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必要なのは、企業と消費者がともに踏み出す一歩。 サステナブル・シーフードで、日本から水産業を変えていく

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コミュニティ・ニュース
株式会社シーフードレガシー
代表取締役社長 花岡和佳男
一般社団法人エシカル協会
代表理事 末吉里花

いま、世界の水産業界ではサステナビリティを追求する動きが活発化している。日本でも漁業法が約70年ぶりに大改正され、「水産資源の持続的な利用の確保」が明記されるなど、水産業界は変革の時を迎えている。そんな中「日本の水産業のサステナビリティ推進」を掲げて毎年開催されてきた「東京サステナブル シーフード・サミット(TSSS)」が今年、第10回を迎える。10月8~10日のサミット開催を前に、サステナブルな水産業や豊かな海の継承のために何ができるのか、TSSSを主宰するシーフードレガシーの花岡和佳男社長とエシカル協会代表理事の末吉里花氏が対談した。

―花岡さんはシーフードレガシーを立ち上げられ、TSSSを2015年から開催。 今年は 「サステナブル・シーフードを主流に」をテーマに掲げています。末吉さんも一般社団法人エシカル協会を設立されました。それぞれどういった活動をされているのでしょうか?

花岡:シーフードレガシーの仕事は、簡単にいうと「企業、国、NGOなどが行う持続可能な水産物への取り組みをサポートすること」です。例えばサステナブルな水産物の調達、供給体制の構築支援や、金融機関の投融資実現サポート、政府や国際機関の水産資源関連の施策実施への参画などを通して、「海における環境・社会・経済の共存を可能にする」ために活動をしています。

TSSSの名前にも掲げている「サステナブル・シーフード」とは、水産資源や海の生態系、海洋生物の育成環境に配慮した漁獲・養殖を行い、これに関わる労働者の人権尊重、安全の確保などにも配慮した水産物のことを言います。

末吉:私たちが手に取りやすいものでは、「水産エコラベル」が付いている水産物などですよね。MSC「海のエコラベル」やASC認証といったラベルを、店頭で見たことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

MSC「海のエコラベル」
MSCジャパンウェブサイト:https://www.msc.org/jp
⽔産養殖管理協議会(Aquaculture Stewardship Council)が管理運営する養殖に関する国際認証制度  https://jp.asc-aqua.org/

エシカル協会では、人や地球環境、社会や地域に配慮したエシカルという考え方を全国に普及啓発しています。主に、知る機会を提供するために、講座や講演を実施しています。最近は、私自身がさまざまな政府の審議会や委員会の委員として参加をさせていただいており、国の施策策定に向けた議論の中で、生活者目線で意見・提言などを行っています。また、義務教育における啓発も重要だと捉え、教科書執筆や出張授業などを通じて、未来世代の教育活動に力を注いでいます。

活動のきっかけは、いつのまにか「加害者」になっていたことへの気づきから

花岡:私は高校卒業までシンガポールとマレーシアで育ち、スキューバダイビングが大好きでした。色彩豊かで多様性に満ちた海中世界に魅了され、大学でも海洋環境学、海洋生物学を学び、海と共存する社会の実現を目指すようになりました。そんな私が日本に戻ろうと決心したのは、マレーシアのマングローブの森が、日本で消費するエビを大量養殖するために伐採されているのを知ったからでした。

当時、現地で「マングローブを伐採しなくても豊かな未来を創れる」と語り、新たな養殖方法を推進する仕事をしていました。ですが、実は自分の母国が加害者側にいたことを知り、違和感と大きなショックを受けて日本に戻り、水産業のサステナビリティを推進しようと、シーフードレガシーを設立しました。

末吉:私がエシカルの活動を始めたきっかけも少し花岡さんに似ていますね。TBS系のTV番組「世界ふしぎ発見!」でミステリーハンターをしていたときのことです。「キリマンジャロ山頂にある氷河が2010年〜2020年くらいには完全に解けてしまう」という科学者たちの発表を受けて、消えゆく氷河を実際に見に行くことになりました。

登る途中に小学校があり、子どもたちが植林活動をしながら「再び氷河が大きくなりますように」と祈っていました。氷河の雪解け水の一部が彼らにとっては生活用水となるため、なくなってしまうのは死活問題。ショックなことに、山頂で確認した氷河は、本来の大きさと比べると1割から2割程度しか残っていませんでした。その光景を目にしたとき「私は残りの人生をかけて、こうした問題を解決するために活動をしよう」と心に決めました。

「サステナブルの追求」が、水産業でも、消費者のなかにも根づきはじめた10年

-ともに2015年の設立ですね。この10年で取り巻く環境はどう変わりましたか?

花岡:水産業にとってはかつてないパラダイムシフトが起きた10年と言って良いでしょう。もともと日本は世界最大の水産大国といわれ、世界第三位の輸入水産物市場を持っています。何百種類もの魚を食べる、世界的にも特徴的な魚食文化が根づいており、10年前には「魚を獲り過ぎるのをやめよう。魚の成長サイクルにあわせて、サステナブルな水産業を始めよう」と語りかけても、理解してもらえませんでした。

末吉:確かに10年前だとサステナブルやエシカルといった言葉すら知らない人のほうが圧倒的に多かったですからね。特に、日本人にとっては日々の食卓に魚があるのは当たり前。「え? この先食べられなくなるの?」と魚が有限であることを疑う人も少なくなかったと思います。

花岡:それがこの10年で、「サステナブルを追求するのは当たり前」という捉え方に変化しました。水産業で言えば、その背景には2020年に漁業法が「持続可能性」を見据えた形に大改正され、2022年にはIUU(違法・無報告・無規制)漁業で漁獲された水産物を、日本市場から排除する水産流通適正化法が施行された。漁業法の大改正は実に70年ぶりのことでしたし、水産物の流通を規制する法律ができたのは日本で初めてのことです。これらの大胆な舵切りが強力なメッセージとなり、日本の水産業界に「サステナビリティを追求しなくてはならない」というマインドセットが急速に浸透してきました。

末吉:エシカル協会を立ち上げた当初、企業からは「エシカルって利益になるの?」と言われました。そんな中でSDGsが採択され、菅元総理大臣が「2050年までにカーボンニュートラルを目指す」と宣言しました。これに背中を押される形で、サステナビリティを経営の柱に据える企業も多く出てきました。消費者のマインドも少しずつ変化しています。以前は「エシカルって何?」という人が多かったのですが、今では若い人たちを中心に認知が広がっています。2021年に中学、2022年に高校の教科書にエシカル消費が掲載されるようになり、今では親が子どもから学ぶ、という状況が生まれています。

花岡:消費者の皆さんの声に応えるべく、売り場に並ぶサステナブル・シーフードも増えました。さらにこの流れを加速させたいと、私たちは「サステナブル・シーフードを日本の水産流通の主流に」を、2030年までに叶えるべき「2030GOAL」として設定しました。

末吉:消費者にとって「サステナブルな選択肢が増える」ことは、とても嬉しいことですね。ぜひ実現してほしいゴールです。

「海は次世代からの借り物」、だからこそ100%の自信で引き継いでいきたい

-貴社が2030年達成を目指す水産業の姿について、もう少し具体的に教えてください。

花岡:まず私達は、津々浦々の漁業コミュニティが後継者に溢れ活気に包まれる姿を想像し、「生命力あふれる海が身近にあり、海に関わる全ての人が笑顔と活気に包まれ、未来に希望の明かりが灯る世界」をビジョンとして掲げています。そして、これを実現するために、生産現場に十分な改善インセンティブを提供するマーケットとそのサプライチェーンをつくることを、セオリーオブチェンジの中核に置いています。「2030GOAL」はその旅路のマイルストーンですね。

私達がマーケット側でイメージしている2030年は、「消費者が魚を選ぶ時に環境や社会への負荷を心配しなくていい社会」です。流通している魚が全てサステナブル・シーフードになれば、これは実現できる。そもそも私は「海は次世代からの借り物」だと思っています。だからこそパーパスにも「海の自然・経済・社会の繋がり(その象徴としてのシーフード)を豊かな状態で未来世代に継ぐ(レガシー)」を掲げています。

一方で、生産現場に対して思うことは、私達がこの市場変革により作り出したいのは、大規模でシステマチックな漁業だけが生き残る未来ではない、ということです。日本には、全国各地の漁港で小規模漁業を営む方も多い。豊かな魚食文化を育んだ日本の漁業スタイルを維持しつつ、その一つひとつが元気になるような「独自のスタイル」を築いていきたいです。

末吉:日本中の漁業コミュニティが元気な未来。その旗振り役にシーフードレガシーがなっていくということですね。

花岡:そうです、特に企業側からサステナブル・シーフードの需要をつくり市場を広げることが大事だと思っています。需要が無ければ、商品はつくれない」ということはありませんから。

末吉:よく企業側から、消費者が求めていないから作れない、といった意見を聞きますが、今の消費者が欲しいものを作っているだけでは、ただのビジネスです。むしろサステナブルに価値を置く消費者をどう形成し、新しい市場を創出していくかにチャレンジしていただきたいです。企業は自社の製品やサービスを通じて、消費者の教育者になることができるのです。

企業と消費者が「共に行動する」こと

末吉:一方、消費者にできることもたくさんあります。まずは知ることです。海で起きている課題を知り、それに対して何ができるのかを考えること。また、その課題について友達や家族と話をしたり、「サステナブルな商品が欲しい」とお店にリクエストをして声を届けることも立派な行動です。もし余裕があれば、認証ラベルが付いた製品を購入し、ぜひそのおいしさと背景の物語を周りに共有していただきたいです。人それぞれ、自分の状況に合わせて無理のない範囲で、できることから始めればいいと思います。

花岡:スーパーなどで見かける「お客さまの声」を使ってみるのもいいですよね。企業は「1つのお客さまの声の後ろには100人のお客さまがいる」と考える。実は「1人の声」は大きな力を持っています。

末吉:そうです、「買い物は投票」です。日本のGDPの5割強は個人消費なので、一人ひとりの声はとても大きな力を持っていて、その声が社会を変えていく力になります。

花岡:企業は情報をしっかり発信し、自ら新しい価値を消費者に提供する。そして消費者は企業に声を届け、本当に欲しているものを伝える。双方向からの働きかけがあれば、水産業は変わっていけると、私は信じています。

末吉:「一緒に行動する」ということですね。「もしあなたが活動を止めてしまえば、あなたも問題の一部になる。でも、もしあなたが頑張って活動を続けていけば、あなたは問題の解決の一部になれる」。これは以前、パタゴニアの創業者のイヴォン・シュイナードさんからいただいた言葉です。要は“行動あるのみ” なんですよね。

10年目のTSSSは、アジア圏でイニシアチブを発揮

―10年目となった今年のTSSSは、どんな内容になりますか?

花岡:今年も国際機関、政府、企業、金融機関、NGO、アカデミアから多くの専門家やステークホルダーが集い、それぞれの活動内容を発表、共有することで、新たな連携や行動を生む機会にしたいと考えています。

1日目は市場変革をテーマに、多くの企業様の講演などを通して「市場からサステナビリティの潮流を強化しよう」と発信します。2日目は政策転換をテーマに、国際条約や国内法制度における進捗や展望を踏まえ、日本の水産業のサステナブルな成長と未来について考えます。そして3日目には金融関与をテーマに、金融機関による水産企業群への関わり方、今後の連携について考えます。

末吉:今年のプログラムからは、「日本だけでなくアジア圏でのイニシアチブも取っていこう」という意志も感じられます。

花岡:全体的に「日本・アジア圏」と銘打ち、世界有数の水産大国である日本から起こす「サステナブル・シーフードを主流に」という波を、水産業界の成長が著しいアジア圏にも広げていこうとしています。今回のTSSSには、大日本水産会の会長、全国漁業協同組合連合会の代表理事も参加していただけて、日本の水産業全体が「サステナブルな水産業」を目指して、足並みを揃えられるのではとワクワクしています。

末吉:ワクワク感は大事ですよね。私も「一緒に未来を良くしていくって楽しいことだよ。ワクワクするよ」とよく発信しています。

花岡:TSSSでもワクワク感も共有していきたいですね。初めて参加する方にも、前向きな気持ちになってもらえるようなイベントにしたいと考えています。

末吉:先ほど紹介したイヴォンさんの言葉にもありましたが、私たちは知らない間に加害者になってしまうような複雑な世界を生きています。だからこそ、解決の一部になれるよう、ぜひみんなで一緒に行動していきたい。TSSSに参加をしてくださること自体、大きな一歩ですし、共に社会を変えていく仲間との出会いがあるかもしれません。1人の100歩よりも100人の一歩が世界を変える力を持っているはずです。

花岡:TSSSは、最初は400人規模のイベントでしたが、今や、これまでの述べ参加者は約1万人を超え、アジア最大級のフラッグシップ・イベントに成長しました。末吉さんのおっしゃる「世界を変える大きな力」がここにはある。ぜひ今年もたくさんのステークホルダーの皆さまにご参加いただき、一緒に価値ある一歩を踏み出していきたいと思います。次世代に誇れる今を、海を、私たちの手でつくっていきましょう。

文:笠井美春  写真:和田 勉

東京サステナブル シーフード・サミットTSSS2024
2024年 10月8日(火)~10日(木) @東京国際フォーラム
参加費:無料
申込み:要事前登録、申込みはこちら≫≫ https://sustainableseafoodnow.com/2024/
※対談に登場したエシカル協会代表理事の末吉里花さんも、10日(木)のオープンニング特別セッションに登壇予定です。