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COP28は歴史の変曲点か?――瀬戸際に立たされた気候変動対策、農業が大きな切り札に

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足立直樹

会期を延長して何とか終了したCOP28(第28回国連気候変動枠組み条約締約国会議)ですが、あなたはその成果をどう評価するでしょうか? 約10年間で化石燃料から「脱却(transition away)」するという、玉虫色ではあるけれども画期的な合意をすることができました。それ以外にも2030年までに再生可能エネルギーの発電容量を3倍にするなど、「歴史的な合意」だとの評価もあります。一方でNGO等からは、目標や行程、そして資金支援が明確でないとして批判されています。

会期中に私が最も衝撃を受けたのは、国際エネルギー機関(IEA)が発表した声明です。たとえ今回の合意通りに2030年までに再生エネルギーの発電容量を3倍にできたとしても、それだけでは1.5度目標達成にはとても不十分だというのです。これからわずか6年で再エネの発電容量を現在の3倍にするというのは、並大抵のことではありません。相当に野心的な、ひょっとしたら荒唐無稽な目標にすら思えます。しかし、それでもまだ不十分というのですから…。

それもそのはずで、世界気象機関(WMO)はCOP28初日に、今年2023年の世界の平均気温は産業革命前より1.4度高くなる見通しであることを発表しました。大気中の温室効果ガス(GHG)の濃度も過去最高となる見込みで、大幅に減らすどころか、逆に増えてしまっているのです。1.5度上昇までに残された余地は本当にわずかです。この切迫感を、COP28終了後の国内メディアの報道からあなたはどのぐらい感じることができたでしょうか? 私たちはもう本当に瀬戸際まで来てしまっているのだという意識が必要でしょう。

COPで持続可能な農業が注目点に

これ以外にも、今回のCOPで私が注目したことがもう一つあります。それは、気候危機のCOPで農業が議論の中心になり、日本を含む約140カ国が「持続可能な農業、レジリアントな食料システム、気候変動に関するCOP28 UAE宣言」に署名をし、持続可能な農業に切り替えていくことに合意したということです。

なぜ農業がと思われるかもしれませんが、一つには今回のCOPが、気候危機の影響をもっとも受けやすい農民の命と暮らしを守ることを目指していたことがあります。しかしもっと大きな理由は、農業を含めた食料システムが現在の気候危機の非常に大きな原因だからです。世界のGHGの排出量の少なくとも4分の1、多ければ3分の1が食料システムからと推定され、中でも農地からの排出量が非常に多くなっています。また世界の淡水の7割が農業で使用されており、新たに畑を作るために森林破壊や森林転換が行われ、過剰な肥料が生態系を乱していることも見逃せません。食料システムは、生物多様性を破壊する最大の原因とも言われているのです。

だからと言って、「食べるな」と言うわけにはいきません。食料システム、特に農業のあり方を大きく変える必要があるというのが世界的な認識になりつつあります。主催国UAEのマリアム・ビント・モハメッド・アルムヘイリ気候変動大臣も、「パリ気候協定の目標を達成し、1.5℃を手の届く範囲に維持するためには、食料システム、農業、気候の相互作用に緊急に対処するしか道はない」と述べています。

では、そのために農業をどうしたらいいのでしょうか? そこで注目されているのが、サステナブルブランド国際会議で2020年来テーマとしてきた「リジェネレーション(再生)」にも関係が深い「再生農業(regenerative agriculture)」です。再生農業はまだ共通の定義は定まっていないのですが、私は「不耕起栽培などによって土壌生態系を再生する農業」とまとめられると考えています。微生物を中心とする土壌生態系を再生すれば、土壌中に今より大量の二酸化炭素や水分を保持できるようになり、また肥料などもあまり要らなくなると期待されているのです。さらに反収まで増えるという報告も蓄積されつつあります。気候危機と農業の持続可能性の両方を同時に解決できるのです。

あまりに都合が良い話でにわかには信じ難いかもしれませんが、畑での実績が積み重なるにつれ、いま北米を中心に再生農業に切り替えるよう農家を支援する食品企業が続々と増えているのです。アーチャー・ダニエルズ・ミッドランド(ADM)、カーギルなどの穀物メジャーまでもが、今後数百万ヘクタールの農地を再生農業に切り替えることを発表しています。COP28の中でも「再生農業景観の行動アジェンダ」として、WBCSD(持続可能な開発に関する世界経済人会議)とボストンコンサルティンググループ(BCG)が主導して、2030年までに1.6億ヘクタールの農地を再生農業とする目標を掲げ、22億米ドル(約3300億円)の資金を動員すると発表しています。これに世界的な農業・食品飲料会社はもちろん、IT企業も加わっており、熱気を感じます。

また今回のCOPでは自然をうまく利用して気候危機などの問題を解決する方法、いわゆるNbS(Nature based Solutions)を積極的に利用していくことについての発表や提言も行われました。こうした動きを見ていると、自然を征服して人工的な技術で便利な社会を作っていこうというこれまでのやり方から、自然をうまく活用して、自然の恵みを享受することで質の高い生活を続けていこうと考え方が大きく変化しつつあるように私は感じます。

再生農業の最大の特徴は不耕起栽培にあると思いますが、これはこれまでの農業のやり方とは真反対と言っても良いでしょう。土を耕すことは、長らく農業の基本とされて来ました。それを敢えて行わないのです。これまでの農業のあり方を根底から覆すようなことが起きようとしていると言えます。

日本が変化をリードするために成すべきこと

ちなみに日本の状況はと言うと、個人農家等がごく小さなスケールで実施している例はあるものの、残念ながらまだほとんど注目されていません。そもそも農業は古い、そして儲からない産業だと考えている方が多いのではないでしょうか。しかし農業は人間が生きていくためには必ず必要な、最も基本となる産業です。再生農業が唯一の解決方法と言うつもりはありませんが、何らかの形でこれまでの農業のあり方を変え、持続可能な産業にしていく必要があることは間違いありません。しかも、そうすれば、儲かる農業も可能だというのです。日本でもより多くの方々や組織がこのことに気づき、関わっていく必要があるでしょう。そして、この新しいトレンドにしっかりキャッチアップできるかどうかに、気候危機の克服も、また日本社会の将来もかかっているように思います。

ところで今から20年ほど前、環境経営ということが言われ始めた頃を振り返ってみると、日本の環境技術は間違いなく世界の先頭を走っていました。太陽光パネルや風力発電も含め、日本が世界をリードしていたのです。けれども、その後日本企業が再エネ市場を席巻することができなかったのはご存知の通りです。技術はありながらも、市場開拓に失敗してしまったのです。再エネがその後の大きなビジネスになるという将来展望が、企業にも、そして国にも、欠けていたのではないでしょうか。かえすがえすも残念です。

今回のCOPの成果は、化石燃料からの脱却、再エネの急拡大、そして再生農業や自然を活用した産業への移行と、いずれを取っても歴史上の大きな変曲点になる可能性を秘めています。しかし、それが本当に歴史を変えるかどうかは、これからの私たちの行動にかかっています。企業においては、こうした変化の芽をきちんと理解し、成長させ、次の世代のビジネスにできるかが、今後のビジネスの命運を決めることになるかもしれません。ゆめゆめ20年前の二の舞にならないようにと願うばかりです。そして何より、2023年が将来、歴史の変曲点であったと評価されることを心から願っています。

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足立直樹
足立 直樹 (あだち・なおき)

サステナブル・ブランド ジャパン サステナビリティ・プロデューサー
株式会社レスポンスアビリティ 代表取締役 / サステナブルビジネス・プロデューサー

東京大学理学部、同大学院で生態学を専攻、博士(理学)。国立環境研究所とマレーシア森林研究所(FRIM)で熱帯林の研究に従事した後、コンサルタントとして独立。株式会社レスポンスアビリティ代表取締役、一般社団法人 企業と生物多様性イニシアティブ(JBIB) 理事・事務局長。CSR調達を中心に、社会と会社を持続可能にするサステナビリティ経営を指導。さらにはそれをブランディングに結びつける総合的なコンサルティングを数多くの企業に対して行っている。環境省をはじめとする省庁の検討委員等も多数歴任。