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脱炭素特集

企業を包囲する脱炭素の圧力――“先取り企業”が得るメリットと欠かせない『人』の視点

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北村和也

全施設の使用電力における“CO2排出量実質ゼロ”を実現した石屋製菓の「白い恋人パーク」(札幌市西区、石屋製菓プレスリリースより)

世界の気温が“史上最高”を更新した。「待ったなしの脱炭素社会」が、より早くより切実に必要とされる。
当然の帰結として、企業に対して脱炭素を迫る動きは加速し、責任も重大となる。一方で、先んじた対応によって、注目を浴びる企業も少なくない。特に、製品の脱炭素化をうたって再生可能エネルギーの利用拡大を進め、結果として企業の価値を上げる取り組みが増えてきている。中でも、最近はお菓子や野菜など、日用の食品のカーボンニュートラル化が目立つ。
今回のコラムでは、『人』を意識した脱炭素のトレンドと、それをチャンスに変える企業戦略について話してみたい。

必然だった、北海道銘菓の脱炭素化

石屋製菓の北広島工場(北広島市、石屋製菓プレスリリースより)

7月中旬、北海道土産のお菓子として最も人気の高い「白い恋人」を製造する石屋製菓が、全施設の使用電力の“CO2排出量実質ゼロ”を実現したと発表した。
札幌市内の本社事務所や近隣を含めた工場、白い恋人パークなどの関連施設も含まれる。北海道企業局が所有する水力発電所由来の非化石証書を使うことで、環境価値の地産地消を行っているとも宣している。また、供給電力は地元の電力小売代理店「エゾデン」が介している。

石屋製菓は、突然、脱炭素に転じたわけではない、今から十数年前に起こした、賞味期限の不正表示などの不祥事から再建する過程で、SDGsをはじめ各種の取り組みを長く続けてきている。

白い恋人でのバイオマストレー利用や森林保護の活動(石屋製菓提供)

例えば、安心・安全や環境など「6つの約束」と主力商品の白い恋人などとを結び付けるキャンペーンを行い、上の写真のようにバイオマストレーの利用や森林保護も進めている。これらがベースとなって、施設の脱炭素化の発表につながったのである。
取り組みの目的は、企業の信頼回復と醸成、製品のお菓子を含む企業価値の上昇である。バイオマストレーの利用も森林保護も、共に、企業を評価する「人」と、製品を手に取ってくれる消費者=「人」の目を重要な対象として強く意識している。
後述するように、脱炭素はもっぱら金融機関やサプライチェーンからの要請や圧力で始まったが、すでに新しいフェーズに入っている。
それは、「人」によるプレッシャーである。石屋製菓が選択した脱炭素の取り組みは、人による脱炭素への圧力を先取りした消費者への配慮と言い換えることができる。

新しい段階を迎えた、企業を取り囲む脱炭素の圧力

下図は、資源エネルギー庁がまとめた「企業を囲む脱炭素の圧力の図」である。
赤い実践枠で囲まれた「圧力」は、金融機関とサプライチェーンで、これらの2つのプレッシャーが先行した。金融機関は、自らの融資や社債の購入先である企業が持続可能であるためには脱炭素に対応することが必須であると読み解いて、企業に圧力をかけている。TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)が強く求める企業の温暖化ガスの排出に関する情報開示はその典型である。
また、自社の努力だけでは、スコープ3のカーボンニュートラル化が不可能なサプライチェーンの多くが川下や川上の企業の脱炭素化に動き始めている。

企業に迫る脱炭素の圧力 (出典:資源エネルギー庁)

そして、最近、顕著になってきているのが、消費者と労働者からの圧力である(上図、赤い点線枠)。
前者は、製品の購入・利用者や食品の消費者という「人」であり、企業にとってはお客さんからの直接的な要求となる。また、後者は、リクルートの観点の就職希望者であり、こちらも企業の存続には欠かせない重要な「人」である。
実際には、最終的な消費者の購買基準として、脱炭素で作られているかどうかを厳しく問うような状況にはまだない。選択のための情報の開示が十分なされていないことも背景にある。しかし、白い恋人のように、生産者側が先取りする形で脱炭素の取り組みを進めるケースは少なくない。つまり、他社との差別化を図る意図もそこには感じられるのである。

オンサイトPPAによる太陽光発電の導入を決めたみすずコーポレーション長野県大町工場 (みすずコーポレーション提供)

PPA(Power Purchase Agreement:電力販売契約)による太陽光発電を自社工場に導入するみすずコーポレーションは、凍り豆腐や油揚げの加工品などを作る食品メーカーである。脱炭素の取り組みとして、排水処理の過程で生成されるバイオガスによる発電も行っている。
このほか、イオンによる取り扱いイチゴの脱炭素による栽培、モスバーガーの低炭素レタスの使用、また、J-クレジットを使ったクボタによるコメの脱炭素化の動きも面白い。今流行りの大豆ミートの普及も、考えてみると肉の代替によって大幅なCO2の削減になるところがポイントである。
もちろん、食品に限らない。衣料品や腕時計などの実用品も同様にカーボンニュートラルで作る動きがあり、今後さらに拡大することは間違いない。

脱炭素のメリットは「早い者勝ち」

経産省と環境省がまとめた、「企業が脱炭素に取り組むことで生まれるメリット」には、脱炭素の取り組みによる企業の競争力の強化や取引先、売り上げの拡大などが挙げられている。また、知名度や認知度の向上から社員のモチベーションや人材獲得力の強化にもつながるとされている。
脱炭素は苦しい選択ばかりではなく、経営者にとって先取りの投資であり、会社を持続可能にするための賢いツールでもある。

脱炭素の圧力は、人によるフェーズが加わって、より見えやすいメリットが生まれる可能性が出てきた。
ただし、その利益を享受するためには、率先した取り組みが必須となる。多くの企業がやり始めればニュース的には陳腐化する。補助金が出るのも最初のうちである。いわば早い者勝ちであるといっても過言ではなく、地球も早い対応を求めている。

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北村和也 (きたむら・かずや)

日本再生可能エネルギー総合研究所代表、日本再生エネリンク代表取締役
民放テレビ局で報道取材、環境関連番組などを制作した後、1998年にドイツに留学。帰国後、バイオマス関係のベンチャービジネスなどに携わる。2011年に日本再生可能エネルギー総合研究所、2013年に日本再生エネリンクを設立。2019年、地域活性エネルギーリンク協議会の代表理事に就任。エネルギージャーナリストとして講演や執筆、エネルギー関係のテレビ番組の構成、制作を手がけ、再生エネ普及のための情報収集と発信を行う。また再生エネや脱炭素化に関する民間企業へのコンサルティングや自治体のアドバイザーとなるほか、地域や自治体新電力の設立や事業支援など地域活性化のサポートを行う。