国際協力NGOのピースウィンズ・ジャパン(PWJ、広島県神石高原町)は、東ティモールの農民に対する自立支援として、有機コーヒーの事業指導を10年以上続け、2014年にようやく黒字化を達成する。途上国で「ソーシャル・ビジネスを育て、手放す」という新しい形の「支援」が今、実ろうとしている。(瀬戸義章)
![]() 乾燥中のコーヒー豆を前に永井氏(左)とPWJの現地スタッフ
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人口約120万の小さな島国、東ティモールは21世紀最初の独立国だ。2002年にインドネシアの実質的な支配から独立したものの、国民の7割が一日2ドル以下で暮らす、世界最貧国の一つである。
1999年に独立の是非を問う住民投票が実施され、大きな騒乱が発生して以降、PWJは、継続的に同国を支援してきた。活動の中心は、「コーヒー産業」を根付かせるための生産指導と販売促進だ。
PWJは、「摘み」「脱肉」「発酵」「洗浄」「乾燥」というコーヒー豆の一次加工のすべてについて、時間をかけて指導してきた。栽培の中心地であるエルメラ県レテフォホは、標高1300─2千メートルというコーヒー栽培に適した高地で、一度も農薬を経験したことのない完全有機の土地だ。
こで手間を掛けて栽培されたコーヒー豆は、日本のカッピングジャッジにおいて、素晴らしい風味特性をもった「スペシャルティコーヒー」と評価されるに至った。コーヒー豆を高く販売することができるようになったおかげで、農家の世帯収入は約2割向上し、その多くが「子どもを学校に通わせ続けることができるようになった」という。
PWJは生産管理のほか、コーヒー豆の買い取りから運搬・加工・コンテナ詰め・輸出・販売といったサプライチェーンを一貫して行っている。
それらを担当する現地唯一の日本人スタッフ、永井亮宇(りょう)氏は「赴任した当初は、事務所のスタッフに教わることばかりでした。そのおかげで、今は互いにリスペクトし合えるような関係を築けています」と語る。
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3年前から事業責任者となった永井氏は、日本だけではなく、米国やオーストラリアのバイヤーとも積極的に交渉を進め、販路を拡大した。その結果、2014年には100トンのコーヒー豆を生産・販売し、最終的な売上予測は50万ドル(約5800万円)と、同事業で初の黒字化を達成する見通しだ。
2014年6月に、東ティモールの首都ディリ市内にコーヒーショップをオープン。高品質な「自国の」コーヒーが飲めるカフェとしては、東ティモール初となる場所だ。観光客だけでなく同国人からも人気となり、毎週のように売上記録を更新しているという。
PWJは、同国にカフェ・ブリサ・セレナ社を立ち上げ、今後は事業を移管していく計画だ。東ティモール人が自らの手で高品質なコーヒーを作り続け「支援」の手を放し、「事業」として回っていくようにすることが、彼らの最終的なゴールである。
瀬戸 義章(せと・よしあき)