サステナブル・ブランド ジャパン | Sustainable Brands Japan のサイトです。ページの先頭です。

サステナブル・ブランド ジャパン | Sustainable Brands Japan のサイト

脱炭素特集

日本のエネルギー政策は第7次計画で転換できるのか――原発回帰、化石燃料継続の流れをNGOら懸念

  • Twitter
  • Facebook
Image credit: shutterstock

日本のエネルギー政策の方向性を示す第7次エネルギー基本計画が年度内にも策定される。日本が世界と歩調を合わせ、再エネを主軸としたエネルギーシステムへの転換を行うラストチャンスとも言われ、気候変動への対応はもちろん、日本の経済や社会をも左右する非常に重要な計画だ。しかし、その大きな焦点である脱炭素電源について、経済産業省がこれまでに7回開催した有識者による会議の議論では、原発回帰、化石燃料の継続利用といった流れが濃厚になっている。これに対し、気候変動イニシアティブ、WWF、自然エネルギー財団など多くの企業団体や環境NGOは原発・化石燃料からの脱却、自然エネルギーの拡大を求める声を上げ、その裏付けとなるデータも示す。本計画の策定に向け、丁寧な議論は尽くされているのか――。現時点でのプロセスを検証した。(環境ライター 箕輪弥生)

経産省分科会では原発や化石燃料の継続利用が主流に

経済産業省では、第7次計画策定に向けて、5月から経済産業省の有識者会議「総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会」(以下:分科会)による議論が始まり、8月30日までに7回開催された。

議論の焦点のひとつが、脱炭素電源に対する需要が高まる中で、それをどのように安定的に供給するかという点だ。斎藤健経済産業大臣が1回目の会議で発言したように、「脱炭素電源が国力を大きく左右する」からだ。

国際的には、パリ協定1.5度目標の遵守に向けて、COP28で、2030年までに世界の再生可能エネルギー設備容量を3倍、エネルギー効率の改善率を2倍にする目標が採択された。昨年のG7では石炭火力の段階的な全廃、2035年の電力システムの脱炭素化が合意された。日本もこれらの目標に賛同している。
しかし、分科会では、国際的な合意事項からは乖離(かいり)するとも思われる話し合いが続いている。

本記事ではまず、7月8日と23日に行われた分科会について、以下にその内容を詳報する。

・7月8日の分科会では脱炭素電源について議論された。経産省は、AIやそれに伴うデータセンターの拡⼤などにより、脱炭素電源に対する需要の拡⼤が想定され、⼤規模な電源投資が必要だと分析し、そのための脱炭素電源をどう考えるかを委員らに問うた。

これに対してこの日意見を述べた14人の委員のうち、11人は再生可能エネルギーと共に原子力発電が重要だと述べ、3人が再エネを中心としたエネルギー政策を推奨した。11人のうち、4人は、「原子力の再稼働・新増設が必須」と積極的に原発を活用することを主張した。

一方で、再エネを中心としたエネルギー政策を主張する委員2人は、経産省が示した原発のコストや電力需要の予測についての精査を求め、原発の新増設・建て替えにおいて、多くの課題があることを指摘した。

7月8日分科会議事録

・7月23日の分科会では、脱炭素電源と共に大きな課題として、日本のエネルギー源の8割を占めている化石燃料について取り上げられた。会の中でも指摘されたが、日本の化石燃料の輸入金額は、2022年に34兆円にまで上昇している。

日本は火力の段階的な全廃について国際的に合意しているが、発言した14人の委員のうち11人が、火力発電など化石燃料による発電の必要性を訴え、3人が早期の全廃を主張した。

火力発電の必要性を唱える委員の中では、「老朽化した非効率な火力発電の削減は進め、トランジション期間においては、火力発電の残存を前提に脱炭素化を進める」「水素・アンモニア、CCSの取り組みを行い、火力電源の脱炭素化を進めるべき」など、対策を施した火力発電を活用しようという意見が多く見られた。

一方で早期の廃止を訴えたある委員は、国際的なルールでは、CO2排出を9割減らす対策を取った火力発電しか認められていないが、現状、日本で行われている対策はそれに達していないと指摘した。

7月23日分科会議事録

上記の議論を踏まえ、経産省は「再エネか原発かといった択一的な議論ではなく、再エネと原発がともに必要」(7月8日)や「化石燃料の安定供給確保は、エネルギー安全保障の観点から重要」「⽕⼒からのCO2排出削減を進める具体的な道筋を⽰す必要」(7月23日)といった意見を共通認識としてまとめた。

これまでの分科会では、電力需要の拡大予想を背景に、原発や化石燃料の継続利用といった主旨の流れが濃厚になっていることが明らかだ。

環境NGOらは「石炭火力・原発を廃止しても電力供給に問題がない」と分析

分科会では委員らの意見が原発、化石燃料の継続的利用へ傾く中、市民団体、エネルギー研究組織、国際環境NGOなどからは、これと異なる意見書が数多く出されている。

経産省が電力需要は拡大すると推測するのに対し、国際NGOのWWFは、人口減や省エネ技術の推進やエネルギー効率の拡大などによって、エネルギー需要は2050年には2021年比で約57%減少すると予測している。

さらに、現状の石炭火力を2030年までに廃止しても、電力供給に問題がないことを、1時間ごとの太陽光と風力の発電量のシミュレーションから導き出している。(WWF「脱炭素社会に向けた2050年ゼロシナリオ2024年版」

WWFジャパン 気候・エネルギーグループの吉川景喬氏は「2050年までに再エネ100%の社会を実現する道筋はある」と話す。

「ソーラーシェアリングなど農業系の太陽光や陸上・洋上風力などを含む国内の再エネのポテンシャルを最大限に活かせば、2030年までに再エネ3倍も可能」であり、「石炭火力は2030年、ガス火力は2050年までに廃止できる」と分析する。

さらに「この実現を左右するのは政府の高い目標と、カーボンプライシングなどの有効な政策だ」と吉川氏は政策の重要性に言及した。

自然エネルギー財団も、2035年に自然エネルギー80%で、原子力発電と石炭火力なしでも、電力の安定供給が可能であることをシミュレーションにより示した。太陽光発電、風力発電、蓄電池を大量に導入し、送電網整備の増強を前倒しすることによって実現できるとする。

同財団の石田雅也研究局長は、電力需要に関しても、「個人のインターネット利用率が急増し、データセンターと半導体の需要が大幅に増加した2000年から2005年にかけても、増加率は5%に過ぎなかった」と分析し、経産省が主張する電力需要の拡大説に疑問を呈す。

企業からも切実な声「生き残るためには化石燃料からの脱却が必要」

Image credit: shutterstock

企業側からも切実な声があがる。気候変動イニシアティブ(JCI)に加盟するソニー、花王、パナソニック、イオンといった日本を代表する企業を含む216団体は、今年7月、2035年までの石炭火力の廃止と、それを実現するためのエネルギー効率改善と再生可能エネルギー導入の最大化を求める声明を出した。

JCIの加藤茂夫共同代表は「再エネ導入とエネルギー効率化を加速し、化石燃料から脱却することは、日本の産業界が国際競争力を発揮しながらバリューチェーンで生き残るために不可欠な道筋だ」と強調する。

加えて、「サプライチェーン全体でネットゼロが求められるうねりは、あらゆる業界で強まる。もはや大手企業だけではなく、中小企業にとっても乗り越えなければならない課題となっている。そのためには、全国で負荷なく再エネを選べ、調達できる制度や環境整備が必須だ」と企業側の要望を代弁した。

国際エネルギー機関(IEA)によると、昨年の世界の再エネの発電設備容量は、前年から50%増加し、来年には再エネが石炭を抜いて世界最大の発電源となる見込みだ。

世界は再エネを中心としたエネルギー転換に向けて加速しており、欧州では、電気だけでなく燃料や熱の脱炭素化や、再エネによる余剰電力の活用、安定性を確保するための柔軟性の導入といった、脱炭素電源を安定して無駄なく使い切るという次のフェーズに入っている。

本来であれば、日本も再エネ3倍、化石燃料の全廃、およびパリ協定という国際的な合意に向けて、バックキャスティング思考で、目標に向けたトランジション(移行期)をどうしていくか、今何をしなければいけないかを議論し、具体的な道筋を考えるのが分科会の役割のはずだ。

第7次エネルギー基本計画は、日本が世界と歩調を合わせ、再エネを主軸としたエネルギーシステムへの転換を行うラストチャンスとも言える。間違った道筋を描いてしまうと、ガラパゴス化して日本の産業界が取り残され、人々が高いエネルギー費用にあえぎ続けることになりかねない。

まずは、検討プロセスにおいて、提示されている多くの意見に真摯(しんし)に耳を傾け、検討することが必要ではないだろうか。

  • Twitter
  • Facebook
箕輪 弥生 (みのわ・やよい)

環境ライター・ジャーナリスト、NPO法人「そらべあ基金」理事。
東京の下町生まれ、立教大学卒。広告代理店を経てマーケティングプランナーとして独立。その後、持続可能なビジネスや社会の仕組み、生態系への関心がつのり環境分野へシフト。自然エネルギーや循環型ライフスタイルなどを中心に、幅広く環境関連の記事や書籍の執筆、編集を行う。著書に「地球のために今日から始めるエコシフト15」(文化出版局)「エネルギーシフトに向けて 節電・省エネの知恵123」「環境生活のススメ」(飛鳥新社)「LOHASで行こう!」(ソニーマガジンズ)ほか。自身も雨水や太陽熱、自然素材を使ったエコハウスに住む。JFEJ(日本環境ジャーナリストの会)会員。

http://gogreen.hippy.jp/