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地域からイノベーションのポテンシャルを引き出す――愛知県にオープンイノベーション拠点STATION Aiが10月オープン

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コミュニティ・ニュース

愛知県は2024年10月、国内最大規模のスタートアップ支援施設「STATION Ai」を名古屋市にオープンする。同市昭和区の鶴舞公園に接した7階建ての施設で、スタートアップ企業の入居を募り、地域企業とのマッチングなどを通してオープンイノベーションの創出を目指す。ソフトバンクの子会社であるSTATION Aiが県から運営を受託し、契約企業向けのオフィス事業や地域交流スペースのディレクション、そしてスタートアップ関係者や学生・社会人向けのプログラムなどソフト事業の実施を行う。

スタートアップと地域産業をつなぎ、オープンイノベーションを生み出すために必要なポイントとは。そして、スタートアップ支援が地域のサステナビリティにどうつながるのか。STATION Aiの佐橋宏隆・代表取締役社長兼CEOと、2022年4月にオープンしたPRE-STATION Aiにて、すでに同施設を活用している環境ベンチャーJOYCLEの小柳裕太郎・代表取締役CEOに話を聞いた。

※PRE-STATION Aiとは
STATION Aiの整備に先駆けて、weworkグローバルゲート名古屋に愛知県が設置した支援拠点。2022年から施設開業の2024年9月末まで、スタートアップのためのあらゆる支援プログラムを実施。

STATION Ai

――愛知県は「本県の強みである圧倒的な産業集積を背景に、モノづくりの伝統や優れた技術・技能との融合による新たなイノベーションを誘発し、本県産業の成長を拡大させるエコシステムを形成する」ことを目標に掲げています。STATION Aiでは、スタートアップと地域産業の融合をどのように進めていくのですか?

佐橋宏隆・ STATION Ai 代表取締役社長兼 CEO ( 以下、 佐橋 )
STATION Aiの最大の特徴は、事業成長を目指すスタートアップだけでなく、スタートアップとともに新規事業を創出したい大手・中小企業(=パートナー企業)も一緒にSTATION Aiに入居することです。オープンイノベーションを生み出すためには、良いパートナーと偶然出会える確率をいかに高めていけるかが鍵となります。もちろんイベント型のプログラム提供や、入居していない地域企業の巻き込みも力を入れていきますが、リアルの拠点を持っているからこその「濃いコミュニティ」を作っていくことが重要です。

パートナー企業は現時点で約160社から申し込みが来ていますね。スタートアップもパートナーも、それぞれが事業形態に応じてオフィスとしてSTATION Aiを利用するプランや、イベント等の参加がメインとなるリモートプランなどを選ぶことができます。

――現在は「PRE-STATION Ai」としてすでに入居を受け付けています。JOYCLEは東京に拠点があるようですが、どのような経緯でSTATION Aiに入居を決めたのでしょうか。

小柳裕太郎・JOYCLE代表取締役社長CEO(以下、小柳):
2022年秋に、愛知県が主催した「Aichi-Startup ビジネスプランコンテスト2022」に参加したことがきっかけです。そこでSTATION Aiの概要を知り、東京一極集中ではなく、愛知県にも拠点を持ちたいなと入居を決めました。私たちはごみのアップサイクル事業を全国のインフラとして展開していきたいと考えていたのですが、製造業が強い愛知県では廃棄物処理に課題がある点で親和性が高く、また、東京以外の地域ではまだ環境ベンチャーがそれほど多くないことも競争力として魅力でした。

佐橋氏

佐橋:「東京と違う」という点は大きいですよね。愛知県にはものづくりの集積地というはっきりした特徴があり、地域の課題が分かりやすいことはアピールポイントだと感じます。例えば製造業のDXや脱炭素事業を手掛けるスタートアップにとっては、東海地方は大きな市場機会として重要になってくるでしょう。実際、現在400社以上集まっているスタートアップの内訳としては、愛知県よりも東京都の会社の方が多い状況です。

「愛知らしさ」を強調すること、つまり日本最大の製造業地域であるというアセットを最大限生かしていくことは、地域全体の活性化に必要です。大手企業だけでなく中小企業も素晴らしい技術を持っていて、スタートアップとの協業ポテンシャルも高い。オープンイノベーションの事例を増やしていけば、地域全体に火が付くと期待しています。

小柳:私たちも実際に、STATION Aiでの出会いをきっかけに、もともとF1カーを作っていた歴史のある企業さまと連携することができました。ポテンシャルを眠らせている老舗の企業さまもまだまだあると思うので、そうした愛知県の「宝探し」をどんどん進めていきたいです。

行政の発信力と、民間のコーディネート力を生かし合う

――スタートアップとパートナー企業との連携については、どのような支援をしているのでしょうか。

佐橋:コミュニティマネジャーというスタッフがいて、常に入居企業が何を求めているか把握するようにしていています。マッチングの可能性を感じたらすぐにおつなぎしています。

小柳:私たちはSTATION Aiのコミュニティマネジャーに対して事業の状況をシェアしながら、「今、どんな企業と出会いたいか」をカジュアルに相談しています。オフラインの場があり、「愛のあるおせっかい」をやいてくれるスタッフにコーディネートしてもらえることで、チャンスが生まれています。

また、入居企業同士のオンラインでのコミュニティも活発に動いています。毎日STATION Aiのオフィスにいなくても、自治体の職員さんを含めて日常的に情報交換ができている点もプラスアルファの価値ですね。

カフェ会の様子

佐橋:小柳さんがおっしゃったオンラインのコミュニティは現在、スタートアップ・パートナー企業・行政関係者など約3400人が入っています。

――愛知県との共同事業である点のメリットとは何でしょうか?

小柳:県が予算を付けて取り組んでいるからこそ、これだけの規模のコミュニティになっていると思いますし、事業経験の豊富なソフトバンクさんが共にSTATION Aiを運営されていることで、スタートアップに対する高いリテラシーで企業活動を、フィールドを持つ自治体さんと理解・支援してくれる。お互いにあるもの・無いものがマッチしていて、「全国のスタートアップは愛知県を生かさない手はない」とすら感じます。

佐橋:地方行政がスタートアップを支援しても、うまくいくケースは多くありません。ただ愛知県の場合は特殊で、大村秀章知事ご自身が前のめりにコミットしている点や、職員もスピード感と柔軟性を持っている方が多いです。ソフトバンクのノウハウに期待されている部分もありますが、事業全体を行政が明確にリードしようとしてくれていることを感じます。

地域全体を変えていくという目標を、知事自身のコミットメントで発信できる点はとても大きいです。私たち単独では「ソフトバンクがビジネスチャンスを狙っている」と思われてしまうかもしれません。地域全体の経済発展を目指していることを、行政側が発信することで説得力が生まれると考えています。

日本を代表する技術や事業が誕生するハブに

STATION Ai

――10月のオープン後は、入居企業以外も使用できるオープンスペースが開放されます。地域の交流拠点としてのビジョンをお聞かせください。

佐橋:さまざまな人が、他者と自然に交わる空間設計をしています。1階、2階、7階が一般の方も入れるフロアになるほか、3~6階の入居企業用オフィススペースも、個室だけでなくフリーアドレスの空間を入れています。契約して入った後に個室に閉じこもってしまうのではなく、コミュニケーションが生まれることで偶然の出会いを増やせればと考えています。

小柳:すぐ近くに大学があるから、地域の学生の方と接点を持てる点も大きいですよね。イベントに学生も巻き込んだり、スタートアップの社員と学生が同じ机を囲んだりして、カジュアルにスタートアップと学生が接点を持てたらいいなと思います。学生側は大手への就職活動以外の選択肢を身近に感じることができるし、私たちもそんな視点を持った学生を積極的に仲間にしていきたいです。

佐橋:私自身も三重県桑名出身なので、東海地方の「偏差値の高い大学に行って、地元の大企業に入れたら良いね」という安定志向の価値観を身近に感じてきました。

ただ、そうした「安定こそ成功」という考えを信じた結果が、30年の経済停滞です。スタートアップこそが成功のシンボルなんだという考えを、STATION Aiを通じて地域全体に広げていきたいし、挑戦することは当たり前だと感じてほしい。それが地域全体のサステナビリティにつながります。そのためには、学生にはあえてリスクテイクする価値を感じてもらうことに大きな意味があるし、地域企業や一般の方にも、起業家という存在が常に身近にある状態を作ることが大切です。

小柳氏

小柳:とても共感します。愛知県が持つリソースとSTATION Aiの支援体制を考えると、繰り返しになりますが、私自身は「起業しない手はない」と考えています。

当社は「資源と喜びが循環する社会を創造する」ことをミッションに掲げています。ごみのアップサイクルによるサステナビリティはもちろんですが、喜びの循環、つまり「恩返し」も重要です。オープンイノベーションと恩返しは裏返しで、自分だけが成功しようとしても協業はうまくいかないですよね。私たちがスタートアップとして成功する姿を見せて、地域にもSTATION Aiにも恩返しをしたいです。

佐橋:地域のポテンシャルを最大化するためには、「スタートアップが成長するために既存産業の力を生かす」「既存産業がより魅力的な事業にアップデートするためにスタートアップの力を生かす」というように、スタートアップと既存事業がともに成長するオープンイノベーションこそが必要ですよね。

そして、愛知県の既存産業が持つ技術力・人材の豊かさと、スタートアップの革新性やエネルギーが融合したとき、これからの日本を代表する技術や事業が誕生するポテンシャルは計り知れません。それを実現するため、私たちがハブとなって東海エリアのスタートアップエコシステムを発展させていき、いつか「STATION Aiがオープンイノベーションの聖地」と呼ばれるように尽力していきます。

文:横田伸治

STATION Ai 10 月31日 グランドオープン
※会員向けオフィスフロアは10月1日より開業
詳細はこちら(URL) https://stationai.co.jp/