サステナブル・ブランド ジャパン | Sustainable Brands Japan のサイトです。ページの先頭です。

サステナブル・ブランド ジャパン | Sustainable Brands Japan のサイト

Sponsored Contents

“花王らしい”ストーリーをインドネシアのパーム農家と共に――持続可能なパーム油調達を目指す「SMILEプログラム」

  • Twitter
  • Facebook
コミュニティ・ニュース
ミッションは「責任ある原材料調達」の実現と語る、花王購買部の陳 靈佳氏

花王の製品で使われる界面活性剤は、主にアブラヤシから採れるパーム油が原料であり、パーム油生産量の8割以上がインドネシアやマレーシアで生産されている。パーム油は、農園単位面積当たりの収穫量が比較的多く、その高い生産効率性ゆえに価格面でも優位性がある一方、農園の拡大による森林の乱開発や、人権に関わる課題も抱えている。こうした中、同社が取り組んでいる活動のひとつが「SMILE(SMallholder Inclusion for better Livelihood & Empowerment)プログラム」だ。この活動では、小規模パーム農園の生産性向上やRSPO認証の取得を支援。本質的な課題を解決し、パーム油の持続可能なサプライチェーンの構築を目指している。

「SMILEプログラム」を主導する購買部門でこの活動の主担当を務める陳 靈佳(タン・リンチア)氏は、「花王のパーパスである『豊かな共生世界の実現』に向け、購買部門は『責任ある原材料調達』の実現をミッションとして活動しています」と話す。2019年に発表した花王のESG戦略 「Kirei Lifestyle Plan」のなかでも、重点取り組みテーマのひとつに「責任ある原材料調達」が設定されている。

花王の製品にパーム油は欠かせない。同社では最も大切にすべき天然資源のひとつにパーム油を定め、持続可能なパーム油調達に向けた活動を推進。「2025年までにパーム農園までのトレーサビリティを100%完了する」「2025年までに花王グループで使用するパーム油を持続可能なRSPO認証油に100%切り替える」などを目標に掲げた。

こうした中、陳氏ら購買部門が取り組んでいる活動のひとつが、インドネシアの小規模パーム農園への支援だ。「インドネシアはパーム油の世界最大生産国ですが、アブラヤシ生産量の4割が小規模パーム農園によると言われています。しかし、そうした小規模パーム農園では大手農園と比べ、非効率な栽培方法が行われ、RSPO認証に関する知識も不足しています」と陳氏は言う。

そこで花王は、油脂製品製造・販売会社のアピカルグループと農園(プランテーション)会社のアジアンアグリと連携して、「SMILEプログラム」を2020年10月から開始。2030年までに、インドネシアの北スマトラ、リアウ、ジャンビの3州で小規模パーム農園約5000件を対象に、生産性向上やRSPO認証の取得を支援する。さらに、プログラムに参加している農家に向けて、人権や環境、パーム生産に関する苦情や問い合わせを直接受け付ける「花王グリーバンスメカニズム」の導入も開始した。

陳氏は「支援の目的は、パーム栽培に関する正しい知識を伝え、農家の自立を促すもの。具体的には、持続可能なパームの栽培方法やRSPO認証取得に向けた農園管理方法、農園での安全な作業に関する教育などを行っています。SMILEプログラムを通じて、農家は持続可能な農園運営に関する知識を習得し、またRSPO認証の取得後、認証クレジットを販売することで収益を得ることができます。花王は、その農家から認証クレジットを購入することでパーム油の認証比率を高めることができます。農家としても花王としても意味のある活動なのです」と話す。

2023年12月時点で、支援した農園は3083件、RSPO認証を取得した農園は839件に及ぶ。また、ケミカル製品を扱う事業部とも連携し、農園での除草剤散布時に薬剤を雑草に濡れ広がるように展着させる機能性展着剤「アジュバントシリーズ」も農園に無償提供している。「アジュバントの活用により、農薬の使用量を低減することで費用を抑制し、農家の収入改善につなげたい」と、陳氏は話す。

「やっていてよかった!」農家の涙に感動

陳氏は花王に入社以来、購買部門の業務に従事してきた。当時の上司からSMILEプログラムの担当に任命されたとき「正直言うと、何をしていいか分からなかった」と当時を振り返る。「なぜなら、購買業務は原材料の安定的な調達やコスト削減がメイン。思わずためらってしまいました」と陳氏。

しかし、その後プログラムを推進する中で、2023年9月、陳氏は実際にインドネシアのパーム農園を訪問し、現地の農家と交流を図る機会を得た。現地のパートナー企業と共同で行われたSMILEプログラムと花王グリーバンスメカニズムの普及イベントでは、執行役員で購買部門統括の仲本直史氏が登壇。仲本氏による花王の取り組みについての説明中、感動した農家の1人が涙を流し、それを見た陳氏は胸が熱くなったという。「この活動を続けて本当によかった!」と、陳氏は笑顔を見せた。

アブラヤシ収穫の様子
2023年スマトラ島訪問

社内でも徐々にSMILEプログラムの取り組みが周知され、2022年には、部門・会社の域を超えたチャレンジを表彰する「社長賞」のひとつに選ばれている。多くの社員から“嬉しい反応”があり、ある社員からは「なぜもっと早くこの取り組みを教えてくれなかったのか」と言われたという。陳氏は、「購買は日本だけではなくて、アジア、欧米にも多くのメンバーがいます。ヘッドクォーターとして、ESG戦略や調達方針をグローバルでリードしていきたいと考えています」と意欲的だ。

対外的にも、パーム油調達において現地が抱える課題が伝わり、より多くの企業がパーム油の課題解決に向けたアクションを起こすことを期待し、花王の地道な活動の様子を積極的に発信してきた。その結果、興味を持った他企業からの問い合わせに加えて、NPOやNGOからもこうした取り組みを歓迎するメッセージがあった。陳氏は「このプログラムの素晴らしさを、日本だけではなくて海外にも広げていきたいと考えています。そして一般の方や、学生の皆さんにも花王の活動を知ってもらいたいです」と意気込む。

花王にしかできない、花王らしいストーリーを実現したい

責任ある原材料調達と持続可能なパーム油調達の実現に向けた取り組みは、いくら取り組んでも自身では満足していない。「いつももっと上を目指しています」と陳氏は言う。同社ではすでにSMILEプログラム、花王グリーバンスメカニズムに続く、次の活動の検討も開始している。最後に「個人的には」と前置きし、インドネシアに行った時に、現地の衛生状態は決して良いとは言えない状態だと気付いたことから、「農家とその子どもたちが通っている学校に、手洗い教室の実施など、花王らしい活動をしたい」と話した。

「花王の持つ知見を活かすことで農家の衛生状態を改善できれば、花王にしかできない花王らしいストーリーのある『責任ある原材料調達』が生まれると思います」。SMILEプログラムを通じて、陳氏の思いは大きく広がる。

文:松島香織(サステナブル・ブランド ジャパン)
写真:田中亮平