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脱炭素特集

再生エネ電力へのシフトが確定:2023年は化石燃料が主役を終える歴史的な転換点となる

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北村和也

4月中旬に、英国の著名なシンクタンクが発表した、あるデータに世界の注目が集まった。電源別の世界の発電量の推移を経年で追い、今後の予測を行ったもので、2022年が化石燃料による発電のピークとなったこと、そして今年、2023年からそれが減少に転じると占っている。
世界の発電量は近年、需要に呼応してほぼ一貫して増加してきた。その中で長い期間主役だった化石燃料による発電の代わりに今後大きく伸びるのが、風力と太陽光発電のいわゆるVRE(Variable Renewable Energy:可変的再生可能エネルギー)である。2022年時点で、風力と太陽光発電の合計発電量は全体の12%にまで拡大し、その他のクリーンエネルギーと合わせると、4割近くになった。
このデータを含む報告書を発表したロンドンのシンクタンク、Ember(エンバー)は、2023年以降を“化石燃料減衰の新しい時代”と名付けている。
今回のコラムでは、再生エネ電力への決定的なシフトを示すこの報告書を中心に、今後のエネルギーと脱炭素の行方をまとめてみたい。

2022年の電源の特徴は、再生エネの大きな伸びと化石燃料発電のピーク

昨年2022年は、ロシアのウクライナ侵略を大きなきっかけとして、かつてないエネルギー費の高騰が世界を襲った。欧州がロシア産の化石燃料からの急激な脱却を図る中、天然ガスや石炭の価格が跳ね上がり、食料やサービスなどすべての値段が連動してインフレを引き起こした。
次図は、先述したシンクタンクのエンバーがまとめた、2000年以降の3つのカテゴリーの発電源の推移と今後の予測を示している。

2000年以降の世界の発電源の推移と予測 (出典:Ember)

グラフは下から、化石燃料(黒)、風力+太陽光発電(緑)、その他のクリーン電力(水色)で、全体の発電量が拡大するのに合わせて、伸び方は違うもののいずれも増えている。エンバーの分析によれば、特に2015年以降は、風力+太陽光発電が化石燃料のシェアを奪う明確な傾向が見られ、2022年には風力+太陽光発電が世界の12%を占めるまでに伸長した。
いまだに化石燃料による発電量は全体の61%と圧倒的ではあるが、エンバーは、2022年がピークで2023年以降減少に転じると見ている。
ここで、エネルギー費高騰の嵐が吹き荒れた昨年2022年を、前年と比較しながらもう少し詳しく見てみよう。

世界の発電源別の発電量変化 2021‐2022 (出典:Ember 単位:TWh)

世界の電力需要(一番右の棒グラフ)は2021年に比して、およそ700TWh増加した。そして、需要増の8割を風力発電と太陽光発電の増加(左の2つ)でカバーしたことがわかる。また、エネルギーの高騰の要因の一つとなった、フランスを中心とした原発の不振(マイナス129TWh:右から2番目)の一方で、化石燃料による発電が天然ガスの小さなマイナスを除いて合計で増加し、再生エネ拡大と合わせて、電力需要増に対応したこともわかる。

2022年は、化石燃料による発電の減少が始まる歴史的な年に

さて、本題の今後の予測に移る。
2023年は、再生エネ、特に太陽光発電の大きな伸びが予測されている。エネルギー安全保障の観点からもロシアの化石燃料からの脱却はさらに加速し、その勢いは再生エネに引き継がれることになる。エンバーの予測では、風力+太陽光発電が2021年に比べ19%拡大し、発電量は下のグラフのように641TWhの増加となる。

2023年の前年比の発電量の変化予測 (出典:Ember 単位:TWh)

一方、化石燃料による発電量は減ると予測されている。わずか0.3%、47TWhではあるが、減少傾向はこの先も続き、ピークを越えたという見方である。エンバーは、これを“化石燃料減衰の新しい時代”と呼んでいる。合わせて、電力部門での温暖化ガスの排出量も減少に転じる可能性がある。エンバーに限らず、IEA(国際エネルギー機関)やブルームバーグNEFやRystad Energyなども同様の考え方を示している。
短期的な不況など経済の動向に左右されることはあったが、近年は全体として拡大傾向にあった化石燃料による発電がついに減ることになる。昨年来のエネルギー高騰の裏で、再生エネへの大転換を含む新しいエネルギーの動きが胎動していたのである。

化石燃料から、「風力+太陽光発電」が主役の時代へ

脱炭素社会に向けて今後の主役となるのは、風力+太陽光発電のVRE(Variable Renewable Energy)である。

世界の電力部門のネットゼロ化への道筋 (出典:Ember)

上のグラフは、IEA(国際エネルギー機関)が示す2040年の世界のネットゼロへの道筋である。2022年に全体の12%にまで拡大した風力+太陽光発電(上図:2種類の緑色)は、2030年に41%と主役の位置に躍り出る。そして、2040年には、数%程度の原子力発電(青色)を除く、ほぼすべての発電を他の再生エネ発電と合わせてカバーするシナリオである。石炭はすでにフェーズアウト、天然ガスはわずか0.3%しかない。

確かに、このシナリオ通りに進むかどうかは、今後のさまざまな不確定要素と合わせて検討されなければならない。
しかし、2023年が、発電における化石燃料が主役の時代の、終わりの始まりとなる可能性は非常に高い。空前の太陽光発電ブームに沸く欧州はもちろん、再生エネに対する大規模な減税政策が効果を見せ始めている米国も、これを激しく追っている。中国はすでに世界一の再生エネ大国であり、人口世界一目前のインドでの太陽光発電拡大の勢いは増すばかりとなっている。
5月に広島で開かれるG7サミットの前段階の外相会議などで、脱炭素に後ろ向きとしか見えない提案に終始した日本は、ホスト国としての体面すら保てないように映る。ウクライナ危機を経験して再生エネの目標を加速、改変させなかったのは先進諸国の中で日本だけであろう。今、私たち、日本がやらなければならないのは、現在の政策でどう取り繕うかという“弥縫策(びほうさく)”ではなく、真に世界をリードする野心的な提案である。

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北村和也 (きたむら・かずや)

日本再生可能エネルギー総合研究所代表、日本再生エネリンク代表取締役
民放テレビ局で報道取材、環境関連番組などを制作した後、1998年にドイツに留学。帰国後、バイオマス関係のベンチャービジネスなどに携わる。2011年に日本再生可能エネルギー総合研究所、2013年に日本再生エネリンクを設立。2019年、地域活性エネルギーリンク協議会の代表理事に就任。エネルギージャーナリストとして講演や執筆、エネルギー関係のテレビ番組の構成、制作を手がけ、再生エネ普及のための情報収集と発信を行う。また再生エネや脱炭素化に関する民間企業へのコンサルティングや自治体のアドバイザーとなるほか、地域や自治体新電力の設立や事業支援など地域活性化のサポートを行う。