高校生による海洋プラ問題解決策の提案目指すプログラムが始動
楜澤 哲さん(左・駒場東邦高等学校3年生)と峯川 優也さん(渋谷教育学園幕張高等学校3年生)
|
100人の高校生が海洋プラスチック問題の解決策を提案する「海洋プラ問題を解決するのは君だ!高校生✕研究✕社会問題解決プログラム」が8月30日に始まる。実はこのプログラム、参加者、主催者ともに高校生。実行委員会は 発案者である駒場東邦高等学校3年生の楜澤哲さんを中心に、6人の高校生が主となって運営する。メンターとなる専門家や協力企業などに自ら働きかけて実施が実現し、目指すのは現実的な解決策を社会に提案することだ。楜澤さんと、実行委員会で事務主任を務める渋谷教育学園幕張高等学校3年生の峯川優也さんに、プログラムへの思いを聞いた。(サステナブル・ブランド ジャパン編集局)
海洋プラ問題を解決するのは君だ!高校生✕研究✕社会問題プログラム
海洋プラスチック汚染に関連する3つのテーマ(①プラスチック製品の代替手段②プラスチックのリサイクル手法の最適化③プラスチックの海洋環境への影響削減)のいずれかに沿って、参加する100人の高校生がグループにわかれ調査・研究し、独自の解決策をまとめ成果を競う。各テーマの成績優秀グループは来年2月に開催されるサステナブル・ブランド国際会議2021横浜で発表する。参加する高校生は具体的かつ実現可能性のある解決策を作成するため、大学や研究機関、企業、研究者など約30人のメンターからアドバイスを受けながらプログラムを進める。一連の過程は, SNSやオンライン会議などのICT(情報通信技術)を最大限活用する。主催・IHRP実行委員会。プログラム公式ページはこちら
――「海洋プラ問題を解決するのは君だ!高校生✕研究✕社会問題解決プログラム」の概要を教えてください。
楜澤哲さん(以下、敬称略):最終的なゴールはサステナブル・ブランド国際会議2021横浜で、参加者の高校生が課題の解決策を社会に提案することです。今回は海洋プラスチック問題の解決策を、グループごとに半年間でつくります。
プログラムに参加する高校生は全国から募集します。出会ったことがない色んな分野の高校生がグループを組んで、3つのテーマからひとつを選び、解決策を提示してもらいます。
プログラムには2つのフェーズがあります。ひとつは高校生ならではのアイデアを出していただくことです。例えば、大学に入ると研究室ごとにわかれて、そこでコラボをするとなると難しいと思います。柔軟なアイデアを、色んな分野で組み合わせるというのも高校生だからできることかなと思っています。
それだけだとただのアイデアコンテストになってしまうので、メンターとして約30人のプラスチック問題に関する専門家の方に参加していただいています。第2段階として、それぞれのグループの解決案を、きちんと社会に提案できるものになるように、アドバイスをいただきながら研究や調査をしながらつくっていくプログラムです。
――どうして「海洋プラ問題」にフォーカスしたんでしょうか。
楜澤:もともと、科学技術が社会に応用されるような、「社会と科学が出合うところ」にすごく興味があったんです。そこで、技術の実装は何のためにやっているのか考えると、環境問題がひとつ大きくあります。政策や経済だけじゃ解決できなくて、技術や研究も必要になってくる。その間を攻めているプログラムがないな、色んなことが融合している場所に高校生も加わってほしいなと思いました。
環境問題の中でもプラスチック問題にした理由は、僕が個人的にプラスチックに関する研究をしていたからです。
――提案される解決策はビジネスに結びつくと考えていますか。
楜澤:重要なことは、さまざまな分野の考え方を「混ぜる」ことです。例えば科学技術を研究するときにも経済学的、社会学的な側面を考えなきゃいけないですよね。そして、解決策ってインセンティブをつけないと実行されないじゃないですか。社会へ提案する中で、インセンティブという意味では必然的にビジネスの側面も一部に出てくるのかなとは思っていますが、そこで何かを制限しているというわけではありません。
――さまざまなかたちで現実の社会で実現可能な、実効性のある提案を期待されているわけですね。
プログラムHPより
|
「全部自分一人でやろうと思っていました」
――プログラムが発足した経緯をお聞かせください。最初から実行委員会をつくる計画を持っていましたか。
楜澤:それは正直に言って、全然考えていませんでした。3月に(新型コロナ禍で)休校になり、こんなに時間があるんだったら今までできていなかったことをしたいな、と思ってこのようなプログラムを考えたんです。最初は全部自分一人でやろうと思っていました。企業や団体に企画書を送って、ご協力の声掛けをする中で「高校生がやるからこそ意味があるんだよ」と色んな方に言っていただいて、そこで一緒にやってくれる高校生がいるのかなと考え始めたんです。
――IHRP実行委員会の現メンバーの皆さんはもともとお友達だったんですか。
峯川裕也さん(以下、敬称略):僕の場合は、昨年の9月から12月にかけて、東京大学のグローバル・サイエンス・キャンパスという、高校生が東京大学で研究活動をするプログラムで哲くん(楜澤さん)と知り合いました。
楜澤:数人は模擬国連(※第13回全日本高校模擬国連大会)での知り合いです。Facebookで公募も行ってメンバーを集めました。
――国内外の同年代の人たちの活動は意識していますか。
峯川:僕はこういう活動に参加するのは初めてですが、周りにも別の分野でアクションを起こしている友達がいるので、必然的に自分も社会に貢献できないかという気持ちが生まれてくるということはあるのかなと思います。ただ、同年代の大多数の人が行動している、というわけではないですね。
――メンターや協賛社を集めることについて、特別な狙いはありますか。
楜澤:最初に声をかけたのが専門家の方々です。僕たち高校生にはどうしても、経験値として及ばない部分がありますが、逆にその人たちにはできないことを僕らができるとも思っています。それを組み合わせたら面白いんじゃないかと考えました。
今回のプログラムの中で強調したいのが「新結合」という言葉です。いろんな分野への興味がある高校生の中で新しく結合が生まれるのはもちろん、色んな年代や立場の方と高校生が新結合していけば、何か新しいことが起きるんじゃないかなと思っています。
大きなテーマ「文理融合」
|
――プログラムを通して参加者がどのようなことを得ることを期待していますか。
峯川:僕たちは二人とも海外に住んだ経験があって、とても疑問に思っていることがあるんです。日本って高校生の時点で文系と理系をわけてしまうんですよね。僕の学校でも2年生で文系と理系を分け、そこから先は習う内容も全然違うし、グループとしても二極化してしまうようなところがあります。その先の社会を見ても、理系・文系の人たちの道がわかれているように感じます。
プラスチック問題というのは、技術開発の道でも解決策が進展しますが、法律や経済といった面も重要です。プログラムでは「文理融合」ということが大きなテーマで、壁を越えて協力することを経験してもらえればと思っています。
――「自分は理系だから、文系だから」ということが個人的な壁にもなっているかもしれませんね。
峯川:そうです。文系であっても諦めずに理系の研究に興味を持ってもらいたいと思いますし、理系であっても社会的な分野に興味を持ってもらいたいです。
楜澤:それと、これは(実行委員会の中で)僕だけかもしれませんが、模擬国連で決議案を作ったときに「科学技術を開発することを促進する」というような文言はあるんですが、正直に話すと「言っているだけ」という感じがありました。
実際に何かをしてからそういうことを言いたいと思ったんです。「文理融合」というテーマにしても「ほかの分野に興味を持とう」と呼びかけるだけでなく、プログラムを実際に行い、最後に参加者に何かを得てもらうということをしたいと思いました。
――実際の効果を期待する行動は、社会を変える力と同じだと感じます。
楜澤:ですので、このプログラム自体が「狭く深く」を目指しています。すごくたくさんの高校生に訴えかけたいと思えば、本気でやれば数万人の高校生にメッセージを伝えることができるかもしれません。それを実際にやっているのが例えばデモという行動だったりして、きちんと活動している団体はそれを実現しているんだと思います。
でも僕らが注目したいのは、今回の募集人数の100人に何かを得てほしいということです。6カ月間という長めの期間を設定しているのも、「意識」以上のものを得てほしいと思っているからです。それはほかのプログラムやイニシアチブと違うところかなと思います。
社会に提案し、あわよくば何か起きれば――
――8月30日にはいよいよプログラムのキックオフです。ここまでの実行委員会運営の感想は。
楜澤:思った以上に簡単に行動できると思いました。自分次第で、自分からリーチしてみれば、協力してくださる方はたくさんいる。もちろん「高校生だから」ということもあるのかもしれませんが、それも武器として使えるということは気付いたことだと思います。
――プロジェクト後のことはどのようにイメージされていますか。
楜澤:プロジェクト自体は、最初の経緯として、理系と文系が出会う場所、「新結合」する場所として発足しています。今年のプログラムが成功すれば2年目は「新結合」が応用できるほかの分野に議題を変えて行うのも面白いのではと思っています。
今回はサステナブル・ブランド国際会議2021横浜で「社会に提案する」ことをゴールとしているので、そこであわよくば何か起きれば、ということは期待しています。
――新型コロナ禍もあり、社会の先行きは不透明で不安定だと言われています。お二人はどのように感じられていますか。
峯川:コロナ禍でのプラスの変化もあると思っています。プログラムでも日本全国から参加者を集めたいと思っていて、対面に限定すると交通費などの壁に阻まれて機会を失ってしまう地方の方もいたと思いますが、オンライン会議の普及で距離を縮められるというのがポジティブなことかなと思っています。
楜澤:ポジティブ、ネガティブ、どちらも「変化」だとも思っていて、今は変化が「仕方ない」という風潮になっていると感じます。これまで変化が文化じゃなかったというか。変化を嫌っていた人も「仕方ない、変化せざるを得ない」と感じているのかなと。だからこそ最近、環境問題が再燃していると思いますが、そこにうまく乗る必要もあるのかなと思います。プログラムに関してはそれを見据えて始めたわけではないですが――。
――個人的な今後は?
峯川:僕は物理学に興味があって、大学でも物理学を専攻しようと思っています。今は本を読んで自主的に学んでいますが、僕が「すごいな」と思った物理学のことを友達と話してみると、物理というだけでアレルギーみたいな反応をされてしまうことが多いんです。専門的なことをみんなにわかりやすく理解してもらって、壁を取り払えるような社会を実現したいなと思っています。
楜澤:個人的なことでは、僕は今、生分解性プラスチックの研究をしています。僕はこれまで、色んなことに興味を持ってあれも、これもとやってみるんですが結局最後までやらない、ということが多くあったと思います。それで何かひとつのことにすごく興味を持ってずっと研究している人に憧れたり尊敬をしていて、それが研究に取り組もうと思ったきっかけでした。
でもこのプログラムを通して感じているのは、もちろんひとつのことを突き詰める能力はすごく大事ですけど、色んなことに興味を持つことはそこまで悪いことではないのかな、ということです。多角的な視点、さまざまな興味は持ち続けたいと思うようになりました。
大学でやりたいと思っていることは、STS(科学・技術・社会)というプログラムです。例えば法の視点から宇宙開発や海底探査を見る、といった分野です。それって、いろんな科学技術に興味を持ちながらある視点からアプローチしていくということができるのかなと思っています。
エントリーフォーム・応募課題の締切は2020年 8月19日 23:59まで