世界の脱炭素技術を席巻する中国、その本当の実力と背景を探る
北村和也
昨年2023年、世界の再生可能エネルギー発電施設の新規導入容量が過去最高の510GW(IEA資料)となるなど、脱炭素に向けての取り組みがさらに活発化している。追加分のうち、中でも太陽光発電施設が4分の3を占め急増している。
導入の状況を国別で見ると、顕著な特徴が浮かび上がる。圧倒的な中国の存在感である。再生エネ発電施設の中国の導入容量は230GWで世界の半分に迫る。発電そのものだけでなく、この他、PVパネル、蓄電池や水素、EVなど脱炭素に関する技術や製品で中国のシェアは圧倒的になった。
今回のコラムでは、中国の実力とその背景を解説する。
中国とそれ以外で分かれる、再生エネ新規導入の統計
以下のグラフは、ロンドンのシンクタンクEmberによる、世界の再生エネ発電施設の2023年までの導入容量の推移を示している。ここでは、世界を3分割し、「中国」「G7」「その他の世界」でまとめている。
真ん中のG7の合計や、右のその他の世界でも、再生エネの着実な拡大が分かるが、左の中国のデータ、特に2020年代に入ってからの増加の勢いはすさまじい。
中国、G7、それ以外の地域での年ごとの再生エネ施設の新規導入容量(出典:Ember)
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特に太陽光発電では、2023年に他の地域を圧倒し、200GW以上が新規で入った。米国で30GW超、EU全体で50GW超なので、差は歴然としている。日本の導入量はこのところ毎年5GW程度でしかなく、比較する気さえ起きない。IEA(国際エネルギー機関)の統計などでも、中国だけを別項目として立てるものが少なくない。まさに別格である。
IRENA(国際再生可能エネルギー機関)の予測では、2025年以降、中国の再生エネ全体の新規導入量は毎年250GW程度で推移するとしており、今後は勢いを維持したまま世界のトップを走ることが確実視されている。
あらゆる脱炭素分野で世界を凌駕(りょうが)する中国
もう少し統計を見てみよう。
次のグラフは、脱炭素社会で最重要とされる製品の製造施設がどの国にあるかを、製造能力の数字から示している。
クリーンエネルギーの決定的な技術での製造能力の国別シェア(出典:Bloomberg NEF)
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上から、太陽光発電関連3つ「ソーラーパネル」「太陽電池」「多結晶シリコン」、蓄電池関連の3つ、そして、風力発電のナセル、水素製造のための水の電気分解装置となっている。いずれも脱炭素達成のために欠かせないものである。
それぞれの製品の製造能力シェアが国別にどうなっているかは、色別に示されている。細かく言及する必要もなく、どの製品でも黄緑、つまり中国が圧倒している。太陽光発電と蓄電池関連ではほぼ9割、残りの風力発電、水素関連でもそれぞれ3分の2、4分の3のシェアを占める。
グラフを見ると、他の国の色わけも存在する。グレーの欧州は、風力発電のナセルなどで一定の割合を有している。また、黒は米国で、水素製造の電気分解装置で1割ほどのシェアが見える。日本は青色で分けられているものの、蓄電池関連でほんのわずか登場するに過ぎない。
グラフを作成したBloomberg NEFは、「中国が緑のサプライチェーンを支配」とコメントを付している。
先に少し述べたが、この他、EV、各種の特許など多くの分野でも中国が圧勝していて、脱炭素に向けての技術では、他国との差がさらに開いてきてさえいる。
なぜ中国はこれほど脱炭素技術に強いのか、研究論文から見る指標
背景にあるのが、中国の明確な施策である。強固な支配体制を基礎に、莫大な費用を投じて長年、研究と開発を進めてきた成果がここに結実している。
初期の研究段階からの注力が大きな鍵と考えられ、最近のデータがそれを傍証している。
先日の6月中旬に、世界の科学的な成果を追跡するデータベースである『Nature Index』が、「2024年の研究リーダー」というまとめ記事をWebサイトに発表した。そのタイトルと前文がすべてを語っている――「中国の教育研究機関が上位を独占 今年の上位10校のうち7校が中国を拠点とする大学であり、スタンフォード大学は初めて脱落した」。
中国の7つの教育研究機関は、すべて昨年のポイントを上回って成長を続けており、逆にベスト10に残った欧米の3つは成長率を下げている。
ランキングは以下の通り。
1.中国科学院
2.ハーバード大学(米国)
3.マックス・プランク協会(ドイツ)
4.中国科学院大学
5.中国科学技術大学
6.北京大学
7.フランス国立科学研究センター(フランス)
8.南京大学
9.浙江大学
10.精華大学
ランキングは2023年に発表された7万5000あまりの研究論文を基に作られている。もちろん、脱炭素以外の技術のものも多数含まれているが、ランキングはすべての技術に通じるベースの力を示していると考えることができる。
ちなみに、筆者が中国関連の情報で最も信頼し、尊敬する中国問題グローバル研究所の遠藤誉所長は次のように解説している。
躍進のスタートは、習近平政権が2014年に策定した新常態(ニューノーマル)という政策、すなわちGDPで「量より質を重んじる」政策にある、という。要約すると、将来の飛躍のために研究開発に全力を注ぎ、過程ではGDPが下がることもあるが、研究開発でため込んだエネルギーが大きなジャンプ力となって中国の真の成長をもたらす、というのである。
真逆に動いた日本と、必然で招いた現在の厳しい状況
一方、日本はどうか。まず、今回のランキングでの日本の状況を知っておこう。
最高位は東京大学で19位、ベスト100に入っているのは、47位の京都大学、69位の大阪大学の3校でしかない。しかも、東大も京大も成長率を下げている。
中国がこの10年、大きく伸びてきたのに対し、日本では何が起きていたのだろうか。
ちょうど安倍政権が長期間にわたり政策を決めていた時期に当たる。いわゆる大学の“改革”も行われたが、短期的な成果ばかりが求められ、基礎研究に投じるお金がどんどん削られていった過程でもあった。
筆者も現在、ある国立大学法人の客員教授を務めるが、現場から聞こえて来るのは、厳しい財政と研究費の不足の悲しい声ばかりである。中国が進めてきたものと全くの反対を行った日本の結果は惨憺(さんたん)たるものである。
中国が享受する産業としての成果は、決して「ずる」や国家主導の安売りによるものが中心ではなく、日本が怠ってきた「地道な実践」によるものであることは認めなければならない。
ここにきて、再生エネ拡大が中国の利益にしかならないとか、一部の団体の単純な事務的ミスを中国に利する反国家行為だとか唱える言説も聞こえてくる。しかし、これらはまったくレベルが低く、哀れな議論としか言いようがない。
しかし、重要なことは、ここまで落ち込んだ日本の技術レベルをどう持ち直すかを真剣に検討し、実行することである。そのためには、中国が歩んだ、厳しく、すぐには成果が見えない道のりを、日本もたどる覚悟が必要であろう。どこにでも手本を求める柔軟な姿勢がなければ、日本の復活は永遠にない。