![]() ミラクルリーグとタイガース選手たちとの記念撮影(写真=谷口輝世子)
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米国のプロスポーツにとって、地域還元は欠かせない。プロスポーツは、スタジアムやアリーナに足を運んでもらうことで成り立つビジネス。いかに地域の人たちに愛されるか、新しいファンを呼び込むかが重要だ。(米デトロイト=谷口輝世子)
米国の4大プロスポーツは、人気に関係なく慈善事業を行っている。地域貢献活動は、そのまま販売促進キャンペーンにもなる。ある球団の営業担当は「グッズ販売などもあるが、我々のビジネスは『席を売ること』だ」と言う。
メジャーリーグのデトロイトタイガース(米ミシガン州)はア・リーグ中地区4連覇を果たした強豪チーム。地方都市ながら、全30球団中7位の年間300万人前後の観客を動員している。タイガースは他のメジャー球団と同様、多くの慈善活動をしている。
タイガースは毎年、初夏の週末に障がい児野球リーグに出向き、野球教室を開催する。この障がい児野球は「ミラクルリーグ」と称され、知的障がい児や車いすや補装具を必要とする子どもたちなどがプレーしている。
野球教室では、子どもたちに選手と同じユニホームが配られる。背中には背番号と個人の名前が入った特別製だ。球団からは打者、投手、コーチらが出席し、障がいのある子どもにボールの投げ方を教え、一緒に試合を楽しむ。この活動に毎年のように顔を出しているのがスーパースターのミゲル・カブレラ内野手だ。
![]() タイガースのミゲル・カブレラ内野手が打撃投手に(写真=谷口輝世子)
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試合当日にも野球教室
メジャー屈指の強打者カブレラは、自身のナイター試合の翌朝であっても、障がい児野球教室に出かける。試合形式では投手役を買って出て、障がいのある子どもが打ちやすいように、臨機応変に下手投げに変え、歩み寄ったりする。
子どもたちの打つ喜びは、そのままカブレラの喜びでもある。三振した子どもがベンチに帰ろうとすると、カブレラは「もう一回、もう一回」と言い、バットにボールが当たるまで付き合う。
筆者は90年代に日本のプロ野球を取材してきたが、試合当日の朝に選手が慈善活動をするのを見かけたことがない。しかし、メジャーリーグ球団では試合当日であろうとも、地域の人と接するイベントを企画し、協力を惜しまない選手が少なくない。
こうした活動を支えるため、各球団には専門の職員がいる。メジャーリーガーと接する時間を最も必要としている地域や人を選び、適任の選手をチームの中から探す。スケジュール、準備や後片付けも引き受けて、地域の人だけでなく、選手にも気持ちよく活動してもらえるよう気を配る。
選手との素晴らしい時間を持った子どもたちはファンになるだろう。プロスポーツでは子どものファンが1人増えるごとに、2│3人の観客動員につながるといわれている。子どもだけではなく、家族とともにスタジアムに足を運んでくれるようになるからだ。
谷口 輝世子(たにぐち・きよこ)