![]() 「Bコーポレーション宣言」
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- 米国発、「ベスト企業」目指す
「Bコーポレーション」は、民間企業に「ベスト・イン・ザ・ワールド(世界一になる)こと」を目指すのではなく「ベスト・フォア・ザ・ワールド(世界にとってベストを尽くす会社になる)こと」を目指してもらう米国発の認証制度だ。このほど日本でも2社が初めて認証を受けた。そのプロセスを報告する。(コーポレートシチズンシップ・雨宮寛)
近年、上場企業に対しては、コーポレートガバナンスコードやその他多くのCSRガイドラインを通じて、企業の持続可能性を求める環境が整いつつある。一方、Bコーポレーション認証は、未上場企業や中小企業にとって自社の経営に持続可能性を内包することを促す良い制度になることが期待される。
日本でも地方自治体が地域貢献型企業を推奨する制度は広がってきているが、地元の企業を評価するという意識が強く、各企業の持続可能性を中心に評価する制度はあまり見られない。
今や、中小企業もアジア、そしてグローバルに事業を展開する時代になってきた。また、訪日外国人が年間2千万人に達する時代となり、今後も増加傾向にある。訪日外国人に自社が環境や地域社会との持続可能な関係に力を入れていることを簡単に知ってもらうために、Bコーポレーションのような世界で通用する認定制度を取得する必要性が今後高まってくるであろう。
このようなことから、企業の規模の大小にかかわらず、企業の社会的責任や持続可能性を評価するBコーポレーションの認証制度は今後日本でも注目されよう。
50カ国1728社が取得
2016年5月25日現在、世界50カ国、1728社が取得しているBコーポレーション認証は、米国のNPO法人BLab(ビー・ラボ)が開発した認証制度だ。Bコーポレーション認証は大きく、環境、従業員、顧客、地域社会、企業統治の側面から企業を評価する認証制度である。
これらの評価は数値化され、200点満点で点数付けされる。認証を取得するには80点以上の点数を取ることが求められている。
これまでBコーポレーション認証を取得した企業には、アウトドア衣料のパタゴニア、ベン&ジェリーズ、クラウドファンディング運営会社のキックスターターなどがある。Eコマースのエッツィー、化粧品メーカーのナチュラ(ブラジル)など上場企業が同認証を取得するケースも増えてきた。
![]() 石井造園では、取引先や地域住民を招いて「盆栽カフェ」を開催している
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- 認証を受けるには
それでは、どうすればBコーポレーション認証を受けられるのだろうか。認証を受けられるまでの流れを簡単に紹介しよう。まず「インパクト・アセスメント」という約150の設問に自主回答することからスタートする。
インパクト・アセスメントは事業が及ぼす影響力を5つの評価項目から分析する。この作業は、Bコーポレーションのウェブサイトでいつでもスタートすることができる。
5つの評価項目とは環境、従業員、顧客、地域社会、企業統治。最後に自主申告として、違法行為やギャンブル、ポルノなどにかかわっていないことを宣言する。
インパクト・アセスメントの約150の設問は、英語であれば2時間ほどで完了するものの、日本企業にとっては和訳などの手間がかかり、実際には、延べ7時間半ほどの時間を要した。
例えば従業員のボランティア活動について、①有給休暇扱い、②無給休暇扱い、③年間のボランティア活動が20時間以上の場合、20時間を上回る部分は有給休暇扱い、④金銭以外のインセンティブを従業員に提供、⑤有給休暇も無給休暇の扱いも設けていない─が会社の方針に書面として記されているか、という設問があった。
Bコーポレーション認証では、企業の持続可能性を高める事柄については、経営者と従業員の間での情報共有を重視している。そのため、紙媒体でも電子媒体でも、書面として明確に会社の方針が共有されていることが重要だ。
インパクト・アセスメントを終了し、オンライン申請を終えると、次はBラボの担当者との電話インタビューが待っている。実際の電話インタビューでは、すでに申請および登録の完了したインパクト・アセスメントの内容や補足資料についての質問が中心だ。
その後、インパクト・アセスメントの最終スコアが通知される。前述のように200点満点中80点以上でBコーポレーションの認証が認められる。
その後は、認証を受けたBコーポレーションとして、「Bコーポレーション宣言」にオンライン署名をする。認証の年間登録料として売上高に応じた登録料を支払い、完了すると、ウェブサイトに認証取得企業として登録される。認証取得まで、おおよそ4─6カ月程度が見込まれる。認証取得後は、2年ごとに継続審査があり、認証費用は毎年支払うことになる。
2016年春、日本企業で初めて、シルクウェーブ産業(群馬県桐生市)、石井造園(横浜市)の2社がBコーポレーションの認証を取得した。
シルクウェーブ産業(2016年3月認証取得)は夢の素材と言われたシルクウェーブを蚕糸昆虫農業試験所(農水省)および群馬県蚕糸課の三者共同研究で開発し、新製品の研究開発を行う。
小澤康男社長は「現在の企業経営は成功さえすれば良いという考え方が強すぎると思う。人間が人間らしく、助け合っていく方法があるのではないかと考えていたときに、このBコーポレーション認証を知った。その会社像こそが私の信じることだと強く共鳴した」と話す。
石井造園など2社に認証
石井造園(2016年5月認証取得)は横浜市を中心に造園、土木工事、水道施設工事などを行う。2008年横浜型地域貢献企業に認定され、2010年度横浜市優良工事請負業者を受賞した同社は、今年創立50周年を迎え、地域に根差したCSR先進企業として同業種だけでなく他業種からも高く評価される。
石井直樹社長は「サステナビリティ(持続可能性)の分野で世界的に広がっているBコーポレーション認証を受けることは、CSRを推進する当社にとって非常に意義がある。特に世界的な認証を取得できたことは従業員の励みとして誇りにつながる」と振り返る。
雨宮 寛(あめみや・ひろし)