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脱炭素特集

脱炭素を進める「柔軟性」とは何か〈前編〉――VRE(変動的再生エネ)の重要性

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北村和也

Image credit: shutterstock

温暖化防止の最有力手段として、世界各国は再生可能エネルギーの拡大に注力している。
しかし、一定の導入が進み課題も浮かび上がってきた。例えば、太陽光発電が生む電気が昼間に余り、発電を止める事態となる「出力抑制」はその典型的な例である。

ここでのキーワードは、主に出力抑制の対象となる「VRE(変動的再生エネ)」と、解決策といわれる「柔軟性」だ。
本コラムでは2回にわたり、日本ではいまひとつ広がらない、この2つの用語を説明し、日本での脱炭素実現への道筋を世界の常識の観点から提言したい。

前編は、VREの重要性と、柔軟性による拡大についてお話しする。

世界はなぜVREに注目するのか、その決定的な理由

VREは、先進国をはじめ、多くの国で普通のエネルギー用語となっている。
「Variable Renewable Energy」の頭文字を取ったもので、資源エネルギー庁では、「変動性再生可能エネルギー」と訳している。いわゆる再生エネ電源のうち、太陽光発電と風力発電を指す。
なぜ、他の再生エネ電源と区別するかというと、3つの大きな特徴がある。
まず、上述の英語の用語にある「可変的(Variable)」という言葉である。太陽光発電は昼しか発電しないし、風がなければ風車は回らない。よく登場する“お天気任せ”という性質である。

一方、利点も忘れてはならない。
なんといっても、燃料コストがかからないこと。太陽の光や風に料金が発生しないのは誰でも分かる。これを専門用語では、「限界費用ゼロ」という。
あれ、水力発電の水も地熱発電の熱もただ(=0円)ではないか、と反論もあろう。しかし、水力発電では水量や落差、地熱発電は地中深くまでの距離が必要であることなどから、設置可能な場所は非常に限定される。また結果として建設費用がかなり大きい。ここに線引きがある。

これに比べて、太陽光、風力発電は、もちろん制約はあるが、多くの場所に設置でき、比較的安価に利用することができる。つまり、3つ目の特徴は、誰でも手が届きやすい、普遍性にある。
特に、後半の2つの特徴は、再生エネ以外の化石燃料や原発などの電源に比して圧倒的に有利であり、このため世界各国はVRE導入に懸命になっているのである。

2050年カーボンニュートラルに向けての、太陽光と風力発電の実績と2030年までの導入シナリオ 出典:IEA「Integrating Solar and Wind」

2050年の脱炭素に向けて、各種の提言やデータをまとめているIEA(国際エネルギー機関)は、まさにこのVREに焦点を当て、10月に「Integrating Solar and Wind(太陽光と風力発電の統合)」という報告書を出したばかりである。
IEAのNZE(ネットゼロ排出)シナリオでは、2050年に世界の電力の3分の2を再生エネで賄い、その過半をVREが占めるとされている。上記のグラフは、2030年までのVREの導入のメインシナリオで、2030年には導入容量が2022年の4倍以上になることを示している。

VRE拡大の課題と、6つのフェーズ

前述したが、VRE電源が増えると困ったことも起きる。
太陽光発電が増え過ぎて、昼間に電気が余る事態となり、停電防止などの観点から出力を抑制するケースが、VRE導入の先進国で起き始めている。せっかくの再生エネ拡大に掉(さお)さすことになる。

今回のIEAの報告書は、その対策に重点を置いている。具体的には、各国のVRE導入の進捗などをベースに6つの段階に分類し、ステップごとの対応策を示している。報告書のサブタイトルに、「Global experience and emerging challenges(グローバルな経験と新たな挑戦)」とあるように、将来のさらなる導入拡大のアドバイスになっている。

VRE統合フレームワークの6つの段階 出典:IEA「Integrating Solar and Wind」

上記の図を簡単に訳しておく。

低いフェーズ
 ■フェーズ1:VREは、システムレベルで大きな影響なし
 ■フェーズ2:VREが、システムに与える影響は軽微~中程度
 ■フェーズ3:VREが、電力系統の運転パターンを決める
高いフェーズ
 ■フェーズ4:VREが、ほぼすべての需要を満たす時間がある
 ■フェーズ5:年間を通じて大量の余剰VREが発生
 ■フェーズ6:ほぼVREのみで電力を確保

VREを増やして脱炭素を進めると、電力全体のシステムへの影響が増してくる。ほぼ対応が必要のない低いフェーズから、対応策が必要な高いフェーズに移行することを意味する。さらなる拡大には、一定の手間がかかるということである。
そこでは、「VREのIntegrating=統合」のための対策、「柔軟性=Flexibility」が必要となる。

VRE導入の低い日本が、なぜ「フェーズ4」目前なのか

それでは、世界の再生エネ導入先進国や日本は一体どの段階にあるのであろうか。以下の図では、いくつかの国をピックアップし、2023年から2030年へのフェーズの変化を予測している。

各国のVRE統合の段階(2023-2030) 出典:IEA「Integrating Solar and Wind」

例えば、2030年にはデンマークとアイルランドがフェーズ5の「大量の余剰VRE」の段階に入るとされ、次いで、スペインやオランダ、ドイツ、英国などがフェーズ4の上限に近づいている。 
一方、日本はそれらのVRE先進国に追いつくように、現状のフェーズ3から2030年にはフェーズ4に突入するとの予測である。

しかし、ここで大きな疑問が浮かんでくる。
日本の2023年時点(暦年)のVREの割合は、太陽光発電11.2%と風力発電1%を足して、12.2%にしかならない。一方、フェーズ4に並ぶ欧州各国は、現状でドイツの40%越えを含めてほぼ40%前後まできている。その差はあまりに大きい。日本の導入量程度では、もっと低い段階でもよさそうなのに、どうしてなのであろうか。
※ 環境エネルギー政策研究所(ISEP)の推計

原因のひとつに、太陽光と風力発電のバランスが非常に悪いことがある。日本では昼だけしか発電しない太陽光発電の導入ばかりが進んでいて、夜もカバーできる風力発電がほとんど伸びていない。そのほか、系統の整備など日本での課題はたくさんあり、結果としてVRE拡大へのハードルが上がっているのである。

必ずしも難しくない柔軟性の拡大だが……

それでは再生エネ、VREを増やすためのツールである柔軟性とは何であろうか。簡単に言えば、VREを電力システムに入れやすくするための各種の方策である。
以下に、IEAの報告書から、項目などを列挙したい。

VRE統合のための柔軟性拡大策
 ◆発電所の能力の利用:従来型発電所の使い方の変更や改修など
 ◆予測:VREの発電予測、系統や需要など負荷の予測など
 ◆需要側対策:産業・商用・家庭などの需要側のコントロール(DRなど)
 ◆送電網の容量と利用:増強、VRE抑制、新規VREの立地の安定化など
 ◆系統バランシング:VRE抑制、各種バランシング(市場含む)、容量メカニズムなど
 ◆貯蔵(蓄電):揚水発電、蓄電池、長時間の貯蔵など

個別の説明は別の機会に移すが、いずれも現実的なもので、余剰電力の揚水発電など、すでに普通に行っている対策もある。また、蓄電池などの導入やDR(デマンド・レスポンス)の実用化など進行中のものも少なくない。IEAも、「広く採用されている対策は、多くの場合、簡単なものである」とコメントを付けている。
まず、柔軟性とは、特別高度なわけでも、技術のブレークスルーが必要なものでもなく、さまざまな種類があり、現状で十分に取り込めるということを知ってもらいたい。

しかし、なぜか日本では柔軟性の拡大が進んでいない。その結果、VRE統合のフェーズは、導入量に比して格段に上がってしまっている。VREもそうだが、脱炭素社会に向けてこれだけ重要な、「柔軟性」という言葉を聞くことがあまりにも少ない。

エネルギー、特に電力に関する一種の思考停止、別の言い方を取れば、再生エネに対する誤った固定観念が残されていることがその背景のひとつにある。

脱炭素を進める「柔軟性」とは何か〈後編〉――再生エネ拡大効果の実際では、柔軟性の導入効果などをIEAの予測データなどを使いながら説明したい。また、ドイツやスペインが、なぜ日本より格段に高い再生エネ率を可能としているのか、現状を生んだ日本政府のエネルギー政策を含めたバックグラウンドにも触れていく。

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北村和也 (きたむら・かずや)

日本再生可能エネルギー総合研究所代表、日本再生エネリンク代表取締役、埼玉大学社会変革研究センター・脱炭素推進部門 客員教授
民放テレビ局で報道取材、環境関連番組などを制作した後、1998年にドイツに留学。帰国後、バイオマス関係のベンチャービジネスなどに携わる。2011年に日本再生可能エネルギー総合研究所、2013年に日本再生エネリンクを設立。2019年、地域活性エネルギーリンク協議会の代表理事に就任。エネルギージャーナリストとして講演や執筆、エネルギー関係のテレビ番組の構成、制作を手がけ、再生エネ普及のための情報収集と発信を行う。また再生エネや脱炭素化に関する民間企業へのコンサルティングや自治体のアドバイザーとなるほか、地域や自治体新電力の設立や事業支援など地域活性化のサポートを行う。