必要なくなった。
照明だけでなく、冷蔵庫にもLEDランプを取り入れた。LEDランプは低い温度環境で安定するので、冷蔵庫に適している。店舗外の広告の電灯は、周囲が暗くなったら自動的につく。照明のエネルギー消費は48%減となった。
省エネの実施には、店員や来店客の行動も重要だ。定期的に社員研修を行っているほか、冷蔵庫や冷凍庫に「扉を閉めてください」という張り紙をし、客の協力を促している。以前は冷蔵庫からの排熱のせいで、客から苦情が出たり、食料品が傷んで損失を出したこともあった。今では室温は一定に保たれている。改装コストは12年で元がとれる計算だ。
ゼーゲブレヒト店長は「社員と顧客の満足度が高まり、売り上げが増えた。省エネ改築を売りにするつもりはなかったが、口コミで話題になり、テレビやラジオでも取り上げられた。気候保護をしながら、コスト削減もできる。他の人にも改装をすすめたい」と満足している。
田口 理穂(たぐち・りほ)