サステナブル・ブランド ジャパン | Sustainable Brands Japan のサイトです。ページの先頭です。

サステナブル・ブランド ジャパン | Sustainable Brands Japan のサイト

コミュニティ・ニュース

企業・自治体・団体の共創力が生み出す、新たな価値を実感できる場に――第6回未来まちづくりフォーラム座談会レポート

  • Twitter
  • Facebook
サステナブル・ブランド ジャパン編集局

まちづくりに取り組む企業、団体、研究者らで構成する未来まちづくりフォーラム実行委員会は、2月21・22日に東京・丸の内で「未来まちづくりフォーラム」を開催する。今回で第6回を迎え、「Regenerating Local」をテーマに、日本が直面する地方創生の課題や取り組みに焦点を当てながら、企業のサステナビリティ・アクションや自治体との協働事例を共有、議論する。フォーラムに先駆けて12月20日に開催された座談会では、実行委員会のメンバーがそれぞれの現在地や視点を意見交換した。

笹谷氏

笹谷秀光・未来まちづくりフォーラム実行委員長(以下、笹谷):「不確実性の時代」とは言われますが、2023年を振り返ると、ウィズコロナの模索、地球環境、安全保障の3点をはじめ、本当に先が読めない時代になり、大局的な目線を持たないとリスク管理ができなくなりました。そのための羅針盤となるSDGsという国際合意は世界、日本でサステナビリティの共通言語として定着しました。日本でもかなり認知度が高まっており、取り組みが加速していると私は評価しています。

一方、各企業では、SDGsの社内浸透というだけでなく、社員がしっかり「力量」を発揮できるかどうか(コンピテンシー)、そしてそのためのツールが重要になってきています。アップスキリングやリスキリングという表現もありますが、2023年が「人的資本経営元年」、2024年は人的資本経営を実装しなければいけない段階です。

この未来まちづくりフォーラムでは、皆さんの共創力で新たな価値を作ることを基軸に据えています。フォーラム自体が共創を実感できる場となって、社員のコンピテンシー向上に力を注ぎたいと考えている方々に、優良事例からヒントを感じていただきたい。世界が注視する大阪・関西万博に向けても、2月のフォーラムやこの座談会を、SDGsに自信を持って取り組むために相互に学ぶ仕組みにしていきたいと思っています。皆さん、頑張りましょう。

影浦氏

影浦亮平・千葉商科大学サステナビリティ研究所 副所長:(笹谷氏が所長を務める)サステナビリティ研究所は2023年3月に発足し、さまざまなプロジェクトを進めています。例えば教育分野では、ESG教育を実際に推進している学校をユネスコスクールとして認定し支援しています。また、コーポレートガバナンスに関する研究としては、サステナブル人材の定義を落とし込もうとしていますが、まだ途上です。未来まちづくりフォーラムを通して、それぞれの企業の葛藤や動向を学びながら、研究と社会貢献の両面で活動していければと思っています。

笹谷:サステナビリティ研究所がある大学はまだ少ないので、企業の皆さんとはぜひコラボしていきたいと思っています。では各社からも、フォーラムに向けた思いを語っていただけるでしょうか。

自社が自ら動く地域創生と、その全国展開へ

野坂氏

野坂千博・熊谷組 経営戦略室サステナビリティ推進部長:当社では、木を製材する際に発生する「バーク」と呼ばれる木の皮を原料としたバイオマス燃料を開発しました。5月に運営会社を設立し、木質バイオマス燃料の製造販売事業に着手したところです。この燃料は、バークを調達した山林がある地域で製造し、その地域で電力を供給するという地産地消のエネルギー循環システムを目指しています。

当該燃料開発は、CO2削減や地域の林業活性化に資するだけでなく、もう一つ大きな効果があります。バークには、現在使い途がなく廃棄物処理されており、放置されると山の保全機能が低下したり、土砂災害時に都市に流出すると処分に多くの労力を必要とする等の社会課題があります。そこで、このバークを積極的に利活用することでこれらの社会課題が一気に解決に向かうことが期待できます。現在その効果も含め、多くの地方自治体に興味を持ってもらっています。まずは1地域でスタートしますが、 全国に展開していきたいと考えています。

また、先ほど社内への浸透という話がありましたが、当社では、社員が169のSDGsターゲットの中から自身の業務に関わっていると思われるものを1つ選び、人事評価表に記載するという「My SDGs」を導入しました。達成したかどうかで評価には影響しませんが、上司や同僚との対話ツールとして活用しています。

山本氏

山本圭一・NTTコミュニケーションズ ソリューション&マーケティング本部 ソリューションコンサルティング部 地域協創推進部門 第二グループ グループリーダー:昨年のフォーラムで発表させていただいた群馬県長野原町と当社の取り組みも、今年度は5地域に採択していただきました。我々もようやくビジネスとして展開できているのかなと感じています。

NTTコミュニケーションズとNTTドコモは2021年10月に合併して、法人事業としても2022年に統合されましたが、それまでNTTコミュニケーションズはナショナルアカウント向けの大規模営業を、NTTドコモは地域貢献に根差したビジネスを展開していました。これが一緒になって1年が経ち、ようやく社内文化としてなじんできており、「Smart Comfortable地域社会の創造」というミッションのもと、NTTコミュニケーションズがやってこなかった地域の取り組みに焦点を当てています。

長野原町での取り組みは、当社の社員がDXアドバイザーとして地域に常駐して、町と議論しながら課題と解決策を探るというサービスです。基盤は全国共通化しますが、課題は地域によって異なるので、地域ごとにカスタマイズしていかないといけない。自治体DX推進には、やはりきちんとその地域に向き合うことが大切だし、実際そうすることで他の地域からも声がかかっています。2月のフォーラムでは、その進化版として、群馬県草津市の観光協会と組んで実践している、観光客のトータルサポートサービスの仕組みを紹介しようと考えています。

並木氏

並木順之・NECネッツエスアイ 経営企画部 部長:当社の特徴は「自社実践」です。サービスをお客さまに提供する前に自分たちで使ってみて、課題を改善し、それから提案しています。例えば、2023年3月に本社を移転しましたが、気候変動対応の緩和の観点から、本社での電力使用量削減の実証実験をしています。人流データを組み合わせて、最適な電力消費に抑えつつ、社員が働きやすい環境もつくっています。他にも、共創活動を強めることで川崎市の技術センターでは、メガソーラー発電・蓄電や、データセンター向けにサーバーの液体冷却による電力消費削減を実験しています。そうして自社で実践していく中で、温室効果ガスScope1、2の削減目標「実質ゼロ」を2050年から2030年に大きく前倒して発表しました。

また、地域へのサービス展開としては、従来から無線事業で防災に取り組んでいたこともあり、適応の観点を踏まえ、激化している自然災害への対応を進めています。災害時に現地に駆けつけられない場合でも、バーチャル技術を併用して災害対策を再現できるようなソリューションを作り、日本橋にある自社オフィスを兼ねたショールームでは、お客さまに体験していただける場を設けています。フォーラムでは、自治体様をはじめ皆様とお話をして、当社のDX実装力を活かした価値提供とは何かを見出す機会とし、社会課題解決への更なる貢献につなげたいと考えています。

以前の価値観では生き残れないコロナ後の世界

小寺氏

笹谷:3社の皆さまのお話を踏まえ、小寺さん、町野さんにコメントをもらい、田口さんにまとめをお願いしようと思います。

小寺 徹・一般社団法人CSV開発機構 専務理事:ビジネスは、アフターコロナで180度変わるということをフォーラムでも毎年お話ししていますが、なかなか大手の企業に響かないな、とじくじたる思いでいます。実は当団体で10月に、「SDGs以降の最重要生存戦略」というタイトル、「サステナビリティを儲かるようにする」という副題でシンポジウムを開催しました。実際その2軸でサステナビリティを実行していかないと、日本企業は生き残れないはずなのですが、まだまだ意識が希薄だなと感じています。コロナの影響や円安もあって、海外企業のポケットマネーで日本企業が買えるレベルになってきた時、外資が本当に押し寄せてきたときに日本企業は生き残れるのかなと危惧しています。

SDGsの社内浸透は進んでいても、企業としては「どの事業にどう結びつけるのか」が課題だとも聞いています。当団体では、サステナビリティを表層的な理解にとどまらせることなく、事業の一環として自分事にするような実証トレーニングを進めていて、春ごろに成果をまとめられる予定です。

また、CSVという概念で地方再生に取り組む動きも激しくなっています。CSVの専門家である名和高司先生から「3年後の未来は誰も分からないが、30年後の未来は自分でつくれる」とご教示いただきましたが、中途半端にシンクタンクに頼むのではなく、自分で企画に落とす方法で、自治体は本当に変わってきています。大手企業に何かを頼むのではなく、地元の企業と住民を大事にして、どうしたら地域経済圏をつくれるかを真剣に考え始めている。

私はいつも「大手企業をパートナーとして巻き込みましょう」と言っていますが、未来のまちづくりとしては間違いなく地方が主導していくと思います。もちろん大手企業しかできない大きなこともありますが、「地域にどれだけコミットするか、腹をくくってやってください」と伝えています。先ほどのNTTコミュニケーションズのお話も「ついにここまで来たか」という思いで、NTTだからできるのか、山本さんのお人柄なのかは分からないですが、自分で動きだしているというところをぜひ、フィーチャーしてほしいなと考えています。

笹谷:本業を忘れるとCSVとして成り立たない。企業は競争優位を忘れないCSVでなければ続かないですね。

町野氏

町野弘明・一般社団法人 ソーシャルビジネス・ネットワーク 代表理事:我々は現在さまざまな社会課題解決プロジェクトを進めていますが、中でも文部科学省と一緒に「ソーシャルイノベーション人材を育成する」というテーマでリカレント教育に取り組んでいます。いろんな企業や研究機関にもヒアリングする中で、サステナビリティが真の意味で浸透していれば良いのですが、「浸透という名前の拡散」になっていないかという懸念が見受けられます。

SDGsが広がり、メディアにもあふれていて、さらに拡散したことで、SDGsがブーム化してフォーカスがぼけていないかと感じます。熱しやすく冷めやすい日本で、SDGsが成熟してアクションや人材育成につながるか、あるいはブームとして消費されてしまうか、非常に大事なタイミングに来ています。この点を自覚することと、その上でポジティブな方向にかじ取りしていくという意志が大事だと思います。今回のフォーラムでも、このポイントがどう風景として見えてくるかを楽しみにしていますが、皆さんと共有・共感しながらより良い方向に進む流れがつくれればいいなと考えています。

田口氏(右)

田口真司・エコッツェリア協会(一般社団法人大丸有環境共生型まちづくり推進協会)コミュニティ研究所長:サステナビリティを推進する上で、やはり社会課題を解決する側がしっかり課題をアップデートしなければいけない。5年、10年前の課題を追いかけても、現状は大きく変わっているので、私たちも大事にしているポイントです。小寺さんのお話で、地域が活性化しているというのは私も非常に感じています。ですが、正直に言うと、首長以下が大変頑張っている自治体と、事なかれ主義で予算を分配している自治体とが分かれていて、町野さんの言うようにポジティブに動いていかないといけない時代かなと思っています。

大企業の皆さまだと若手社員の育成がポイントかと思いますが、年齢に応じたキャリア形成型では、変化が大きいこの時代ではうまくいきません。むしろ「人材育成は事業づくり」で、必要な事業に必要な機能をアップデートし、必要に応じて学んでいくという時代になっていると思っています。

地域の話で言うと、当協会の「丸の内プラチナ大学」の小宮山宏学長がよく「食もエネルギーも、資源は地域にある。東京には人と情報があり、それらを掛け合わせる必要がある」とおっしゃっていますが、今日のお話の中では、木質バイオマスや地域のDXのような大規模な投資は大企業がやるべきことで、地域とお互い対等に議論して、強みを生かしながら新しいまちをつくっていかなければいけないと感じました。まさにそういった取り組みを進めている皆さまなので、当日のフォーラムをとても楽しみにしています。

笹谷:一昔前の価値観が通用しないという点は、不幸なことにロシアによるウクライナ侵攻がサプライチェーンでそれを実感させてしまいました。現在、食糧やエネルギー、物価が変わり、物価が変わると金利が変わり、経済情勢全体が変わるということに直面しています。その中で、「自分のSDGsが見え始めた」という話がありましたが、社員の力には大変大きいものがあります。社員みんなが自律的に進化し始めると、あっという間に「SDGsのバッジやマークを付けていた頃があったな」と過去形になる。知らないうちにそうなっていくだろうと思いますし、そういう人間の力というものは信じていいと考えています。

また、山本さんが「Comfortable(快適な、心地よい)」という言葉を出しましたが、これはSDGsでは十分に具体化されていないもので、私は「SDGsの169ターゲットを当てはめる規定演技を超えた自由演技で、いわばSDGsの18番目の目標」だと考えています。今回登壇いただく各社や実行委員企業も、Comfortableなど各社の強みを生かして18番目の目標の自由演技に取り組む段階に入っている。「自由演技」には模範が無いので大変ですが、発信していけば、必ずリアクションが出てきます。そしてイノベーションにつながります。

SDGsをブームで終わらせないためには、地に足を付けて、積極的にプラットフォーマーとして「自分たちが仕切る」という姿勢で実装し、相互にリアクションし合いながら、事業を修正していくことです。多様なステークホルダーとの「パブリックリレーションズ」が重要です。つまり、関係者との良好なリレーション(関係)構築を行うことです。特に「メディアリレーションズ」が重要です。会社の殻に閉じこもらずに他の事例をクロスチェックできる「未来まちづくりフォーラム」という情報の受発信と交流の場を活用していただければと思います。

<第6回未来まちづくりフォーラム 開催概要>
https://sb-tokyo.com/2024/program/miramachi/

◆開催テーマ:サステナビリティが主流の時代、羅針盤「SDGs」で協創力
◆会 期:2024年2月21日(水)・22日(木)
◆場 所:明治・安田ヴィレッジ丸の内、東京国際フォーラム
◆主 催:未来まちづくりフォーラム実行委員会
◆協 賛:NECネッツエスアイ株式会社、NTTコミュニケーションズ株式会社、株式会社オカムラ、株式会社熊谷組、株式会社JTB、日本製紙株式会社、日本製紙クレシア株式会社、明治安田生命保険相互会社
◆特別協力:サステナブル・ブランド国際会議(株式会社 博展)
◆後 援:内閣府、総務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省、全国知事会、全国市長会、全国町村会、一般社団法人CSV開発機構、一般社団法人全国地ビール醸造者協会(JBA)、一般社団法人ソーシャルビジネス・ネットワーク、エコッツェリア協会(一般社団法人大丸有環境共生型まちづくり推進協会)、一般社団法人チームまちづくり(申請中)