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北九州市の地域資源の循環プロジェクト「KAMIKURU」とは(1)――価値共創の駆動輪は市民の活動

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八幡東田まちづくり連絡会の網岡健司会長(左)とNPO法人「わくわーく」の小橋祐子理事長

北九州市を舞台に展開する「紙の循環から始める地域共創プロジェクト」KAMIKURUは、地域内の各所で出る不要な紙を集め、エプソンの乾式オフィス製紙機「PaperLab(ペーパーラボ)」によって新たな紙へとその場でリサイクルし、再び地域内で活用する実証実験だ。自治体、まちづくり連絡会、企業、NPO、教育・研究機関が連携する。地域の歴史に裏付けられた市民活動と、産官学民の連携による地域の価値共創とは。そして単に「資源リサイクル」に留まらないKAMIKURUが生み出す価値とは、どのようなものだろうか。

「KAMIKURU」全体のスキーム(公式HPより)

北九州市、八幡東田地区の「九州ヒューマンメディア創造センター」内に設置されたPaperLabには、同地区内で回収された古紙が続々と集まってくる。機械を操作して古紙を再生紙に生まれ変わらせているのは、障がい者就労支援サービス「わくわーく」の利用者や、時には高校生などの若者たちだ。新たな紙はプロジェクト賛同団体に還元・配布されるほか、「わくわーく」がアップサイクル品を制作・販売する素材となる。

中心にあるのはエプソンの製品「PaperLab」だが、「地域共創プロジェクト」と銘打たれているように、単に紙をリサイクルするだけではない価値を創出しているのがKAMIKURUだ。産官学民の連携を「4輪駆動」と説明するのは、八幡東田まちづくり連絡会の網岡健司会長。同氏と、実際の製品運用を担う障がい者就労サービス事業を手掛けるNPO法人「わくわーく」の小橋祐子理事長に、KAMIKURUの詳細を聞いた。

「顔の見える関係」生み出すプロジェクト

――「KAMIKURU」プロジェクト開始のきっかけはどのようなものでしたか。

網岡健司氏(以下、敬称略):北九州市は国内ではSDGs未来都市に選ばれ、アジアでは唯一OECD(経済協力開発機構)の「SDGs推進に向けた世界のモデル都市」に選ばれている都市です。市はこれまでも、私たち「八幡東田まちづくり連絡会」とも協業しSDGsについて先進的に取り組んできました。

一方で2019年に、エプソン社に八幡東田地区に製品開発の拠点を設置いただいてから20周年の記念セレモニーの関連事業として、市の環境学習施設である環境ミュージアムでSDGs企画展を行うことになったのですが、その中核として同社のSDGsへの取り組みを体現する製品である「PaperLab」の実機の展示を行いました。

この企画展で「PaperLab」と出合った際に、私たちが最も感銘を受けたのは、Dry Fiber Technologyなどの環境技術だけでなく、この製品の開発コンセプトです。プリンターのメーカーでありながら、「そもそも紙を使うということそのものに対してアクションを起こさないと、エプソンとして社会的責任を果たしていないのではないか。その課題を解決するために開発したのがPaperLabなのです」というお話を聞き、これはSDGsの取り組みの最先端だと、とても共感しました。

この企画展を契機として、北九州でPaperLabを活用して何かSDGsの実践的なアクションを起こしたい、と話す中で、同機を行政や企業に導入するのではなく、地域の中で共有して、地域の人と一緒なってその活かし方を考えるような社会実証ができないか、という想いが芽生えてきました。その考えにエプソン社にも賛同していただき、「紙の循環から始める地域共創プロジェクト」としてKAMIKURUが始まったのです。

コレクティブ・インパクトという言い方を私たちもしていますが、KAMIKURUプロジェクトはその誕生の経緯も含めさまざまなステークホルダーが関わるというプロセスが重要だったと考えています。

――ステークホルダーの関わりをつくるということが、行政や、まちづくり連絡会の大きな役割にもなりますね。

網岡:はい、北九州市のSDGs推進室に全面協力していただいています。市庁舎の中で不要になった紙を集めたり、それを名刺などに再生して活用したりという活動はもちろん、市内の学校や団体に参加のお声がけをいただいています。

一方で市内全体に広くプロジェクトを展開することを優先してしまうと、個々の顔が見えなくなってしまいます。PaperLabが設置されている「九州ヒューマンメディア創造センター」がある八幡東田地区を中心に、顔の見える関係をつくっていこうと、私たち八幡東田まちづくり連絡会も会員企業・団体と一緒に参画しています。

――八幡東田まちづくり連絡会はどういった組織でしょうか。

網岡:八幡東田地区は1901年の官営八幡製鐵所操業開始以来、我が国の産業革命発祥の地として発展を続けてきた地ですが、産業構造転換などの経済社会環境の変化に伴い、工場跡地の大規模な再開発事業を開始し、1990年にスペースワールド(2017年に閉園)をトリガープロジェクトとして北九州市の新たな都市拠点に成長してきました。本まちづくり連絡会は2000年から、この八幡東田地区のまちづくりを推進するため設置された団体で、約70の立地企業・団体や住民等により構成されている組織です。

この地は、「鉄の都」として、ものをつくり、価値をつくることと、これを使う、消費することとのバランス、両立を図りながら発展してきましたが、それは今のサステナビリティに通じた考え方と言えます。私たちはまちづくりの一環として消費を担う大型の商業施設などにも進出いただきましたが、新たなものづくりを担う企業にも是非本地区に来ていただきたいという想いから、エプソンの拠点誘致に官民一体で積極的に取り組んだ経緯があります。

※撮影時以外はマスクを着用

コミュニティ創出の活動にNPOも共感

――行政と企業だけでなく、NPOや学校、教育・研究機関が連携していることも「KAMIKURU」の特徴ですね。

網岡:はい。NPO法人「わくわーく」や中学校、高等学校、大学など、多様な関係者に関わっていただく体制ができています。「産官学民」が4輪駆動となり、今後も色んな関係者の広がりが出ることを楽しみにしています。

小橋祐子氏(以下、敬称略):私たちは設立して12年目になる障がい福祉サービス事業所の運営などを行うNPO法人です。わくわーくの拠点にプリンターを設置するというお話を、たまたま網岡さんがいらっしゃった時にお話したところ、エプソンのPaperLabの話を聞き、KAMIKURUに参加することになりました。

私たちNPOのビジョンは「互いを認め合いこころ穏やかに安心して暮らせる社会」で、地域コミュニティや環境をテーマにした活動もしています。これまでの活動の中でも地元の素材を生かしたお菓子づくりや、放置竹林の問題の啓発からスタートして、そこで伐採した竹を使った楽器作りといった活動も行っています。KAMIKURUのお話を聞いたとき、このプロジェクトは私たちのコンセプトにぴったりだ、ぜひKAMIKURUの参画団体の一員として並びたい、と思いました。

心も体も健康であるためには、周りの環境もきちんと整っていなくてはならない。地球環境や食べ物といったことにも関わる人が意識を持つような活動をしなければならないという思いは、「わくわーく」立上げに関わったメンバーがそれ以前から持ち続けていた思いでもあります。ここ数年でSDGsが社会の中で知られてきているように、世の中がサステナビリティを意識する流れになっていることで、障がいのある方が地域内で活動するときにどれだけ役割が持てるんだろうか、という点でも社会に課題を投げかけやすくなってきています。それがKAMIKURUへの参加の動機のひとつでもあります。

網岡:PaperLabをすでにお使いになられている他地域のユーザーの中には、例えば特例子会社を設立されてPaperLabの運用や利活用に障がい者の方に関わっていただく取り組みをしているといった事例もありましたので、本プロジェクトにもそのような多様性、社会包摂性につながる社会実証の要素を取り入れるべきだろうと考えました。個人的にも、「わくわーく」さんとは、これまで既に様々な活動をご一緒しており、「同志」として本プロジェクトに参画いただけるものとお声がけさせていただきました。

――実際にPaperLabを運用している現場の様子はいかがでしょうか。

小橋:PaperLabの実際の運用は、障がい福祉サービス事業所の利用者さん4名と職員が担当しています。PaperLabについては実は、環境ミュージアムに展示しているときに一度、職員が使ったことがあったんです。そこで操作が容易なこともわかっていたので、KAMIKURUプロジェクトに参加するときにも迷いありませんでした。施設外就労はわくわーくとしても初めての試みでしたが、利用者さんにはもちろん事前に詳細な内容を共有していて、KAMIKURUに自分たちが関わることが大きなモチベーションになっているということです。実際に今、利用者さんが操作していますが、自分で紙の枚数を決める、色を調整するといった機械の操作は、本人の自信につながってすごくいいんです。

作業をする上でエラーが出ないよう気を付けるところもあります。丁寧にすればするほどエラーも起きないので、現場での仕事の取り組み方に関しても、利用者さんの工夫ができるし、こういう風にした方がいいんじゃないというアイデアも出てきます。

地域の価値共創は「市民の活動を駆動輪に」

――KAMIKURUのような地域の価値共創プロジェクトを、ほかの地域でも実現できるでしょうか。そのコツは。

網岡:地域の価値共創は、行政や企業が主導するだけではなく、市民が主体的に活動に関わっていかないと本当の課題の解決につながらないのではないのかと実感しています。北九州市では市民参加型の「北九州市SDGsクラブ」が設置されているように、市民活動で色んなことをやっていこうという土壌がありました。

北九州市における市民活動の歴史としては、公害の克服がありました。1960年代の高度成長期、北九州は我が国の経済発展を支え、活気に溢れていました。この時期、製鉄所で働く職員は約5万人、その関連会社の職員や家族、関係者を含めると製鉄所に何らかの関係があった市民は30万人以上いたのではないかと言われています。100万都市の約3割です。そして、当時、工場の煙はむしろ街の繁栄、発展の象徴で、「七色の煙」といって小学校の校歌にもされていたくらいです。

しかしその一方で工場排煙や生活排水等により大気や海の汚染は深刻さを増していきました。お子さんが喘息になるといった家族の健康被害も実感されてきて、婦人の中から「青い空と海が欲しい」という声が上がり、市民に広がり始めました。

北九州の公害克服の特徴は、この運動が、ただ工場の操業を止めて昔に戻りたいという運動ではなく、「製鉄所と青い空と青い海が共存する新たな未来をつくりたい」と市民も企業も行政も考えたことだったと思います。そして実際に、市民活動から始まり、これに行政、企業が連携して公害対策に取り組み、70年代から80年代にかけて環境は大きく改善され、「青い空と海」を取り戻すことができたのです。そのプロセスと成果が、市民のDNAとして引き継がれていることが、北九州の環境活動の駆動輪が市民であることのベースにあるのかもしれません。

小橋:私は八幡地区で生まれ育ち、工場の煙も恐らく子どもの頃に見ていました。小学校の校歌には「煙れ大空」「轟け大地」という歌詞が出てきます。決まった時間に工場の大きな音が聞こえるんですね。工場によって町が繁栄し、それから工場が閉鎖されていく姿も見ていく中で、社会の風潮がサステナビリティということに着目している今はすごく感慨が深いです。

――環境負荷を低減しながら、同時に社会性や経済合理性を確保するということを実践されていたわけですね。今のサステナビリティ、SDGsの考え方そのものですね。

網岡:リサイクルというと「再資源化さえすれば良い」と思われがちですが、大量生産、大量消費、大量リサイクルの社会システムを継続することそのものが持続可能とは言えないのではないかと思います。また市民がその大量処理システムのプロセスを知らないことも危険だと思います。

市民はそのプロセスを知った上で、選択をしたいはずで、一部でも身近な場所でそういう過程が見えることが大事です。そのような意味で、単に「リサイクルをする」ということと、循環型ということは根本的に違うのかな、と感じています。特にKAMIKURUは、紙にさらに付加価値を創出するアップサイクルを市民の手で実現している点で、従来のリサイクル活動とは一線を画しています。KAMIKURUは社会実証としてプロセスを重視していますが、もしさらに踏み込んで新しい紙の生産から考えて、その再生品の開発・製造や販売方法なども含めてデザインされた格好になれば本来のサーキュラーエコノミーの姿に近づくと思います。

北九州市の地域資源の循環プロジェクト「KAMIKURU」とは 後編は11月に掲載予定です。後編ではKAMIKURUが実際にどのような価値を創出しているのか、その背景にある考え方や思いを、網岡氏、小橋氏が語ります。

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