高校生による海洋プラ問題解決プログラム運営を終えて「次は何をしよう?」
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選抜された高校生が海洋プラスチック問題の解決策を研究、提案する「海洋プラ問題を解決するのは君だ!高校生✕研究✕社会問題解決プログラム」の成果発表がサステナブル・ブランド国際会議2021横浜で行われた。参加者たちが半年間に渡ってアイデアを出し、議論を繰り返し、それをかたちにしてきたこのプログラム。ゼロから全体を企画し、専門家や企業、団体を巻き込み、そして実際の運営まで、そのすべてを自主的に行った実行委員会も、高校生によって構成されている。実行委員長を務めた大森 智加さんが運営の日々と思いを綴った。(本文寄稿・IHRP=大森 智加)
高校生の、高校生による、高校生のための――
2021年2月24日。みなとみらい駅に降り立った私は、緊張と高揚感でいっぱいだった。高校生の、高校生による、高校生のための研究プログラム。激動の2020年に突如現れたこのプログラムを、私は生涯忘れないだろう。
IHRP(Interdisciplinary High School Research Program)実行委員会は、緊急自体宣言の発令と時期を同じくして発足した。年下であるにも関わらず、直接の知り合いの楜澤はもちろん、住む県すら違う他のメンバーも、私のことを受け入れて仕事を任せてくれたのが、何よりも嬉しかった。
コロナ禍で学校に通えなかった分、有り余る時間が幸いし、発足してからはミーティング三昧の日々を送った。企画のコンセプトは何なのか。いつまでに立案を完成させるか。同時並行で、協賛企業を探すために、手当り次第ホームページからメールを何百通も送った。しかし返事を頂いたのはごくわずか。断られるのも無理もない。か細い支援の糸を逃すまいと、企業や研究者の方々に必死で思いを説明した。
何度、企画書を書き直しただろう。何度、意見が対立しただろう。何度、予定どおりにならずもどかしい気分になったことだろう。七転八倒の企画立案だったが、夏の終りまでには、企画の骨子をなんとか確定させた。出来上がった企画は、当初思い描いていたものとは随分違ったが、本気の議論の末の到達点だった。理解者の数も増え、総勢50名を超えるメンターを揃えることが出来た。
忘れられない出来事がある。SNSで高校生へ参加募集を呼びかけた時、プログラムに全く関わっていない、見ず知らずの大人の方が、「こんなに経験豊富なメンターを揃えたプログラムを、高校生が0から主催しているのはすごい!」と一言を添えて、投稿を拡散してくださったのだ。その記事を見た時の喜びは表現しようがない。多くの方が拡散に協力してくださったおかげで、私達の予想を上回る数の高校生が応募に挑戦してくれた。そして無事に、8月30日のキックオフミーティングで参加者を迎える事が出来た。
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しかし、それからの半年間は苦労の連続だった。受験のため高校3年生のメンバーは抜け、私を含めてもたったの2,3名で運営を担わなければならなかったのだ。今更胸を張って言えることではないが、プログラムの実行委員長、ましてや運営なんて経験したことは一切ない。私が実行委員長になったせいで、プログラムが空中分解してしまわないだろうか。責任の重さを痛感しながら、そして不安を拭うことができないまま、プログラムが始動した。正解の筋道なんて無いし、参考にしたいレールも敷かれていない。裏返せば、自分の思い通りにプログラムを動かせる。私はこの立場を存分に生かして、委員会メンバーと共に、さまざまなワークショップの提案・実現に向けて腐心した。
中でも思い出のワークショップは、「オンライン遠足」である。その名の通り、コロナ禍で実地調査が出来ない代替案として、現地と高校生を生中継でつなげばいいじゃない、という前代未聞の計画だ。中継先は誰にするか、から議論を始め、当日の何倍以上もの時間をかけて構想を詰めた。私は「プラスチックのリサイクル手法の最適化」というテーマ内容に沿ったワークショップ立案を担当した。徳島県にあるプラスチックリサイクル工場の方と一緒に見学動画を作り上げながら、ビーチクリーンを行っている企業の方には生中継でその様子を配信していただいた。当日、画面越しに見える波の質感は、まるで目の前に海があるかのようだった。他の2テーマでもオンライン遠足をきっかけに、参加者と各地との間に繋がりが生まれ、新たなアイデアを生み出すきっかけとなった。
同時に悲しい思いもした。オンライン上での繋がりを保ち続けるのは難しく、また学校が除々に再開するようになると、予想していたよりも時間を割けない状況になる。「プログラムを離脱したい」というメールが届くたび、「委員長としての器量がやっぱり足りないんだ」と自分を責めた。実行委員が膨大な労力を割いて用意したワークショップも参加数が伸びず、本当に学びとなる体験を提供できているのだろうか、と不安に襲われることもあった。振り返っても、もう少しうまくやれていれば、と反省するところもある。
そんなときでも実行委員が私を励まして、私はなんとか持ちこたえることが出来た。そして2月7日には、サステナブル・ブランド国際会議の登壇権を得る3チームを選出した。終始オンライン開催で貫き通すのは、前述したように弊害もあったが、参加高校生とメンター、企業、研究者、運営の実行委員メンバーがお互いに刺激を与え合うことができたというメリットもある。世代を超えた関わりを持てるのは、オンラインで開催することの醍醐味だと言えよう。
ここで強調するが、「登壇出来た、出来ない」の枠に縛られてほしくない、というのが実行委員の一貫した思いである。このプログラムの最終目的は、高校生でも社会課題に立ち向かえる研究に挑戦することである。国際会議に出ることはあくまで手段であって、目的ではない。むしろ、アイデアに優劣をつけようという心構えが、高校生の自由で柔軟な思考を妨げる一因となってしまう。環境問題を始めとする社会問題は一筋縄で解決できるものでは決してなく、一つ何かを解決したら新しく他に問題が発生する複雑性を有している。そのため、比較に用いる基準を設けたところで、うまく機能するものは少ないと私は考える。
そして2月24日までの間、受験から帰ってきた高校3年生の実行委員を中心に、チームごとにアイデアの再構築ならびにプレゼンを指導した。参加者のたゆまぬ努力のおかげで、本番はとても感動的なプレゼンを配信することが出来た。数あるブレイクアウトセッションの中で、動員数ならびに満足度どちらも4位という結果を頂くことが出来たのも、彼らの「社会を変えたい」という純粋な思いと、調査や議論に裏打ちされた圧倒的な自信が視聴者の方々に伝わったからだと信じてやまない。
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「高校生」は中途半端な時期で、声を上げても自分がなにか行動で示せるかと言われたら、行動につなげるまでの時間や環境が整わないのは事実である。しかし、そういった状況を踏まえても、今回のプログラムを通じて、「高校生でも社会実装につなげる力は十分にある」ことが証明できたら、それ以上に喜ばしいことはない。
私が委員長の役職でいるのも残りわずかだ。この半年間、いや一年間、さまざまな障壁にぶつかり続けたが、今ではその困難さえも愛おしいと感じる。参加者、メンター、そしてすべての関係者の方々に、この場を借りて感謝の気持ちを伝えたい。そして私も、社会の変革の一翼を担えるよう、これからますます精進していきたい。
さて、次は何をしよう?