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  • 公開日:2016.10.06
  • 最終更新日: 2025.03.21
紛争鉱物ビジネスと性暴力――ノーベル賞候補の医師が語る
    • 小松遥香

    デ二・ムクウェゲ医師はコンゴの紛争鉱物や人権について語った(10月4日東京大学本郷キャンパス)

    東京大学と笹川平和財団は、ノーベル平和賞の有力候補であるデ二・ムクウェゲ医師を招き、10月3日~4日の2日間にわたってコンゴ紛争をめぐる鉱物ビジネスや人権に関する講演会を開いた。同紛争は隣国ルワンダの内戦が飛び火して1996年に勃発し、現在までの死者数は累計で約600万人。豊富な鉱物資源は軍や反政府勢力の資金源となっている。ムクウェゲ医師は、鉱物資源の取引と組織的な性暴力の関係性や国際的な取引規制のあり方について課題が山積すると語った。(小松遥香)

    「扉も窓もない宝石店」コンゴの紛争鉱物と組織的な性暴力

    資源が豊富なコンゴ東部は「世界のレイプの中心地」と呼ばれる。携帯電話に使われているタンタルや金などの資源産出地では、流通経路の制圧のために、武装勢力や国軍による組織的な性暴力が武器として用いられている。1日で200人以上の女性がレイプされた事例もある。同地域では1996年以降、女性の3人に2人がレイプ被害を受け、犠牲者は40万人を超える。

    組織的な性暴力の問題は、身体や精神的なダメージを個人に与えるだけではないことだ。被害者の家族、コミュニティーの誇りや名誉の喪失など個人や集団に根深い傷を残す。女性が携わる農業や商業を破たんさせ、鉱山労働への依存をまねくといった経済的なダメージも与える。さらに子どもを身籠れないほど身体を傷つけることで、人口減少を狙い、地域を支配する目的もある。組織的な性暴力は安価ながら、物理的にも精神的、文化的にも大きなトラウマを残せる兵器なのだ。

    4万人以上の被害者を助けた、ムクウェゲ医師

    ムクウェゲ医師はコンゴの産婦人科医であり人権活動家でもある。1999年から性暴力を受けた被害者の救済を始め、これまでに4万人以上の被害者を身体的にも精神的にも治療してきた。

    「同じ女性が二度のレイプ被害を受け、どちらも治療した。その子どももまたレイプされて治療をした。治療は結果を修正しているにすぎないと思い、問題の原因を無くすために声を上げることにした」と医療にとどまらない活動を行う理由について語った。

    軍や反政府勢力を臆することなく批判してきた同医師は、2012年に度重なる暗殺未遂にあい、国外に避難したこともある。「性暴力が発生する場所と鉱山のある地域、武装勢力の所在地を地図に印すと見事に一致する」と同医師は説明する。

    「鉱物の調達に関する規制を決めることも必要だが、より重要なのは平和をもたらすことだ。そのためには、鉱物資源がからむ経済戦争をやめさせなければならない。犯罪者が処罰されない状態を野放しにしないことが大事だ」とコンゴにおける法と正義の実現の必要性について強く語った。

    国際規制は十分か

    2010年にアメリカでドッド・フランク法が成立したことを皮切りに、中国やEUでも鉱物調達の規制が始まった。

    京セラの資材本部資材本部室SCMリスク管理課責任者である上田肇氏は、「紛争鉱物対応は米国の上場企業のみならず、すべての企業のCSRのレベルを測る指標となっている。これに取り組まない企業とは契約をしないという考え方が一般的になってきた」と話す。

    しかしムクウェゲ医師は、「国際的な法律の成立で前進は見られるが、ドッド・フランク法の紛争鉱物の調達規制は厳格とは言えず、さらに企業のロビー活動で脆弱化する傾向にある」と指摘する。

    紛争鉱物に指定されているスズやタンタル、タングステン、金以外にも目を光らせなければならない資源問題がある。コンゴは世界最大のコバルトの産出地だ。国際NGOのアムネスティ・インターナショナルは2016年1月のレポートで、アップルやサムスンなどの製品に使われているコバルトが児童労働や過酷な労働条件のもとで採掘されていると指摘している。

    written by

    小松 遥香(こまつ・はるか)

    オルタナ編集部

    アメリカ、スペインで紛争解決・開発学を学ぶ。趣味は、大相撲観戦と美味しいものを食べること。

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