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脱炭素特集

欧州が示す脱炭素への“正しい道”――ヒートポンプとEVが近年急浮上

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北村和也

2022年に火が付いた、欧州でのヒートポンプと太陽光発電は空前のブームとなって今年も増え続けている。これは、決してウクライナへのロシアの侵略が招いた一時的なものではない。さらにEVは、欧州では乗用車の新車の2割と倍増し、遅れていた交通セクターの脱炭素化も進みつつあることを示した。
お気づきかもしれないが、これで、電力(これまでの風力+太陽光発電)、熱、交通の3つのセクションで当面の主要な脱炭素プレーヤーが出そろったことになる。
隠れたキーワードは、電化である。今回のコラムでは、急浮上したヒートポンプを中心に、EV普及を含めた脱炭素への重要な役割を明らかにする。

EUが目指す2030年の脱炭素の仕組み

昨年、ロシアのウクライナ侵略を受けて、欧州は即座にエネルギー対策を改訂した。それが、「REPowerEU」(下図赤枠)である。これは、それまでの「Fit-for-55」という2030年に向けての再生可能エネルギーのエネ導入をさらに加速させるものであった。

EU27の脱炭素戦略 (出典:Ember)

特に強調された再生エネの要素は3つで、図の上部に並んでいる。左から、太陽光と風力発電、ヒートポンプ、EVが掲げられ、最終のエネルギー消費の形態である、電力、熱、交通をカバーする代表選手のように取り上げられている。新しいREPowerEUでは、ヒートポンプの目標が4150万台、EVが3000万台とされていたが、その後の実導入の加速で、「現状での2030年の見通し(下線青、Current outlook)」は、すでにそれを大きく超えている。化石燃料の高騰で、暖房ツールをヒートポンプに替える家庭が急増していることも要因である。

ヒートポンプとは? 投入する何倍ものエネルギーが使える仕組み

さて、ヒートポンプとは何であろうか。
ポッと生まれたばかりの技術でも開発中のものでもなく、すでにごく普通に使われている。「ヒートポンプとは少ない投入エネルギーで、空気中などから熱をかき集めて、大きな熱エネルギーとして利用する技術のことです」と、東京電力エナジーパートナーのWebサイトにある。さらに説明は、エアコンやエコキュート(給湯)、冷蔵・冷凍庫、洗濯機の乾燥機能など、「実はわたしたちの生活に身近なエコ技術なのです」と続く。ヒートポンプは我が国でもすでに日常にしっかり入り込んでいる。

ヒートポンプの仕組み (出典:REN21)

もう少し詳しくヒートポンプの仕組みを見てみよう。
上図の(C)がヒートポンプの本体で、熱を持った気体をここで圧縮させたり、膨張させたりして、高低の熱を創り出す。元の熱は自然に存在する空気中、水、地下、排熱など(A)で、つまり再生エネ熱である。ヒートポンプは電気(B)で動かすが、最終的に得られるエネルギー(D)は、(A)+(B)でここでは投入された電気(B)の4倍になる。(B)を再生エネ電源で供給すれば全体が再生エネのシステムとなる。日本で販売されている最新のヒートポンプエアコンでは、その倍率が7になるというから驚く。

急進する欧州のヒートポンプとEV化

ウクライナ情勢は、ロシアからの化石燃料脱却とエネルギー費高騰を招いた。同時に、ヒートポンプの大量導入などを呼んで、REPowerEUのプランを超える実績を生み出そうとしている。下のグラフは、ヒートポンプとEVの欧州での実績と今後の予測を示している。
ヒートポンプでは、中位の予測(赤丸枠)でさえ、REPowerEU(現在の2倍導入)をはるかに超える6000万台(現在の3倍)を示している。

EU27の目指すヒートポンプとEV導入の加速化 (出典:Ember)

EUの脱炭素戦略は、熱はヒートポンプ、交通はEVという、いずれも「電化」で乗り越えようとしているのがよくわかる。これまで、石油、ガソリン、天然ガスという化石燃料に大きく頼ってきた「熱」、「交通」セクションの脱炭素への道が大きく開かれたことになる。

欧米に限らず、エネルギーの需要構成を世界で見ても大きな差はない。
次のグラフは、最終的にエネルギーがどんな形で使われていて、そのうちどの程度が再生エネ化されているかを示している(データ2019年)。
熱(冷熱、暖房 51%)、交通(32%)、電気(17%)の順で、日本を含む先進国でもおおよそ、5対3対2の割合となっている。

最終エネルギーの消費に見る再生エネ (出典:REN21)

それぞれのうち何%が再生エネかという数字が、各四角の左下に添えられている。熱は11%、交通は4%程度しかなく、最大の電気でさえまだ3割に満たない。
下半分のグラフでその推移が示されている。しかし、電気の上昇ははっきり見て取れるが、熱や交通はほとんど上がっていない(交通はいったん下降したため、上昇の数字は高く見える)。熱や交通の再生エネ化、脱炭素化がこれまでどれだけ大変だったかがわかる。

世界を救う、あふれるほどの再生エネ電力

今回のコラムではさらりと触れただけであるが、欧州は再生エネ電力の拡大加速化を脱炭素の最も上位に掲げている。ヒートポンプもEVも電力で動くものであり、その電力が再生エネ化されなくては、カーボンニュートラルにならないのは自明である。
ロシアのウクライナ侵略で痛い目に合ったドイツをはじめとする欧州各国は、エネルギー安保の観点からも、どの国にも存在し燃料費がかからないVRE(風力、太陽光発電)の促進にさらに力を入れている。これまで一定の導入が進んでいた風力発電に加え、太陽光発電の家庭の屋根上設置が、電気代高騰を引き金に激増している。

欧州の戦略はこうである。2030年までは、電力の再生エネ化を基本に熱も交通も電化によって脱炭素を進める。増える需要をカバーする再生エネ電力はいくらあってもありがたい。2050年の最終到達点に向かっては水素が有力な支援になる。グリーン水素を大量に生み出すには、こちらもあふれるほどの再生エネ電力が必要だとし、そこへの大幅な追加投資を呼び掛けている。
実質的に世界最大の再生エネ発電国となった中国は当たり前だが、アメリカも太陽光発電に注力を始めた。欧州の太陽光発電、ヒートポンプ、EVの急拡大は、脱炭素化の基本を進める王道であり、すでに世界にそのすそ野は広がっている。

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北村和也 (きたむら・かずや)

日本再生可能エネルギー総合研究所代表、日本再生エネリンク代表取締役
民放テレビ局で報道取材、環境関連番組などを制作した後、1998年にドイツに留学。帰国後、バイオマス関係のベンチャービジネスなどに携わる。2011年に日本再生可能エネルギー総合研究所、2013年に日本再生エネリンクを設立。2019年、地域活性エネルギーリンク協議会の代表理事に就任。エネルギージャーナリストとして講演や執筆、エネルギー関係のテレビ番組の構成、制作を手がけ、再生エネ普及のための情報収集と発信を行う。また再生エネや脱炭素化に関する民間企業へのコンサルティングや自治体のアドバイザーとなるほか、地域や自治体新電力の設立や事業支援など地域活性化のサポートを行う。