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脱炭素特集

地域からのカーボンニュートラルの切り札、「脱炭素先行地域」が最終ステージへ

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北村和也

第4回の脱炭素先行地域に選定された千葉県匝瑳市の「匝瑳メガソーラシェアリング」(市民エネルギーちば提供)

日本の地域で進める脱炭素推進の切り札として、2030年に向け各地で100以上の先進モデル展開を目指す、脱炭素先行地域の第4回の選定結果が11月の初旬に発表された。
選定数はこれまでで最も少ない12件で、応募に対する倍率は4倍強と過去最高の激戦となった。この結果、先行地域は74件となり、主管の環境省が求めるモデルも積み重なって、早くも制度に“手じまい感”が漂い始めた。
脱炭素先行地域への期待は自治体間で依然として強いが、“最終ステージ”となる、第5回目以降のハードルがさらに上がるのは確実である。今回の選定結果の分析を通じて、今後の応募に向けての具体的な対応策などをまとめる。

第4回の選定結果と“衝撃”の次回選定の延期

脱炭素先行地域の選定状況(第1回~第4回) 出典:環境省

上図において赤字で示された自治体が、今回選定された12提案の県市町である。自治体の規模でいうと、仙台市、大阪市、つくば市、長崎市などの県庁所在地や中核市レベルが目立つ。またこの結果、これまで選定のなかった15の空白都道府県のうち、4つが解消された(富山県⇒高岡市、茨城県⇒つくば市、岐阜県⇒高山市、長崎県⇒長崎市)※訂正編集:2023年12月14日

さらに、選定時期などが今後大きく変更される方向で、一部の関係者を驚かせることになった。もともと、次の第5回選定は来年2月に予告されていたが、選定後に示された評価委員会の提言では、募集回数を年1回にするよう求めていて、新年度の2024年度4月以降にずれることが確実となった。残りの選定回数自体が縮小されるとの情報もある。

2022年からスタートし、近年の環境省の最も成功した事例とも言われた脱炭素先行地域であるが、第1ステージ(第1回、第2回)から、重点選定モデルが加わった第2ステージを経て、いよいよ第5回以降の最終ステージに入ることとなった。
これから選定を目指す「応募意欲の高い自治体(選定委員会の表現)」にとっては、残りの狭い枠を目指す厳しい競争が待っている。

評価委員会の総評に表れた“異変”と消えた応募への積極的な喚起

選定の鍵を示し、応募の“バイブル”ともなってきたのが、評価委員会の総評である。ところが、第4回の総評にはちょっとした異変が見られた。まず、論評のボリュームが減ったのである。総評の枚数は、第1回:3ページ、第2回:6ページ、第3回:12ページと倍々ゲームで増えていた。ところが、第4回は8ページに減少した。細かいことといわれればその通りだが、実は中身にも現れている。

「評価に関する7つの観点は、前回と変わらない」と前置きされ、7つのうち、実際に総評でコメントしたのは、「先進性・モデル性」、「地域経済循環への貢献」、「事業性」の3つのみであった。さらに、提案内容の具体的な例を取り上げて言及しているのは、先進性・モデル性に限られている。

総評全体として見ると、これまでのどんどん応募してほしいといった積極的な喚起がほぼ消えている。これまで選定から外れた提案について、前向きな言及がなされていたが、今回は再チェレンジ推奨の言葉はない。総評から引用すると、逆に、「今回不選定となった計画提案に対しても」、「先行地域に限らず、各地方公共団体の地域課題解決(中略)に資する取組をあわせて検討」するようアドバイスまで入っている。先行地域がすべてではない、ということなのであろう。

全体としてあっさりしており、本コラムの冒頭に“手じまい感”と書いた根拠がここにある。

第5回目以降の提案ポイントは、やはり、地域主導の「先進性・モデル性」

それでは、最終ステージに入った5回目以降の提案はどのような観点でまとめればいいのだろうか、
他のメディアなどによる選定結果分析では、重点選定モデルが飛躍的に増えたと扱われ、重要視するかもしれない。実際に、5つのモデル(施策間連携モデル7件、地域間連携モデル1件、地域版GX モデル3件、生物多様性の保全モデル・資源循環モデル2件、民生部門電力以外1件)以外の選定はわずか2件であるが、逆に、重点選定モデルでの応募は差別化にならなくなってしまった。
地域新電力など地域のエネルギー会社や地域金融機関との連携も重要とされるが、こちらもほぼいずれの提案にも含まれている。つまり、入っていて当たり前なのである。

最も重要な提案のポイントは、総評の「今後に期待すること」にはっきり示されている。
1から6まであるが、特に重要なのは、最初の3つである。以下に示す。

1 空白県からの積極的な応募
2 これまでにない先進性・モデル性がある提案
3 都道府県、地域金融機関、地域エネルギー会社・中核企業等との連携の一段工夫

環境省では、先行地域は地域のモデルであると規定しており、空白県を無くす努力を最優先で進めている。これがかなり重要視されていて、空白県からの提案は次回以降も有利になる。一方、すでに先行地域を出している道府県からの新しい応募は、はっきり言ってハンデがある。しかし、これは今からはどうしようもない。
残る2点をまとめれば、「地域のステークホルダーと連携した先進性・モデル性のある提案」となる。それも、「これまでにないもので、一段の工夫があること」と強い制約がついている。
総評の「提案に対する評価」にも同様の言及がある。

先進性・モデル性の「重要なポイントは、その取組が地域の課題を解決し、地方創生を同時実現するものであるかどうかである」としたうえで、選定された12件は、「地域課題解決のストーリーがしっかりと構成され、何らかの軸となる地域特性の活用があるもの」とされている。
それぞれの地域で違う課題を、地域のさまざまな関係者が工夫しながら連携して、解決のストーリーを組み立て、地域の特性をうまく利用して実行する、という流れである。これが自動的に先進性・モデル性を持つことにもなる。前述した「重点選定モデル」の適用や「地元の合意形成」が重要なことは確かだが、それらも、地元色の強い「先進性・モデル性」があってのことである。

脱炭素先行地域は、地域のものである

今回の選定地域の提案で高い評価を受けた具体例を見ると、あることに気づく。
いくつかピックアップしてみよう。

[宮城県仙台市] 複数が入居する雑居ビルを、使いながらZEB 改修するモデルで、事業者と地元事業者が「脱炭素リノベーション支援チーム」を立ち上げながら進める事例
[茨城県つくば市] 廃食用油やグリーン水素の導入等による熱の脱炭素化
[千葉県匝瑳市] 畑作営農型ソーラーシェアリング(SS)のノウハウを活かした水田営農型SSの取組
[長野県上田市] 赤字ローカル線に対し地域の再エネを供給し電気料金削減による経営改善を目指すモデル
[福岡県うきは市] 脱炭素としての新たな付加価値を上乗せする「サステナフルーツ(仮称)」の創出を目指す取組

取り組みが、比較的小さく細かいのである。ただし、たいへん具体的で、すでに手を付け始めているものも見られる。
評価の中に何度か出てくるが、先行地域の実現目標年である2030年への事業実施期間がどんどん短くなっているため、より実現性が高く、合意形成どころか、すでに着手しているものを優先しようとしているからであろう。

一方で、評価委員会が重ねて問題点として示す提案例がある。

〇共同提案者が域外の大手事業者ばかりで地元企業が参画していない提案が散見
〇コンサル事業者等からの提案をそのまま計画提案としたような提案も引き続き散見

すべての論評は、ひとつの結論へと導かれる。
繰り返しになるが、第5回以降の提案の肝は、「地域で違う課題」を「地域の関係者」が「地域の特性を生かし」解決するものである。
よりきめ細かく、地元の課題解決を具体的に実現できるプランは、地域の中でしか生まれない。また、先行地域とは別にすでに動き始めているものさえあるであろう。地元を知らない外からは、提案に必要な重要なポイントが見えにくいのは当然である。

第5回以降の選定は、確かにハードルが上がる。そして、真の地元から沸き起こった提案だけが残ることになる。脱炭素先行地域の本来の趣旨に戻ることでもある。
『先行地域は、地域のものであること』を忘れてはならない。

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北村和也 (きたむら・かずや)

日本再生可能エネルギー総合研究所代表、日本再生エネリンク代表取締役、埼玉大学社会変革研究センター・脱炭素推進部門 客員教授
民放テレビ局で報道取材、環境関連番組などを制作した後、1998年にドイツに留学。帰国後、バイオマス関係のベンチャービジネスなどに携わる。2011年に日本再生可能エネルギー総合研究所、2013年に日本再生エネリンクを設立。2019年、地域活性エネルギーリンク協議会の代表理事に就任。エネルギージャーナリストとして講演や執筆、エネルギー関係のテレビ番組の構成、制作を手がけ、再生エネ普及のための情報収集と発信を行う。また再生エネや脱炭素化に関する民間企業へのコンサルティングや自治体のアドバイザーとなるほか、地域や自治体新電力の設立や事業支援など地域活性化のサポートを行う。