企業ともっと腹を割って話したいーーNPO/NGOが提案する企業との連携
特別対談:「N2X(NPO/NGOと企業)連携:持続可能な成長のためのクロスセクター連携を考える」
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イノベーションには技術革新ともう一つ、社会革新の意味がある。私たちがいま直面している、気候危機や格差の拡大、少子高齢化、地域経済の衰退といった問題を解決し、持続可能な成長を目指すには、単一企業や組織、業界に収まらない、クロスセクターでの連携が欠かせない。中でも、社会的課題に精通したNPO/NGOと企業との連携は、社会を大きく変える原動力となる。今回は、サステナブル・ブランドとデロイト トーマツ コンサルティングが共同企画する分科会の特別企画として、WWFジャパン、ACE、「日本で最も美しい村」連合の3団体の視点から、NPO/NGOと企業との連携を点検し今後の課題や目指す姿を展望してみよう。
(聞き手=金辰泰・デロイトトーマツコンサルティング合同会社Social Impact Officeマネージャー)
少しずつ進化する企業との連携
金:現在、企業とはどんな連携をされていますか。
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NPO
法人ACE事務局長/共同創業者 白木朋子(以下、白木):児童労働に関与するような原料を取り扱っている可能性のある企業のみなさんに、サプライチェーンを含む人権課題の存在を知っていただき、対策をとっていただくための研修をしたり、さまざまな連携を行っています。
代表的な連携事例は、森永製菓さんの「1チョコ for 1スマイル」という取り組みです。1-2月の特別月間に、チョコレートの売上高の一部を寄付いただいて、ガーナの児童労働をなくすためのプロジェクトに活用しています。
それから、私たちがプロジェクトを実施して児童労働がなくなった村で生産されたカカオを商社に輸入してもらい、21ブランドに児童労働のないチョコレート製品を作っていただいています。
もう一つは、2018年11月からガーナ政府と共同で取り組んでいる、児童労働のない地域を制度化づくりにおいて、デロイトのみなさんとご一緒しています。
金:企業といっても、色々な企業が関わられています。
白木:そうですね。従来の寄付をいただく関係性から、形が変わってきています。企業の本業の強みと私たちのスキル、お互いの強みを掛け合わせて、世の中に必要なものを提供していくという方向に進んできているかなと思います。
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公益財団法人WWFジャパン自然保護室プラスチック政策マネージャー シーフード・マーケット・マネージャー 三沢行弘(以下、三沢):WWFでは、環境保全において企業を非常に重視しています。企業は生産活動をし、消費者との窓口も担っているからです。生産から消費まで一連の動きを変えることができるため、企業と一緒に取り組む効果が特に大きいです。
WWFは「地球一個分の暮らし」を推進しています。今、私たちの消費活動、生産活動は明らかに地球1個分の再生能力を超えたレベルで行われています。人類が地球の再生能力の範囲内で暮らしていけるような世の中をつくることを目指しています。
ですから、具体的には「地球1個分の暮らし」の実現に向けて、地球規模の課題と地域レベルの課題の双方を解決するために、私たちからしっかりとした基準を示し、それにコミットできる企業とだけパートナーシップを結ぶようにしています。
決してお金さえもらえればどことでも組むというのではなく、厳しい基準を設定しています。ですから、私たちが求める姿を理解し共に実現しようとする企業とでないと、しっかりした連携ができません。
ただし重要なのは、私たちは、企業との幅広い対話も行っているということです。企業が集まる場を設定して情報交換をしたり、今後の課題解決を話し合うなど門戸を広く開いています。
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NPO法人日本で最も美しい村連合 理事 市原実(以下、市原):「日本で最も美しい村」は「フランスの最も美しい村」運動をお手本に活動をしていますが、フランスでは企業から寄付金をもらう仕組みはありません。でも、いつまでも町や村の財政に頼っていたのでは途中で頓挫してしまうと感じましたので、最初から民間企業からも支援いただくという形をとっています。私たちが発刊している季刊新聞も、ある企業が編集から発行まで支援してくれています。
NPO/NGOが抱える企業連携の難しさ
金:企業連携を行う中で、どのような難しさがありますか。
市原:企業とのつながりを継続的にすることが大事で、それが難しさでもあります。企業は当然、メリットを期待しています。どんな活動をしているかを日頃から小まめに、企業に対して情報発信することが大切です。
そんな中で、2年前から企業と加盟自治体が集まる会を開催しています。企業の方々に集まっていただき、村長や町長など首長さんなどと交流をする中で、企業に町や村の課題を共有し、連携が生まれています。
金:そう考えると、NPO/NGOはいかに限られたリソースの中で社会にレバレッジをかけて影響を与えられるかが重要になります。自治体を結束していきながら、そこに企業を巻き込んでいく難しさがあります。WWFはどうでしょうか。
三沢:私たちは、科学的知見に基づいた環境保全のためのガイドラインに沿って世界で活動しており、基本的にはそのガイドラインに沿って企業と協働していくやり方をとっています。
欧州に比べると、日本の消費者の環境に対する意識はそれほど高くはないと感じます。企業は消費者を見て事業をしていますので、消費者の環境意識が高まらないなかで、企業も十分に環境保全を考慮することなく事業活動を行う傾向があります。そうすると、私たちが理想とするガイドラインに沿って企業の本業の持続可能性を向上させていくことは、なかなか難しいです。
白木:最初に浮かんだのは、連携にいたるまでの難しさです。WWFさんのように世界的に知名度がある団体であれば、企業も聞く耳を持ってくれると思います。
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日本では、NPO/NGOが社会の構成員として認められていないという状況があるように思います。それは企業の視点としてもそうですし、一般生活者、消費者、市民的な視点から見てもそうです。社会において企業と対等な立場で評価されていない現状があるので、そこに最初の難しさがあるように思います。
企業もNPO/NGOも、どういう風に私たちの暮らしが豊かであり続けて、人と自然が調和し続けていけるか、という共通の目標があるわけですよね。でもそれを実現するためには、ビジネスの今までの前提や消費のあり方の前提をシフトしないといけません。
シフトを起こすには、対話から始める必要があります。でも話す相手として見てもらえないので、対話すらスタートできていない気がします。
NPO/NGOや企業を構成しているのは人で、何に価値を置くのかの価値観が人によって異なります。企業セクターと非営利セクターでは土台となる価値観が違います。だから対話できない、向き合えないというような恐れがあって、壁ができているようにも感じます。
企業の担当者やトップの方が、私たちが持っている価値と同じような価値を最初から持っていてくださると対話が成り立ち、企業連携も上手く進みます。
社会的インパクトを生み出すのに不可欠な「中長期的視点」をどう共有できるか
三沢:環境問題はすぐに解決するものではなく、中長期的にどう改善していくかということになります。そうすると、企業の年度ごと、四半期ごとに結果を出すという短中期的な時間軸とは合いません。
企業の経営陣が中長期的にコミットしていかない限り、どうしても短中期の業績というところに囚われて、事業をサステナビリティに転換できない難しさがあります。私たちWWFが高いレベルの持続可能なガイドラインについて、企業の一部の意欲ある人たちが賛同してくれたとしても、そこから組織全体を変えていくには、なお大きなハードルがあると感じています。
白木:そうですね。企業へのファイナンシャルリターンと社会へのソーシャルインパクトとをどうバランスさせ、それをどう評価し判断するか、その基準に企業とNPO/NGOではギャップがあります。
当然ですが、企業とNPO/NGOが連携するには、世の中が良くなるという共通の目標があると思います。そのために、企業へのファイナンシャルリターンが後になってもよいという選択肢を持つことも、必要だと思います。どっちが先になってもいいという形で連携をスタートしないと、本質的な連携は難しいと思います。
もちろん、企業がベネフィットを追求するのは当然だと思います。しかし、それを最優先しようとすると、結果的に小さな社会的インパクトに留まってしまうのではないかと思います。
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金:企業にはまだ、「中長期的なソーシャルリターンを生み出すことに取り組まなければファイナンシャルリターンはついてこない」という理解が浸透していません。そこを念頭に置けば、対話の目線も合ってくるのではないかと思います。
白木:企業とNPO/NGOはそもそも組織の使命としての前提が違います。そこに立った上で、対話を深めることによって理解をどこまで進めていけるかが課題です。
お互いが見ている世界というのは、これまでお互いに見てきた世界でしかありません。連携することによって、世の中の見方が広がり、それにより、できることの可能性が拡がることが連携するメリットだと思います。
そのためには、やはり対話が大前提になると思うんです。どう連携したらいいのか分からないという人が多いのは、話もしていないのではないかと思います。
なんとなくサステナブルな社会を目指すのではなく、具体策を本音で話したい
白木:企業もNPO/NGOも目指したい方向性って同じだと思うんです。でも、未来や社会に対してどうあって欲しいかという願いを意外と共有していない可能性があると思います。「なんとなくサステナブルな社会」を前提に話しているなと。
企業の人もNPO/NGOの人も所属している組織はあるにせよ、一人ひとりが結局はどうあって欲しいかという願いからしか原動力は生まれません。だから、それぞれの組織のアジェンダを背負いつつも、一個人としてどういう世界を願うのかという本音の部分でコミュニケーションをすることを、もっと面倒くさがらずにできると良いのではないかと思います。深いレベルでつながることができれば、お互いに何ができるのか、熱量をもってアイディアを持ち出せるのではないかと思います。
それぞれ抱えている事情はお互いあるよね、と互いのアジェンダも気遣いつつ、共通の目標をどう達成できるかという可能性を諦めないことが必要ではないでしょうか。概念的な話になってしまいましたが、私個人としてはそういう風でありたいなと思います。
金:すごく腹に落ちます。サステナブルであるべきということは語られますが、個々人がどうしたいかが大事で、本音を話し合った上で、踏み込んだ対話が必要だということですね。
三沢:私たちWWFジャパンも、欧米のWWFと比べると企業との対話自体がまだまだ難しい。でも最近はいい方向に変わりつつあるな、と感じます。
一番大事なのは、どんな企業とも対話をしていきたいということです。対話がなければそもそも解決の糸口すら見つからないので、まずは幅広い企業と腹を割って話し合うということからはじめなければなりません。その上で、やっぱりNPO/NGOの知見とか経験を活用して対策を進めていただきたいと考えています。
一企業という視点になりがちですが、環境・自然破壊の問題は、一企業では解決できないことがほとんどです。サプライチェーンの間で協力する、業界で協力する、異業種と協力するということを、環境や社会問題の解決分野ではもっと積極的にやるべきです。
共創をするということで本質的な問題の解決につながると思っています。私たちが目指しているのは、ただ単に人類だけが繁栄すれば良いということでもないし、自然だけを守ればいいということでもありません。人類と自然が共生・共存する社会を目指すために、企業が他企業、政府、消費者、そしてNPO/NGOと一緒に行動する。そういったことができれば良いなと思います。
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イノベーションには社会革新も含まれる
金:企業はこれまで技術革新に力を入れてきましたが、スタートアップが多く誕生する現在、技術で解決できる領域はかなり埋まってきました。次は社会制度も絡めた変革を意識的に設計していく必要があります。中国ではイノベーションというと、技術革新と社会革新を区別したりしています。社会革新が得意なNPO/NGOをテコとして上手く巻き込み協創し、業界横断的にソーシャルイノベーションを巻き起こしていくことがこれまで以上に重要性を帯びます。
三沢:イノベーションというのは技術革新ではなくソーシャルを含めた変革なのですが、日本は特にイノベーション=技術革新と考える誤解があります。もちろん、技術革新をどんどん進めないと特に環境問題は解決が難しいです。しかし社会のシステム全体を変えない限りは、結局問題を解決できないということも明らかです。
市原:私はNPO/NGOと企業との関係は今のところは深い溝があると思います。その溝をどうやってお互いに乗り越えていけるかが大事です。
世の中の動きを考えると、企業やそこで働く人が企業のことさえ理解していれば良いというのでは将来に対する見識や広い情報は得られません。最近は副業だけでなく複業という言葉がありますが、企業とNPO/NGOがお互いに人事交流するとか、企業の方もNPO/NGOの活動がどんなものか知ってもらうということです。それぞれの持っているものを持ち出して、相互の入れ替えもあってもいいじゃないかと思います。
例えば、カンロの製造工場では5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)活動に力を入れています。この活動を地域に持ち込めないかというテストを山形県の飯豊町で始めました。もちろん企業のやり方と地域のやり方は違いますから、活動のどの点の良さを地域に持ち込むとその町が美しさをつくりだせるか考えてやっています。
深い溝は埋まらないと考えるのではなく、そこに橋をかけて交流が生まれるのが望ましいと思います。そのことで社会的にお互いの領域との連携、つながりができる。それが経済活動に結び付くかもしれない。そんな風に私は思っています。
金:サイドビジネスではない複業は大事なキーワードです。弊社のメンバーも、2枚目の名刺を持たせていただくことでソーシャルイノベーションのノウハウが蓄積し、本業で生かす糧となったりしています。連携強化には、法人の垣根を越えて溶け込んでいく方が早く効果的なのかもしれませんね。
白木:NPO/NGOを活用してほしいというのは同感です。でも企業側の発想としては「NPO/NGOに近づいたら噛みつかれるかもしれない」と思っているように思います。NPO/NGOが100%望むような状況じゃないと噛みつかれるのではないかという思いこみを持っているように見えます。
でもNGOとしては「100%なんてありえない」という前提があります。ゼロか100ではなくて、ゼロより1が良い、という立場です。NGOからしてみれば、企業が「何%までできていて、どこまで頑張っていて、どこはできない」ということが分かっていれば良いんですよね。
たとえ、できていることが小さかったとしても良いじゃないですか。そこから前に進むという姿勢があれば、私たちは一緒にやっていけると思います。そうでなければ、世の中って前進していかないと思います。一歩一歩でよいと考えてもらえればありがたいです。
金:企業側にはNPO/NGOに不要に近づくと「噛みつかれるのではないか」と恐れている節もあります。
そんな中、NPO/NGO側には100%なんてありえず、完璧でなくてもよいから対話を始める懐があるという点は、今後企業がNPO/NGOとの関係を見つめなおし向き合っていく上で非常に重要な前提になりますね。
本分科会では一貫して、企業とNPO/NGOとの対話の場をつくるワークショップを実施してきました。今後はもっと多くの企業とNPO/NGOとの継続的な対話がなされ、多くの連携創出に繋がっていけば良いと思います。
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白木 朋子
認定NPO法人ACE事務局長/ 共同創業者
大学でインドの児童労働を研究したことをきっかけに、大学在籍中に代表の岩附とACEを創業。英国大学院留学、企業勤務を経て2005年4月より現職。2008年以降は、カカオ産業の児童労働撤廃をめざした現地プロジェクトの立案、企業との連携、消費者向けの教材や映画の開発、メディアや国際会議での発信、ガーナ政府との制度構築など、多様なステークホルダーを巻き込んだ活動を展開。サプライチェーンの労働・人権、SDGsに関する研修なども実施。
http://acejapan.org/
三沢 行弘
公益財団法人WWFジャパン 自然保護室 プラスチック政策マネージャー シーフード・マーケット・マネージャー
企業などで国内外の事業の企画・推進に携わった後に、WWFジャパンに入局。「2030年までに世界で自然界へのプラスチックの流入をゼロにする」というWWFのビジョン実現に向け、政策決定者や企業関係者に働きかけ、プラスチックの大幅削減を前提とした資源循環型社会の構築に向けて取り組む。また、企業の持続可能な水産調達への転換を推進。
https://www.wwf.or.jp/
市原 実
NPO法人「日本で最も美しい村」連合理事
1942年、千葉県生まれ。慶應義塾大学・法学部卒。丸善(株)勤務後、中小企業診断士資格を取得。
長崎総合科学大学教授を経て、山梨県立大学教授。専門は、地域振興・地域経営。一般社団法人 日本温泉協会 温泉検定実行委員会委員(元理事)。NPO法人 まちづくり協会常務理事。任意団体 日本民泊連合理事。社会福祉法人 八ヶ岳名水会・評議員、日本経営診断学会、実践経営学会、総合観光学会、日本温泉地域学会、自治体学会、等に所属。
https://utsukushii-mura.jp/