愛媛・三浦工業の「紙ンバックプロジェクト」 古紙再生から始まる企業間パートナーシップで地域貢献を目指す
三浦工業の主力商品のボイラー(ショールーム)
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愛媛県松山市でボイラーや水処理機器などの製造販売を行う三浦工業が、県内のパートナー企業らとともに取り組んでいるのが「紙ンバックプロジェクト(カミンバックプロジェクト)」だ。エプソンの乾式オフィス製紙機「PaperLab(ペーパーラボ)」を使い、古紙を価値あるものに変え、地域社会へ循環させていきたいという思いからスタートした異業種合同プロジェクト。今年4月にその第1弾として、地元中学校での“出前授業”とワークショップが行われ、8月には同校が三浦工業の古紙再生現場を見学した。なぜ、紙とは関係のない事業を行っている三浦工業が、古紙の再生に取り組んでいるのか。そして、異業種の企業とタッグを組んでいるのか。プロジェクトの中心メンバーらに話を聞いたところ、持続可能な社会づくりに必要な“パートナーシップ”実現のための重要なヒントが見えてきた。
Interviewee
八木宏昭・三浦工業 ブランド企画室 室長
西森桂三・三浦工業 ブランド企画室 印刷課 係長
夏井拓郎・三浦工業 ブランド企画室 印刷課
正岡敦・第一印刷 本社 制作部 課長
紙ンバックプロジェクトの概要 出典:紙ンバックプロジェクトHP
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ペーパーラボ導入が社外活動のきっかけに
──まずはこの「紙ンバックプロジェクト」の経緯についてお聞かせ下さい。
夏井拓郎さん
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夏井:設立 60周年の2019年にペーパーラボを導入し、印刷課を中心にリサイクルプロジェクトを立ち上げたことにさかのぼります。当初は社内で出る古紙を再生し、名刺やノベルティグッズなどを作っていたのですが、ちょっと行き詰まりまして……そんな時に第一印刷さんと知り合い、お互いの会社に訪問し合う機会を通して、じゃあ何か1つ形に残るものを作りましょうということで始まったのがこのプロジェクトです。
──そもそも、ボイラーなどの機械を作っている会社なのに、なぜ印刷課があるのでしょう?
西森:ボイラー関係の取扱説明書や、それに付随するチラシ、カタログなどを作成、印刷しています。
八木:ボイラーは産業用の機械なので出荷台数が少ないんです。しかも、仕様によって取扱説明書の内容も違ってきますので、外部の印刷会社さんに頼むより、自社で内作したほうが小回りがきくんです。また、突然の印刷内容の変更などにも対応できます。
八木宏昭さん
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西森:あとは障がい者雇用の観点です。現在、印刷課のメンバーは5人で4人が身体障がい者です。さらに雇用を増やそうと創設された「ミウラジョブパートナー」という特例子会社から4人のメンバーが支援で入り一緒に運用していく目的で導入されたのが、ペーパーラボです。
西森桂三さん
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──御社のCSR活動に、ペーパーラボが一役買っているということですね。しかし先ほど「行き詰まったこともある」とおっしゃっていましたが、それはどういうことでしょう?
夏井:当初は、それまで外部で処分していた機密資料などの紙類を、ペーパーラボで新たな紙に生まれ変わらせることを目的にやっていたのですが、名刺やノベルティグッズ以外の活用方法が思いつかなくて……もっと他にも活動ができないかと悩んでいました。そんな時に、たまたま上司の知り合いの第一印刷さんに、見学に行かせてもらうことになったんです。紙のプロの仕事を見れば、考え方も多少変わるのではないかって。
印刷課に導入されているペーパーラボ
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──見学に行ってみてどうでしたか?
西森:面白かったですね。同じ印刷でも、社内向けと社外向けとでは機械からして全然レベルが違いますし、ノベルティグッズ制作もしており、ものすごく勉強になりました。
夏井:私は、規模が違い過ぎて、参考になるというよりは、ただただ圧倒されたっていう感じですね(笑)。
──第一印刷さんとしてはどうでしたか?
正岡:せっかくのご縁なので、今度は我々が三浦工業さんへ見学に行かせてもらったんです。印刷課の設備を見させていただいたのですが、社内印刷のレベルを優に超える最新設備に驚きました。そして、何より目を引かれたのがペーパーラボです。これは紙のリサイクルの究極版だと衝撃を受けました。
正岡敦さん
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西森:第一印刷さんがペーパーラボで作った名刺を褒めてくれたんです。「すごく良い」って。実は、社内では再生紙特有の質感が「お客様に渡しづらい」と不評でした。しかし、第一印刷さんにそう言ってもらった時に、「自分たちがやってきたことは間違ってなかった」と、自信がつきました。
ペーパーラボの再生紙で作った名刺
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再生紙で作られたノベルティグッズ
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正岡:すごく柔らかい風合いを感じたんですよ。リサイクル云々ではなく、純粋に紙として魅力があるなと。あとは三浦工業さんの熱意ですよね。ペーパーラボの紙を使って、ノートやカルタ、プラネタリウムのキットなどさまざまなものを、創意工夫して作り出していらっしゃる。同じ印刷業として共感したというか、「負けていられないぞ」という気持ちになりました。それと同時に、「この人たちと一緒に何かしたい」と強く思ったのです。
パートナー企業との連携と上司の理解が成功のカギ
──何をやるかはすぐに決まったのですか?
西森:いえ。両社のメンバーが集まってディスカッションしたのですが、1時間たっても良いアイデアが浮かびませんでした(笑)。
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正岡:ただし、「ノベルティグッズや商品を作るのは違うよね」というのは当初からありました。普段我々を支えてくれている地域の方々に恩返ししたいという方向性が見つかってからは、トントン拍子で話が進んで行きました。
──FC今治を運営している「今治.夢スポーツ」との連携はどのようないきさつですか?
夏井:地域の子どもたちにペーパーラボを使ったSDGsの出前授業をやろうということになって、「じゃあ学校選びはどうする?」となった時、普段我々は学校とは全く縁のない会社なので、どこにどんな学校があるか、それこそ連絡のとり方も全く分からなかったんです。
八木:そこで、地域貢献活動に積極的で、多くの学校にネットワークを持っている今治.夢スポーツさんに、「プロジェクトの説明をし、どこかにいい学校はないですか?」と相談したのがきっかけです。弊社は今治.夢スポーツさんの教育事業の支援をしています。
地域貢献活動のノウハウを持つFC今治と連携 提供:今治.夢スポーツ
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──出前授業をやってみてどうでしたか?
夏井:そもそも私達がリサイクルについて何もわからなかったので、まず古紙会社やごみ処理施設などに見学に行きました。
正岡:逆に私達が勉強になりましたね。
西森:そんな状態でも実現にこぎつけたのは、理解のある上司のおかげだと思っています。「とりあえずやってみればいい。やってみないとわからない。失敗したら失敗したでいいじゃないか」と声をかけてもらったことが、大きな励みになりました。
──実際の授業はいかがでしたか?
正岡:すごく緊張して、全員顔が青かったのを覚えています(笑)。でも始まってみると、生徒さんが予想外に積極的で、熱心に見て、聞いて、ディスカッションしてくれて……先生方やスタッフの皆さんもすごく丁寧にフォローして下さって、本当につたない授業でしたが、なんとかやり遂げることができました。
出前授業の様子 出典:紙ンバックプロジェクトHP
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西森:ワークショップでは、明日からできる地球環境に配慮したアクションを考えてもらったのですが、子どもたちの発想がすごく柔軟で面白かったですね。シャーペンの芯も温暖化の原因となっているので、折らないで使うとか、大人にはないアイデアが未来を変えるのかもしれないと実感しました。
──プロジェクトは今どういう段階にきていますか?
西森:4月に今治明徳中学校で出前授業をした後、8月には生徒さんたちが弊社のリサイクル施設に見学に来てくれました。それと同時に、4月から生徒さんたちに回収してもらった古紙およそ5000枚を受け取り、それをペーパーラボで再生紙にし、あゆみ(愛媛県の学校で使われている計画帳・連絡帳)とメッセージカードにアップサイクルしているところです。9月中旬に贈呈式を行う予定です(取材は8月末)。
生徒たちにペーパーラボの仕組みについて説明 出典:紙ンバックプロジェクトHP
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一番の成果は「自分たちの成長」
──プロジェクトの今後の予定と、プロジェクトを通じて得たものについて教えて下さい。
西森:今やっているプロジェクトはこの9月で一区切りつくのですが、ぜひまた次のプロジェクトをやりたいですし、今度は別のパートナー企業さんを含めてできたらいいなと思います。
正岡:さまざまな企業と一緒に取り組めるのがこのプロジェクトの良さだと思います。SDGsの17番目に、〈パートナーシップで目標を達成しよう〉という項目がありますが、まだまだ企業間で連携したり、地域や自治体の方と一緒に取り組んだりする事例は少ないと思います。パートナー企業の皆さんに活動を知っていただくきっかけにもなるので、積極的に声がけしていきたいです。
夏井:三浦工業については、ボイラーの会社ぐらいにしか思ってない人がまだまだいっぱいいると思います。このプロジェクトを通じて、環境に対する取り組みも行っていることを、もっと知ってもらえるようになればと思います。
八木:印刷課の仕事はなかなか外に出る機会がないのですが、このペーパーラボをきっかけに、社外の方との付き合いができ、非常にやりがいが生まれ、仕事の幅も広がったと思います。社内活性化の点でも非常に貢献度が高いと思います。
会合などで使う再生紙のランチョンマット。印刷課の活動を社内外にアピール
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西森:八木が言うように、一番の成果は自分たちが成長できたことだと思います。まだ始まったばかりで、これからどのように展開していくか分かりませんが、関わっているメンバー一人ひとりが自主的に取り組み、そして成長していければ、ひとまずこのプロジェクトは成功といえるのかなと思っています。
──第2弾、第3弾も期待しています。本日はありがとうございました。
一同:ありがとうございました。
ペーパーラボの前で
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インタビュー写真・高橋慎一