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気候変動、エネルギー、情報開示、ジェンダー平等――G7広島は世界にサステナビリティをどう発信したか

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G7と招待国の首脳、ゼレンスキー大統領らによる広島サミットの拡大会合の場面(G7広島2023公式サイトより)

各国の首脳が初めて被爆地・広島で顔を揃え、ウクライナのゼレンスキー大統領も急きょ対面で参加し、世界の注目を集めたG7広島サミット。5月19日から21日までの3日間の会期を通して、「核兵器のない世界」を究極的な目標として核軍縮・核不拡散に取り組むこと、そしてロシアの侵攻が続く限りウクライナ支援を強化することが象徴的に取り上げられたが、一方で全体としては、気候変動や食料安全保障、人権やジェンダー平等といったサステナビリティと深く関連する議論も交わされた。SDGsの目標達成年である2030年に向け折返しを迎えた今、G7広島は世界に何を発信したのか。首脳コミュニケ(声明)や事前の閣僚会合で打ち出された文言や方針の中からピックアップする。(廣末智子)

●首脳コミュニケ前文

貧困の削減、気候および自然危機への取り組みは密接に関連していることを認識し、SDGsの達成を加速させる

・強固で強靱な世界経済の回復を促進し、金融安定を維持し、雇用と持続可能な成長を促進する
・貧困の削減ならびに気候および自然危機への取り組みは密接に関連を持っていることを認識し、持続可能な開発目標(SDGs)の達成を加速させる
・エネルギー部門の脱炭素化および再生可能エネルギーの展開を加速させることで地球を保全し、プラスチック汚染をなくし海洋を保護する
・普遍的人権、ジェンダー平等および人間の尊厳を促進する
・誰一人取り残さず、人間中心で、包摂的で、強靭な世界を実現するために、国際パートナーと協働していく

上記は20日に発表された「G7広島首脳コミュニケ」の前文から、SDGsと直結する文言を抜き出したものだ。「貧困の削減――」の一文からは、気候危機と生物多様性の損失の問題に同時に対処することは、世界の常識になりつつあり、これを進めることが貧困の削減にもつながるとする考え方が前提としてあることが読み取れる。

G7のサミットでは、この首脳コミュニケに象徴される首脳会議全体の成果文書以外に、財務大臣と中央銀行総裁が集う「財務大臣・中央銀行総裁会議」や気候・エネルギー関連の「気候・エネルギー・環境大臣会合」など9分野にわたる関係閣僚会合も首脳会議直前の4月中旬から順次開かれ、これら各分野の専門的な合意文書ともいえる関係閣僚の成果文書も発表された。首脳コミュニケには多くの分野にわたる世界的な課題を詳細に盛り込むことはできず、これら関係閣僚の成果文書も重要な課題資料となる。

そこで、首脳コミュニケの前文に続き、まずは「G7気候・エネルギー・環境大臣会合コミュニケ」の内容を中心に、気候・エネルギー問題についてG7広島でどのような提言がなされたかを見てみたい。

●気候・エネルギー・環境

気候変動、生物多様性の損失、汚染という本質的に結びついた未曾有の世界的危機に加え、世界的なエネルギー危機に直面している

このコミュニケでは、冒頭で、現在の地球を「気候変動、生物多様性の損失、汚染という、相互に補強し合い、本質的に結びついている未曾有の三つの世界的危機」に加え、「ロシアによるウクライナ侵攻によって引き起こされた『世界的なエネルギー危機』」に直面している、と明記している。

そして、これらの課題に多国間協力を通じて対処するため、「決定的に重要な10年間に行動を拡大する」として、世界の気温上昇を1.5度に抑えるパリ協定、2030年までに生物多様性の損失を止めて反転させることを使命とする生物多様性条約第15回締約国会議(CBD-COP15)で採択された歴史的な昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF)の完全、迅速かつ効果的な実施へのコミットメントを堅持することなどを確認。

その上で、「ネット・ゼロで、循環型で、ネイチャーポジティブな経済への転換を達成するために、すべてのレベルにおける緊急な行動を求める」と強調。気候危機と生物多様性を同時に視野に入れた政策課題として、2050年までの世界的なネット・ゼロに向けてGHGの排出を廃棄物、農業、エネルギー部門からのメタンを含め削減すること、気候リスクや自然関連リスクを投資判断や意思決定において主流化することなどに言及している。

2040年までに追加的なプラスチック汚染をゼロにする野心を持って、プラスチック汚染を終わらせる

また、プラスチック汚染については、「2040年までに追加的なプラスチック汚染をゼロにする野心を持って、プラスチック汚染を終わらせることにコミットしている」ことを念頭に、プラスチックのライフサイクル全体にわたる既存および革新的な技術やアプローチを促進することを確認。海洋汚染にとどまらない包括的なアプローチを示した点で、環境分野にとっては大きな成果と言える。

2022年11月にはプラスチック汚染に関する政府間交渉委員会(INC)の最初の会合が開かれ、法的拘束力のある国際文書を策定するための交渉が開始されている。「G7気候・エネルギー・環境大臣会合コミュニケ」ではこの交渉に「政府、パートナー及びステークホルダー(地方自治体、事業者、学術界、科学者、NGO、市民、地域社会および先住民族を含む)の包括的で効果的な参画の必要性」を強調するとともに、2024年末までに国際文書の最終テキストが完成することへの期待を表明。「公的および民間、国内および国際的に、幅広いソースからの資金支援を動員することの必要性を認識しつつ、世界的にプラスチック汚染を終わらせるための国際的な協力の強化に向けて取り組む」と強調した。

世界のGHG排出量を2030年までに約43%、2035年までに60%削減することの緊急性が高まっている

さらに「気候・エネルギー・環境大臣会合コミュニケ」は、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の最新の見解を踏まえ、世界のGHG排出量を2019年比で2030年までに約43%、2035年までに60%削減することの「緊急性が高まっている」と強調。その上で、2030年のNDC目標などが、産業革命以前に比べて気温上昇を1.5度未満に抑える道筋や、遅くとも2050年までのネット・ゼロ目標に整合していないすべての締約国、特に主要経済国に対し、「可及的速やかに、かつCOP28より十分に先立って2030年NDC目標を再検討・強化し、遅くとも2050年までのネットゼロ目標にコミットするよう求める」としている。そしてすべての締約国に対し、「COP28において世界のGHG排出量を直ちに、かつ遅くとも2025年までにピークアウトする」ことを求めた。

化石燃料の段階廃止に合意も、石炭火力の全廃時期は明言せず

石油や天然ガスを含めた化石燃料全般については、CO2回収や貯留技術(CCS)といった排出削減対策を講じていない火力発電などを対象に、段階的に廃止していくことで合意。「排出削減対策が講じられていない石炭火力発電への政府による新規の国際的な直接支援は2021年に終了したことを強調する」と明記した。

もっとも、排出量が多い石炭火力については、2022年にドイツで開かれたG7エルマウ・サミットで段階的廃止が決まっており、今回のG7で全廃の期限が明示されることが期待されたが、議長国日本の強い反対で見送られた。今回の首脳声明では脱炭素化に向けた各国の「多様な道筋」を認め、各国の事情に配慮する考えも強調されており、足元で発電量の3割を石炭火力に依存する日本のエネルギーの安定供給の観点から明示を避けたと考えられる。

1.5度の道筋に整合したクリーンエネルギーへの移行支援の重要性を強調

また気候・エネルギー分野に関連し、首脳コミュニケの本文では、1.5度への道筋に整合したイニシアチブを通じたクリーンエネルギーへの移行支援の重要性を強調。さらに脱炭素ソリューションを通じ、他の事業者のGHG排出削減に貢献するイノベーションを促すための民間事業者の取り組みを奨励・促進することも盛り込まれた。産業分野別では、例えば自動車は、2035年まで、または2035年以降に小型車の新車販売の100%または大部分を排出ゼロ車両とすることや、2035年までに乗用車の新車販売の100% を電動車とすることなどが明記された。

●金融の持続可能性と健全性

ISSBのサステナビリティ基準づくりへの期待表明

一方、今回のG7では、気候変動に脆弱な国々の強靭性を強化するための支援を増強し、官民を問わず、気候に対して強靭な発展を加速させるという文脈から、「気候を含む持続可能性に関する情報の一貫性、比較可能性、および信頼性のある情報開示へのコミットメント」を強調。この一環として財務大臣・中央銀行総裁会議の成果文書では、世界経済の強靱性の強化の中で「金融の持続可能性と健全性」という項目を設け、企業財務に今後大きく関係するサステナビリティの促進をうたった。

ここでの注目点の一つは、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)が、持続可能性に関する全般的な報告基準および気候関連開示基準を最終化し、またグローバルに相互運用性のある持続可能性開示枠組みの達成に向けて取り組むことを支持したことだろう。さらに成果文書には「ISSBによる作業計画の市中協議に沿った、生物多様性および人的資本に関する開示にかかる将来の作業に期待する」という一文が盛り込まれた。

ISSBは現在、6月末にも内容を示す方向で気候変動をテーマとした国際的な情報開示の基準づくりの詰めの作業を行っている。G7としてはこれを促進し、生物多様性や人的資本など次期テーマの選定も含めて基準づくりを後押しする姿勢を強く打ち出した格好だ。

●食料安全保障

新興・途上国8カ国と連名「飢饉回避へ 強靭なシステム構築に緊急援助を」

今回のG7では、新興・途上国との連携強化を強く打ち出したのも大きなポイントとなった。それを象徴するのが、インドやインドネシア、ブラジルなど8カ国との連名による初の声明となる、「強靭なグローバル食料安全保障に関する広島行動声明」だ。


声明は、世界の食料安全保障について、「パンデミックや気候変動の深刻な影響、武力紛争などにより、女性や子ども、障がい者を含む最も脆弱な立場にある人々に不均衡な影響を及ぼしている」のに加え、「ウクライナによる戦争が特に開発途上国や後発開発途上国において食料安全保障の危機をさらに悪化させた」と指摘。2021年には世界中で最大8億2800万人が飢餓に直面し、2022年には開発途上国や後発開発途上国をはじめとする食料危機に直面している58の国で2億5800万人が緊急食糧支援を必要としたとする推計を示した。

そうした状況を踏まえ、声明は「飢饉を回避し、持続可能で強靭な食料システムを構築するための緊急援助と、人道支援、開発支援の資金を大幅に増やす」「食料および農産物の不足のリスクを減らし、気候変動の緩和により市場を安定させるため、ルールに基づく、開かれ、公正で、透明性のある、無差別的な国際貿易の促進」などを提唱している。

●ジェンダー平等

「あらゆる人々が人生を享受できる社会を実現する」文言明記も、日本の遅れ際立つ

一方、今回のサミットではG7で唯一同性カップルに法的な権利がないなど、LGBTQ+の人たちに対する法整備が立ち遅れる日本で、ジェンダー平等についてどのような論議がなされるのかが注目されていた。

この問題に関しては結果的に、首脳コミュニケの中の〈労働〉や〈教育〉の項目に、「すべての学習者の教育機会を保護し、ジェンダー平等とあらゆる多様性を持つすべての女性と女児のエンパワーメントを、この点に関する世界の政府開発援助(ODA)において優先する」「包摂的で変革的な教育のために、就学前教育から高等教育まで、ジェンダーに関連する障壁や根本的な差別的社会規範を引き続き打破する」といった力強い推進の言葉が並び、G7としてはこれまで以上に踏み込んだとも言える内容となった。

さらに「ジェンダー」に特化した項目では、「すべての政策分野に一貫してジェンダー平等を主流化させるため、社会のあらゆる層とともに協働していくことに努める」「あらゆる人々が性自認、性表現あるいは性的指向に関係なく、暴力や差別を受けることなく生き生きとした人生を享受することができる社会を実現する」と明記され、世界の潮流がそうなっていることを裏付けた。

しかし、その一方で、日本国内ではG7直前に自民・公明両党による「LGBT理解増進法案」の修正案が国会に出されたものの、修正に反対する立憲民主党と社民党、共産党は2年前の与野党協議による「合意案」を提出するなど、法整備の第一歩となる理解増進法が成立するかどうかも、今なお不透明な情勢が続いている。

議長国として取りまとめた宣言の内容が実効性を伴ったものになるかどうか、その責務を果たすには、具体的な法整備が不可欠であり、G7広島は、岸田政権に、とりわけLGBTQ+の人たちを巡る人権意識に対し、本質的にどう対応するかを迫っていると言える。

●ウェルフェアを追求する経済政策

気候変動、ジェンダーや多様性は単一の指標では捉えられない

今回のG7では、5月11〜13日に新潟市で開催された「財務大臣・中央銀行総裁会議」にノーベル経済学賞受賞者のジョセフ・E・スティグリッツ米コロンビア大学教授が招聘され、「ウェルフェアを追求する経済政策」についての対話が行われたことが、あらゆる分野のサステナビリティを包括する意味合いにおいて見逃せないだろう。

G7新潟財務大臣・中央銀行総裁会議のランチセッションで講演するジョセフ・E・スティグリッツ米コロンビア大学教授(G7新潟財務大臣・中央銀行総裁会議公式サイトより)

同会議はスティグリッツ教授との対話を踏まえ、前述した成果文書の中で「われわれの経済・社会構造は、ダイナミックかつ根本的な変容を遂げている。デジタル化、特に気候変動といった持続可能性、不平等、ジェンダーや多様性は、GDPのような集計された単一の指標では十分に捉えられない。ウェルフェアの重要な要素のほんの一例に過ぎない」と強調し、「政策立案者はウェルフェアを測定するための多元的な指標を把握するとともに、そうした指標を政策立案に反映させるための運用ツールを探求する必要がある」と提言した。

文書は「われわれは引き続きベスト・プラクティスを共有し、急速な経済・社会の変革に対応して政策検討を深めていく。これらの取り組みは、G7の中核的価値観である民主主義と市場経済への信頼を維持することに資する」とする言葉でしめくくられた。

各国首脳やゼレンスキー大統領が広島の地に揃い踏みした今回のG7は、どうしても核軍縮やウクライナ支援にスポットが当たったが、気候危機や生物多様性の損失、プラスチック汚染といった複合的な危機を同時に解決していく上で、日本をはじめとする各国が個別の政策を具体的にどう打ち立てていくかが問われている。

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廣末智子(ひろすえ・ともこ)

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーを経て、2022年10月からSustainable Brands Japan 編集局デスク 兼 記者に。サステナビリティを通して、さまざまな現場の当事者の思いを発信中。