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脱炭素特集

2023年は温暖化が人類に本格的に牙を向けた年として記録される――今、本気度を示すべき日本の役割

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北村和也

カナダの山火事の煙に包まれるニューヨーク (出典:Bloomberg)

地球が本当におかしくなってきている。
昨年から続く各地の気温上昇傾向は今年に入り拍車がかかった。暖冬で雪が降らず欧州の湖や川の水位が低下して干ばつに向かい、アジアでは各地で軒並み40度超えを記録した。日本でも春の気温平均が例年を1.6度上回り、6月の段階で真夏日が頻発している。
増水した川の水が堰(せき)を切って流れ出すように、溜まりに溜まった温暖化の滓(おり)が一気に表出しているように見える。温暖化は気候変動から気候危機へと明らかにフェーズを変えている。2023年は、温暖化が暴力的な力で我々を襲い始めた年として、記録され記憶される年になる可能性が高い。
今回のコラムでは、国際研究機関などが示すデータを引用しながら今起きている現象をまとめる。危機を再度確認し、脱炭素化の必要性、特に日本の役割をもう一度問い直したいと考える。

世界各地で頻発する異変の日常化とスーパーエルニーニョの発生

冒頭の写真は、6月初旬のニューヨーク、マンハッタンの「昼間」の光景である。カナダで起きている大規模な山火事からの煙がアメリカの東海岸まで下りてきて、大気を激しく汚染している。この春の乾燥と高温で、カナダのケベック州を中心に制御できない200の山火事が、例年の10倍も発生しているという。
乾燥や高温による山火事はシベリアでも起きている。年明け以降も続く欧州の暖冬異変に合わせて、アジアでも4月にタイで現地観測史上最高の45度を超え、5月にはパキスタンで49度を記録した。過去の平均気温を10度前後、場所によっては20度も上回るケースも頻出している。

5月16日のアジアの気温変異 (ベースライン1979-2010、出典:WXCHARTS)

温度上昇は、海面の温度にも及んでいる。
以下のグラフは、世界の平均海面温度の年ごとの変化をまとめたものである。
黒の破線が、1982年から2011年までの平均値であるが、昨年2022年(黄線)が年間を通して平均を0.5度上回っているのがわかる。さらに今年(赤線)は、3月初旬あたりからさらに昨年を越えて上昇を続けている。はっきりとした異変が見て取れる。

世界の平均海面温度の年別、年間の推移 (出典:Climate Reanalyzer)

海面温度の上昇によって起きる「エルニーニョ現象が発生しているとみられる」と、気象庁が6月9日に正式に発表した。9割の確率で秋まで継続するとしている。エルニーニョは通常は日本に冷夏をもたらすが、今年は例年より高温で猛暑日が増える可能性があるとされた。大雨の警戒も欠かせない。

6月初旬に起きた世界の気温のスパイク

世界に戻ろう。大気の温度のデータを下図で確認しておく。
海面と同様に昨年2022年(黄線)は過去の気温変化の最も上側を推移した。

世界の気温の年別の変化と分析 (出典:Climate Emergency Institute)

今年2023年(黒線)は、6月に入って急上昇した。特に6月5日から9日への温度変化(気温のスパイク)に注目が寄せられている。右上の赤枠内が示すように温度は短期間で0.36度も跳ね上がっているのである。
繰り返しになるが、2023年における温暖化の加速の証拠は、このスパイクに限らず多様な形で示されている。
欧州の氷河の融解速度が増していること、南極および北極の氷の面積が過去最大の減少を記録していること、などなど。もちろん、今年の事象が過去とは区別されるものであるかはまだわからないが、すでに今後起きることへの恐怖を想起させるのに十分であろう。

一方で、温暖化防止の対策である温暖化ガスの削減は思いのほか進んでいない。以下は、「2030年の中間目標に向けての世界の施策のシナリオ」と「必要とされる1.5度目標シナリオ」との差(ギャップ)を示した図である。

温暖化ガス排出削減の2030年シナリオと目標とのギャップ (単位:GtCO2e、出典:国連環境プログラム)

気温上昇を1.5度に抑えるためには2030年の中間時点(NDC)で、緑色の33 GtCO2e(ギガトンCO2換算)という排出量までの削減が目標となる。しかし、現状の政策目標でさえ、オレンジ色と赤の示すほぼ現状維持レベルでしかなく、目標との大きなギャップは歴然としている。一番右に示されている差(ギャップ)は20~30 GtCO2eも存在している。つまり、今、急激に表に出ている高温などの現象は、このままでは止めることはできず、加速する可能性さえあるのである。

温暖化防止に向けた日本の役割と危機感の共有

元来、災害の多い国である日本は、温暖化による被害の増加に鈍感なのかもしれない。しかし、現実はこれまで聞きなれなかった「ゲリラ豪雨」や「線状降水帯」という言葉が常用化され、被害の規模や場所も拡大を続けている。6月初旬には四国から東海地方にかけて広い範囲で線状降水帯が繰り返し発生した。

6月2日に発生した線状降水帯 (出典:tenki.jp)

日本は温暖化ガスの排出総量で世界の4%弱で世界5番目(2002年)、電力部門では世界4位の排出大国である。しかし、2030年のCO2削減の中間目標(2030年:NDC)の46%減自体がターゲットとして数字が低く、またそれでさえも実現性が危ぶまれている。
下のグラフは、日本の金融庁も参加する「気候変動リスクに係る金融当局ネットワーク(NGFS)」のシナリオで示されたG7各国に求める排出削減の中間目標と現状のトレンドによる削減予測とのギャップを示している。

G7諸国の2030年目標の達成可能性 (出典:BNEF)

各国で条件などの違いはあるが、日本が求められるシナリオと現状との差は45%と群を抜いて高いのがわかる。そのギャップはどこから生まれてくるのであろうか。

あきらめ感が漂う日本、本気度が問われる脱炭素への取り組み

再生可能エネルギーを主力電源とするなど、基本として掲げる各種の施策と考え方は他国に比べて大きく違うわけではない。しかし、総じて目標の数字が低く、施策の中心が、石炭火力発電のアンモニア混焼など、「最終的な達成形」ではなく、「つなぎ」が目立つ。この結果、アンモニア利用は化石燃料の延命でしかないとG7で叩かれたばかりである。
そこで、次の調査結果が“問題の底”にあるのではと考え、最後に取り上げてみた。

気候変動に関する理解度の調査「人間は『気候変動』対応に寄与できるか」(出典:Ipsos)

世界各国の人々を対象に行われたアンケート調査の結果で、設問は「人間は『気候変動』対応に寄与できるか」である。ややこなれない訳だが、なるべく原意を変えないように直訳した。深い緑がYES、レンガ色がNOである。
世界平均は77%、8割弱で、大勢が人間は気候変動対応に「寄与できる」というポジティブな答えであった。日本の結果は一番下にあるが、これはYESの回答が最も低いからである。53%と半分しかない。また3割の日本人はYESでもNOでもない。この割合も最も高い。これは意見に自信がなく、あいまいさに逃げ、答えを先延ばししているように見える。
 
政府の脱炭素に対する姿勢は、ひとことで表すと「本気度が足らない」ではないだろうか。結果として、アンモニアのような「つなぎ」であったり、新設を断行するとは思えない「原発の利活用」であったりと、中途半端な対応が目立つ。そして、国民もそれに流されたり、政府の本気度の弱さに引きずられたりしているのかも知れない。
温暖化は確実に進み、加速している。ひどい被害を受けるのは、我々の子どもたち以降の世代であり、また、世界のもっと厳しい環境に住む人たちでもある。
今、あいまいな態度で対応から逃げている時間はない。もう一度、現状を直視して真剣に向き合わなければ、日本の存在価値はない。私たちの本気度こそが問われている。

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北村和也 (きたむら・かずや)

日本再生可能エネルギー総合研究所代表、日本再生エネリンク代表取締役、埼玉大学社会変革研究センター・脱炭素推進部門 客員教授
民放テレビ局で報道取材、環境関連番組などを制作した後、1998年にドイツに留学。帰国後、バイオマス関係のベンチャービジネスなどに携わる。2011年に日本再生可能エネルギー総合研究所、2013年に日本再生エネリンクを設立。2019年、地域活性エネルギーリンク協議会の代表理事に就任。エネルギージャーナリストとして講演や執筆、エネルギー関係のテレビ番組の構成、制作を手がけ、再生エネ普及のための情報収集と発信を行う。また再生エネや脱炭素化に関する民間企業へのコンサルティングや自治体のアドバイザーとなるほか、地域や自治体新電力の設立や事業支援など地域活性化のサポートを行う。