![]() 国内食品企業の温暖化対策ランキング
|
環境NGOのWWFジャパンは12日、国内の食品企業25社を対象とした温暖化対策の比較調査結果を発表した。1位はキリンで100点満点中80点。2位に日本たばこ(70.4点)、3位は味の素(63点)が続く。
長期目標設定と情報開示で高得点
国内食品企業の温暖化対策ランキング(WWFジャパンのサイトから引用)
調査は環境CSR報告書など、各社が公開している情報のみに基づき実施。温暖化対策の目標と実績、および情報開示に関する合計21指標で評価した。各社がバラバラに発表している環境報告書類を同一の基準で評価することにより、企業の温暖化対策を比較できるようにするのが狙いだ。
調査では対策の実効性を測る上で「長期的ビジョン」「削減量の単位」「総量削減目標」「第三者による評価」など7指標を重視。この内、キリンは「長期的ビジョン」や「ライフサイクル全体での排出量の把握・表示」など4指標で満点を獲得し、2位以下に差をつけた。
4位以下は得点順にサントリー、キッコーマン、日本ハムなどと続く。キッコーマンと日本たばこは、温暖化ガスの総排出量および原単位(生産量当たりの排出量)の両方で削減目標を掲げていた。平均点は44.8点で、2015年に環境CSR報告書を公開していない江崎グリコは評価の対象外だった。
自然エネルギー導入で立ち遅れ
気候変動対策の国際的枠組みについて話し合う昨年12月のCOP21で「パリ協定」が成立。世界の平均気温の上昇幅を2度以内に抑えるため、人間活動による温暖化ガスの排出を今世紀後半までに実質ゼロとすることをめざす。
調査結果の報告書でWWFジャパンは「気候変動問題の解決に向け、企業にも『2度未満』と整合した長期的ビジョンにもとづく削減目標の設定が必要」と指摘。今回の調査で「キリンのみが長期的ビジョン・目標を掲げ、短期での取り組みにつなげていた」と評価している。
一方、温暖化ガスの排出抑制に向けては企業活動における脱化石燃料、すなわち自然エネルギーの導入拡大が不可欠だ。ところが今回の調査では、自然エネルギーの導入目標を掲げていたのは味の素の1社のみ。この点についてNGOの気候変動・エネルギープロジェクトリーダーの池原庸介氏は「非常に残念な結果」と述べた。
調達や廃棄等でも対策が必要
WWFジャパンによる企業の温暖化対策ランキングは電機、輸送機器に続き今回の食品分野で第3弾となる。過去の平均点は電機の48.7点、輸送機器の46.7点で、食品企業はこれらを下回る結果となった。池原氏は「食の安全分野の対策が優先された結果、気候変動分野は後回しになっているのでは」とみる。
今回の調査では、主に自社の事業活動に関する指標で比較している。原材料の調達、流通などサプライチェーン、および消費や廃棄といったライフサイクル全体での温暖化対策に関しては評価が十分ではない。池原氏はこの点について「今後の課題」と認める。
食品の流通過程では膨大な廃棄が生じる。農水省の推計では、12年の国内の食品廃棄量は年間642万トンにも達する。製造・流通・消費での食品の廃棄を減らしていくことは、その過程で生じるエネルギー消費を削減する点で温暖化対策となる。
また、農薬や化学肥料を多用した工業的農業でも膨大な化石燃料を消費する。食品企業が、有機栽培に代表的な生態系農業による農産物の調達に切り替えを進めることも、温暖化の抑制につながるはずだ。
WWFジャパンは企業の温暖化対策について「科学的知見に基づいた長期的な視点を持ち、バックキャスティングによる目標設定が不可欠」と指摘。「自社の事業範囲に加え、(製品の)ライフサイクルを見据えた温暖化対策の実践が求められる」としている。
斎藤 円華(さいとう・まどか)