「巡り、繋がり」を見つめ直し、持続可能な地球を目指す――IHRP2024年度活動開始!
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世界各地で活動する大学生が運営し、高校生の研究を支援するNPO法人IHRP。2024年は、全国の高校生23人が社会・環境問題の解決に向けて、異分野融合の視点で研究を行う6カ月間のプログラムに参加、活動を開始しています。その中から今回は、パッケージデザインから社会課題を考える吉岡優里さんと、ロボットの動作が人に与える印象を考える延命寺昭仁さん、「確証バイアス」を防ぐことで誤情報の拡散を抑える方法を考える辻本伸子さんの研究を紹介します。(本文寄稿・IHRP=森垣穂香)
2024年度の活動テーマは「IHRP(Interdisciplinary High School Research Program)2024 巡り、繋がる、地球のいろ。」です。
私たちが暮らしている地球では、さまざまな仕組みが複雑に絡み合っています。物質の循環や人の移動、お金の循環だけでなく、自然に存在しているもの、人間が構築してきた想像のもとで成り立つものが、互いに影響しあうことで社会を支えています。IHRPは、地球環境や社会を持続していくためには、これらの「巡り、繋がり」を見つめ直していく必要があると考えています。
この6カ月のプログラムに向け、8月12~15日に東京・江東区でサマーキャンプを開催し、キックオフを行いました。夏キャンプでは、高校生たちそれぞれが持ってきた問いや関心を共有し合い、分野や個人の関心、課題意識のつながりなど「異分野融合」を体験するためのワークなどを行い、共通の課題を発見したり、新たなコラボレーションの可能性を見出すことができました。今年度もさまざまな分野に関心を持つ高校生が全国から集まり、刺激的な時間を共有しました。
「芋づる」ワークショップで出てきた課題。各課題がつながり絡み合っていることが分かる
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SDGパートナーズのワークショップの様子
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また、今回のキャンプでは、国立環境研究所に講演していただき、研究所の施設見学と、幅広い分野の研究に関するディスカッションが行われました。研究者の方々と直接交流することで、高校生たちは学びをさらに深め、研究の現場で行われている最前線の取り組みを肌で感じることができたようです。さらに、IHRPの活動に協賛していただいているスキンケアなどのブランドを開発・販売している株式会社I-neのオフィスでは、新商品提案ワークショップを通して、企業での研究開発プロセスを学び、実践的な経験を積む貴重な機会となりました。
なぜ大学生が高校生の研究プログラムを作っているのかと、疑問に思われる方もいらっしゃるのではないでしょうか。運営側である私は、「大学生だから」このようなプログラムを作れているのではないかと思っています。ついこの前まで高校生であり、そして同世代の私たちは、高校生が抱える悩みを同じ立場で感じ悩んできました。だからこそ「私たちが高校生のときに欲しかった」そんな思いをプログラムの中に反映していくことで、より高校生のニーズに合わせたプログラムを作ることができるのではないかと考えています。
高校生たちの研究紹介
■吉岡優里(IHRP4期生、西武学園文理高校1年生)
私の研究テーマは「パッケージの色やデザインが社会課題の解決につながる商品の売上に影響を与えるか」です。私は絵を描いたりデザインしたりすることが好きで社会問題についても関心がありました。この研究テーマに決めたのはハワイに行った際、英語が読めなくても海洋生物保護のエシカル商品とひと目で分かるパッケージを見つけたからです。それに比べて日本では、デザインからエシカル商品だと分かる商品が少ないと思いました。
そのため社会問題の解決につながる商品の普及には、どのようなデザインが効果的なのかを研究したいと考えました。しかし学校では探求の授業が始まったばかり。暗中模索をしていたところ、IHRPの募集を見つけて参加を決めました。
夏キャンプでは 同年代の子たちと話したり、企業の方々にお話を聞いたりして視野が広がる経験ばかりでした。コンフォータブルゾーン(今のスキルで対応ができる居心地のいい場所)を抜け、新しいところに行くのは勇気が必要でしたが、それ以上に今後の人生につながる糧となりました。キャンプ後は明治大学・三和裕美子先生の研究室に配属が決まり、ご指導を受け始めたところです。このような機会を与えていただき心から感謝しています。
今後は基礎知識を学んだ後、いくつかパターン別にパッケージをデザインし、アンケート調査をとって結果をまとめたいです。その結果を考察し、いつかは実際に企業とパッケージデザインをコラボしたいと考えています。
■延命寺昭仁(IHRP4期生、高校1年生)
IHRPに参加した理由は、その「異分野融合」というコンセプトに大きな魅力を感じたからです。
私は幼い頃から興味のある分野が多く、科学や哲学、心理学などさまざまな分野に惹かれてきました。しかし、そんな私ももう高校1年生になり、来年には理系か文系かを選ばなければなりません。そうして頭を悩ませている内に「異分野融合」を掲げるIHRPに出会い、このプロジェクトへの応募を決めました。
私の研究テーマは、どのようなデザインのロボットのどのような動作が人に対し好印象、または悪印象を与えるのかを調べることです。
ロボットが家庭や医療の現場で重要な役割を果たすようになりつつある近年において、そんな日常生活に全面的に介在してくるロボットが、人間にとって親しみを持って受け入れられるデザインになっていることは非常に大切だと考えます。今回の研究では、より心理学的な道筋でこの問題にアプローチしたいと思っています。
私はこの研究を通して、ロボットがより広く受け入れられる社会を作り、介護や医療の現場でロボットを必要とする高齢者や受療者、医療従事者といった方々のQOLを少しでも底上げできればと考えています。今後も実験を進めて、ロボットが人間にとって本当のパートナーとなれる未来に貢献したいです。
■辻本伸子(IHRP4期生、吉祥女子高等学校2年生)
私は、自分が正しいと思う情報を支持するような意見ばかりを集め、対立する意見を軽視してしまう「確証バイアス」を防ぐ事で誤情報の拡散を抑える方法を研究しています。
現代では、インターネットなどで情報を得ることは容易になった一方で、情報の信ぴょう性の判断は難しくなっています。「誤情報拡散が原因で社会で混乱・分断が生じる可能性を低くできる方法があれば面白いな」と思ったことと、自分が誤情報にだまされたくないと思ったことがテーマの決め手です。
私は、応募時のテーマから方向性が二転三転していることもあり、見通しが立っているとは言い難い状況ですが、現時点では、確証バイアスを減らす方法を応用したシステムなどを作れたら面白いと思っています。また、昔から研究に対して漠然とした憧れを抱いていましたが、実際に研究をしたことはありませんでした。IHRPに参加できたことで、高校生のうちに研究の機会を持てたことが嬉しいです。
夏キャンプでは、同じ高校生同士で自分たちの研究や社会問題などについて意見交換を行えたのがとても面白かったです。普段の生活では自分の考えに意見をもらう機会があまりないので、新たな視点をたくさん知ることができ、とても楽しかったです。
「巡り、繋がる、地球のいろ。」をテーマに、より広く地球にまつわる課題を解決したい高校生が集まった今年の活動では、それぞれが異分野融合の視点をもち、個人のテーマがつながり合うことを目標としています。IHRPを運営する私たち大学生も、1人の学習者として、これから始まる高校生と共に作っていく半年間のIHRP2024のプログラムでの学びをとても楽しみにしています。