高校生がスポーツを通じた健康寿命、オーバーツーリズムの解消などにアイデア絞る――第5回SB Student Ambassador ③九州大会
サステナブル・ブランド ジャパン編集局
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全国の高校生が、来春のサステナブル・ブランド国際会議への出場を目指して社会課題解決のアイデアを磨く、「SB Student Ambassador ブロック大会」。全国9大会のうち九州ブロック大会は、10月12日に福岡大学七隈キャンパス (福岡市)で開催され、計11校から83人の高校生が顔を揃えた。基調講演では、同じZ世代のアクティビストから、サステナビリティを追求するキャリア形成のきっかけを学び、多くの刺激を受けたようだ。(市岡光子)
開会式で同大の永田潔文学長は「未来を担う高校生の皆さんに、最新のSDGsに関する取り組みについて知識を深めてもらいたい。また、高校生の価値観や社会への期待を参加者全員で共有し、持続可能な社会の構築につなげたい」と挨拶。主役である高校生に向けては、「この大会を通じて多くのことを学び、将来の日本、さらには世界の未来を担う人材となるきっかけとしてほしい」と語った。
■基調講演 辻田 創(そう)・Greenpeace Japan、Climate Youth Japanアクティビスト(アクションボランティア・政策提言部門)
自分を多様化すれば、多くのことが成し遂げられる
辻田 創氏
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登壇した辻田創氏は、「異なる組織や分野をつなげる架け橋としての活動」と題して講演した。辻田氏はまず、外資系IT企業に勤めながら、国際環境NGOグリーンピース・ジャパンなどでも活動しており、トライアスロンやドラム、絵、海外旅行など幅広い趣味を持ち、高校生の頃から海外で働くことを考え英語の勉強にも力を入れてきたと自己紹介した。
そして「よく人から、たくさんの活動をしているその原動力を聞かれる。単純に、いろんなことを知っていたり、いろんなことができたり、いろんな経験があったりすると、より多くの人と友達になれるから」と話した。
いろいろな経験を積み多くの友人を得て、自分をブラッシュアップすることで何ができるのか――? 社会課題解決のソリューションを生んだりイノベーションを起こすには、“点”と“点”をつなぐことが必要などとよく言われるが、「つなげるためには自分を認識できていないとつなげられない。自分を知ることで、『こことここをつなげる』『あの分野の取り組みはこの分野ではどう応用できるか』などと考えることができる」と辻田氏は説明し、続けて「まずは自分が多様化することが大事。そうすれば、多くの分野で多くのことが成し遂げられる」と力を込めた。
辻田氏は自分の経験から、高校生たちに伝えたいことが3つあるという。1つ目は、異なる分野と組織をつなげることが、より大きな社会のインパクトにつながるということ。2つ目が、今考えているやりたいことや興味のあることを、社会人になっても諦めずに持ち続けていくこと。3つ目は、自分の価値観や軸は1つでないといけないわけでなく、自分の決めた立場はいつでも変えてもいい、ということだ。
辻田氏自身は、社内で営業戦略チームに異動すること、その後最終的には国際機関で仕事をすることが夢だという。「どれだけ自分の夢や目標を明確にするのかは人それぞれ。僕も最初からこんな解像度で話せたわけではない。皆さんも自己分析や今後の行き先を整理してみて」と、人生の、少し先を行く先輩として高校生にエールを送った。
■2030年までに10億人の健康寿命延伸目指す――味の素グループ
安価でヘルシーなファストフード開発し、SNSで普及を
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高校生が関心のあるテーマを選んで参加するテーマ別ワークショップには、味の素グループ、公益社団法人日本トライアスロン連合、タイ国政府観光庁福岡事務所、YKK APが登壇した。高校生たちは、それぞれの講演からサステナビリティへの取り組みに関するヒントを得て、それを基に90分間グループディスカッションし、独自のアイデアを発表した。
影山陽子氏
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味の素アミノインデックス事業部の影山陽子氏は、はじめに、同社は2030年までに環境負荷を50%削減し、10億人の健康寿命を延伸する目標を掲げていることを紹介した。その具体的な取り組みとして、温室効果ガスの排出削減やプラスチック削減などの環境対策に加え、“おいしい減塩”の実現に向けた「Smart Salt(スマ塩)」の開発や、高齢者の栄養改善を目指したんぱく質を強化した「クノールカップスープ」を展開していることなどを説明した。
事業の基軸になっているのは、100年以上にわたって培ってきたアミノ酸研究の知見を生かしたアミノサイエンスであり、影山氏は、同社の考えるウェルビーイングを単なる健康維持ではなく、“健康で幸せである”ことだと強調した。さらに「高校生の皆さんが今から『食』や『栄養』の重要性を意識することが、将来の健康につながる」などと、若年層からの栄養教育の重要性を訴えた。
講演を聞いた高校生たちは、健康寿命延伸のためのグループワークを実施。安価でヘルシーなファストフードを開発し、SNSを活用して普及を図る試みなど、次々とアイデアが出された。
■「スポーツ×SDGs」でスポーツの価値を高める――日本トライアスロン連合
衣類を再生利用したユニフォームや、規格外野菜を活用したアスリート向け飲料の開発を
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日本トライアスロン連合マーケティング・事務局局長の坂田洋治氏は、「トライアスロン競技の特性を生かし、健康寿命の延伸や自然環境の保全、地域活性化といったテーマに取り組むことが、私たちのSDGsやサステナビリティへの貢献だ」と話した。
坂田洋治氏
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具体的には、高齢者向けの「ゆるトライアスロン」や、障がい者との共生を学ぶ子ども向け体験プログラム、大会で使用する靴のリサイクルや、環境意識を高めるための競技会などを実施しているという。
こうした同連合の活動をヒントに、高校生たちは「SDGsと組み合わせてスポーツの価値を高める方法」について、グループワークを開始した。発表では、不要な衣類を再生利用したユニフォームの製作や、規格外野菜を活用したアスリート向けスムージーの開発など、独創的なアイデアが多数示された。
■タイの実例から考える持続可能な観光の未来――タイ国政府観光庁福岡事務所
機内でルール学ぶクイズや、アンケート機能を持たせたごみ箱の設置を
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タイ国政府観光庁福岡事務所の小宮真一郎氏は、コロナ禍でタイ観光が大打撃を受けながら、2023年には訪タイ日本人観光客数が約188万人まで回復したことを踏まえ、持続可能な観光のあり方を模索している現状を報告した。
小宮真一郎氏
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小宮氏は、プーケット近郊のピピ島で発生したオーバーツーリズムの事例を挙げ、「観光客の過剰集中がサンゴ礁の破壊や水質悪化を招いた」とし、「環境に配慮したサステナブルツーリズムへのパラダイムシフトが急務だ」と指摘した。そして「グリーンからグロー(成長)へ」「負荷最小化から地域成長へ」「受動から能動的な観光へ」の3つの解決策を示した。
現在、チェンマイの伝統的なハーブ療法を活用した地域密着型観光や、山岳地帯でのサステナブルなコーヒー栽培、観光客参加型の海洋環境保護活動などに取り組んでいるという。小宮氏は、「サステナブルツーリズムのヒントは身近な暮らしの中にある」と話し、高校生たちに地域固有の知恵や文化を生かした「観光のネタ」を考えてみてほしいと呼びかけた。
ワークショップで高校生たちは、飛行機内での日本のルール・マナーに関する訪日観光客向けのクイズイベントの開催、アンケート機能を持たせたごみ箱の設置などを提案した。彼らにとって、観光とSDGsを結びつける視点を学ぶとともに、持続可能な未来に向けた意識を深める貴重な機会となったようだ。
■窓から始める「環境と健康の両立」――YKK AP
生活排水の循環や国産木材を活用した住宅構造を実現する
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YKK APからは、サステナビリティ推進部部長の三浦俊介氏が登壇し、日本の住宅における窓の断熱性能の課題と、その改善による環境負荷削減の可能性について説明した。
三浦俊介氏
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三浦氏によると、窓は住宅全体の面積の約10%にすぎないが、夏季は外部からの熱の74%が窓から侵入し、冬季は室内の暖気の50%が窓から逃げている。特に日本では、熱伝導率が高いアルミフレーム製の一枚ガラス窓が全体の70%を占め、他の先進国と比べ断熱性能が著しく低い状況だという。
2030年までに国全体のCO2排出量を46%削減する日本政府の目標において、家庭部門には66%という最も高い削減率が求められるが、これに対し三浦氏は、「トリプルガラス樹脂サッシの導入により、暖房エネルギーを約40%削減できる」と説明した。さらに、「断熱性能の向上は省エネだけでなく、結露やカビの防止、アレルギー症状の軽減、高齢者のヒートショック予防など、健康面でも効果がある」と強調。最後に三浦氏は「建材で社会を幸せにする」という企業理念を示し、環境と健康の両立を訴えた。
グループワークでは、参加した高校生たちが環境負荷の低減と快適な居住空間の実現に向け、知恵を絞った。結果として、生活排水の循環利用や国産木材をふんだんに活用した住宅構造の実現、雨水利用システムの導入など、ユニークな提案が相次いだ。
異なる地域・学校の高校生が、共に社会課題について考えることに意義がある
最後にイベント全体の締めくくりとして、代表チームによる発表が行われた。
味の素の講演を聞いた高校生は、高齢者の外出機会を創出する「マッチング回覧板」を発表した。高齢者同士の出会いの場を提供し、体を動かすきっかけを作ることで健康寿命の延伸を目指す発想が、影山氏から高い評価を受けた。
日本トライアスロン連合の講演に参加したチームからは、バイクレンタルの導入やクラウドファンディングを組み合わせた競技イベントの開催が提案された。発表では併せて、参加への障壁を低減するために、ごみ拾いはゲーム形式にするなどのアイデアを紹介し、競技普及と環境保全を両立させる取り組みが示された。坂田氏は「課題に対する明確な目標設定と具体的な解決策だ」と評価した。
タイ国政府観光庁への提案で、発表したチームは、地域の過疎化や雇用問題に着目したという。郷土料理や農業体験など地域資源を生かした観光プログラムを通じて、若者の定住促進と地域活性化を図る構想を示した。小宮氏は、観光客の行動を事前に考慮したカスタマージャーニーの設計や、観光業を通じた社会課題の解決策が具体的に示されている点を高く評価し、「地域の雇用創出と自立につながる持続可能な提案だ」と称賛した。
YKK APの講演を聞いて、環境負荷の低減と快適な居住空間の実現を考えたチームは、間伐材の活用や省エネ設備の導入など、具体的な環境対策を提案した。三浦氏は「問題意識から解決策まで論理的に展開されている」と高く評価した。
すべての代表発表を聞き終えた辻田氏は、「異なる地域・学校の高校生が一堂に会し、共に社会課題について考え、議論を重ねたことは非常に意義がある」と強調し、「今回の大会が、皆さんの新たな学びや活動のスタート地点になることを願っている」と述べ、九州ブロック大会は盛況のうちに幕を閉じた。