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カンヌライオンズ レポート

第3回 カンヌ作品に学ぶ世界の動き

亀井 光則

「日本は恵まれているから、社会的課題が少ない」

自分自身を振り返ると、正直この種の発言をしたことがあるし、誰かがこういう話をしたときにウンウンと同意したこともある。しかし今年のカンヌ作品を見直して、考えを改めるべきかもしれないと思い始めている。

レポート最終回では、作品そのものを通じて世界の動きを紹介していきたい。

カンヌライオンズの作品の見方については補足説明が必要だと思う。広告賞でよく見かける映像は「ケースフィルム」と呼ばれる。クオリティが高いので、このケースフィルムそのものが作品だと勘違いされがちだが、これは作品ではなく、作品を審査員に説明するための映像だ。

そのためケースフィルムには①Strategy(戦略)、②Idea(コアアイデア)、③Execution(実行の見事さ)、④Result&Impact(成果・社会的インパクト)の要素が入っている。審査員はこの①②③④で作品の優劣を判断していく。カンヌライオンズのWEBサイトでもダウンロードできる応募要項にもそのことが明記されている。部門は現在27あるが、各部門で重視する項目が違い、重要度を%で表示している部門もある。

例えば、デザイン部門は②Ideaや③Executionを重視し、SDGs部門は④社会的インパクトを重視している。こうした様々な視点で評価され、受賞作品は決まる。SDGs部門の前に、別部門の今年の「顔」と言える作品を2点ご紹介しようと思う。

◆Black Super Market(カルフール)

取り扱っているのは、食料廃棄の問題。EUでは「野菜」の規格が厳密すぎて、店頭に並べられない作物が存在している。無理に売れば違法となるため、これらは大量廃棄されているのだ。この問題に対してカルフールが自ら「闇市(Black Market)」と名乗り違法野菜を販売した、という取り組みである。

実はこの作品は2018年にすでに一度、受賞している。今年再び注目されたのは、素晴らしい成果をあげたためである。その成果とはEUの法律を変えてしまったこと。「農家の方々が40年かかってもできなかったことを、カルフールは8カ月でやり遂げた」。これは一企業にとっての成果を超えて、社会的なインパクトとなった。広告由来のクリエイティビティが、実現できる範囲を大きく広げたと言える。今回はCreative Effectivenes部門で再び評価された。

◆This Able(イケア)

障がい者向けの家具は、機能を追加することでどうしても高額になってしまう。そこでイケアは、障がい者の方々が使いやすいように自社製品に簡単にアタッチメントできるパーツのアイデアを当事者と共創。そのアイデアを3Dプリンタのデータとして全世界に向けて無料提供した。ケースフィルム内でもそのパーツが紹介されていて、イケアの家具のデザイン性を担保したアイデアになっている。ヘルス&ウェルネス部門でグランプリに輝いた。

この作品をはじめとして今年は各部門で障がい者向けの取り組みが多かった。そしてそこには、当事者の方々がより豊かに暮らすことを共に楽しく目指しているという共通点を感じた。Disabilityという言葉を、This Able(これならできる!)とポジティブに言い換えていることにもそれが表れている。

ここからは、SDGs部門の作品をご紹介する。

◆THE LION’s SHARE(マース・オーストラリア)

最初に紹介するのはグランプリになった作品。SDGsの15番目「Life on Land(陸の豊かさも守ろう)」を題材にしている。企業や商品のイメージアップのために、広告に動物を登場させることがあるが、その恩恵をしっかりと動物たちに返すことで動物たちを守っていこう、という取り組みだ。

なんと、動物が出演する広告のメディア費用の0.5%を基金に寄付するプログラムで、すでに1600万ドル(約17億円)の寄付を集めたと述べられている。グランプリの理由としては、取り組みそのものがサステナブルであることだったという。確かにこのプログラムの存在よって、広告に動物を出演させることがよりイメージアップにつながり、それはプログラムそのものの継続を支えることにもつながる。一過性の打ち上げ花火ではなく、無理なく継続できることも、社会的インパクトを高めるポイントかもしれない。

◆ACCESSIBILITY MAT(フォード)

街の中には車椅子で乗り越えにくい段差がある。その段差を超えられるマット、という作品。実はこのマット、その場で段差を乗り越えるだけでなく、そのマットが使われた位置の情報を蓄積し、最終的には街全体のアクセシビリティを高めていくための取り組みになっている。その場の解決で終わらず、街全体を変えていく仕組みになっていることが素晴らしい。SDGs部門でブロンズを受賞。

◆SECOND CHANCES(Donate Life California)

これは賛否両論あるかもしれない。免許証に臓器提供の意思表示をしているドライバーに対して、軽微な交通違反をした際に1回だけ改心のチャンスを与えて見逃してあげる、というプログラムだ。ケースフィルムにはリアルな取り締まりシーンが映されている。カリフォルニアから始まり、各国に広まっていると述べられている。SDGs部門でシルバーを受賞。

◆THE PEOPLE’S SEAT (国連)

クライアントは国連で、主に13番目のゴール「CLIMATE ACTION」を題材にしている。COP24の会議中に、世界の誰もが会議にバーチャルに参加できる「椅子」を用意したという取り組み。この作品は受賞を逃し入選に留まった。結果としては残念であったが、これはSDGsの前文で謳われている「誰一人取り残さない」を体現できる作品であると感じた。こうした姿勢は気候の問題に限らず多くの課題への取り組み方の参考になると思う。

「日本は恵まれているから、社会的課題が少ない」……のか? 上記作品が取り扱っている題材で、日本に無関係の問題があるだろうか。食料廃棄も、障がい者の豊かな生活も、動物保護も、アクセシビリティも、臓器提供も、気候変動も、無関係ではない。いままさに直面している問題も多い。世界はありとあらゆる手を使って問題に立ち向かっている。日本は恵まれているのではなく、単に問題に対する感覚が鈍くなっているだけではないだろうか。我慢強い国民性とも言えるかもしれないが、我慢していても世界は変わらない。

今回ご紹介した作品は6つだが、SDGs部門の上位入賞は22、入選も合わせると延べ約80の作品がある。作品リストはPDFで公開されていて、タイトルを検索すれば動画サイトでケースフィルムにヒットする。このリストは、いま世界を取り巻く問題を敏感に感じとり、クリエイティビティで解決するための、宝の山になるはずだ。

https://www.canneslions.com/enter/awards#winners

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亀井 光則
亀井 光則(かめい・みつのり)

大学卒業後、広告代理店にて広告クリエイティブから販促プロモーションまで幅広く経験。
「テクノロジーとクリエイティブの融合」というカンヌライオンズの潮流に身をまかせて、2008年より凸版印刷へ。印刷テクノロジーを駆使した体験型クリエイティブで、Cannes Lions、CLIO、One Show、Spikes Asia等の海外広告賞を受賞。カンヌライオンズでも議論されていた「Social Good」が、今後さらに大きな流れになる可能性を感じて、再び潮流に身をゆだねることを決意。商品プロモーションから、コーポレート・コミュニケーション領域の部署へ異動。現在、企業ブランディングの文脈の中で、社会にもブランドにも双方に「サステナブル」なことを実践する提案を行っている。
・Cannes Lions 視察5回
・Spikes Asia 2016 ヘルスケア部門 審査員