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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Life Media, Inc.)

沖縄発、サトウキビの搾りかすから生まれたデニムが目指す地域創生

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ジーンズをはじめとするデニム素材の商品が揃う「SHIMA DENIM WORKS」の店内。沖縄の優しい風が流れる(浦添市港川2丁目、2022年11月撮影)

ざわわ、ざわわ、ざわわ‥。沖縄の風が吹き渡る場所、と言えば誰もがサトウキビ畑を思い浮かべるだろう。沖縄の基幹産業であるサトウキビの生産量は減少傾向にあるが、今でも年間約81万トンが収穫され、昔ながらの黒砂糖などがつくられ続けている。一方でこれまでは廃棄されてきたその搾りかすを繊維へと生まれ変わらせ、日本各地の職人の手を介して国産のジーンズとして商品を展開する小さな店が、浦添市の通称「港川外人住宅街」にある。エシカルやサステナブルを打ち出すファッションが数多くあるなか、なぜジーンズなのか、アップサイクル事業を通じてどんな地域創生を目指すのか――。店を運営するスタートアップ、「Rinnovation」の山本直人代表に聞いた。(廣末智子)

店舗はかつて外国人向けの住宅としてつくられたコンクリート造りの平屋を改装した店が並ぶ地元の観光スポット、「港川外人住宅街」の中にある。真四角の白い外観が目印だ

おしゃれで可愛い、小さなショップたち。「港川外人住宅街」はかつて外国人向けの住宅としてつくられたコンクリート造りの平屋を店舗に改装した店が並ぶ、沖縄では比較的新しい地元の観光スポットだ。そのレトロでアメリカンな雰囲気は、戦争を経て米国との深いかかわりを背負う沖縄の、明るく開放的な一面を反映している。「SHIMA DENIM WORKS」はこの場所で2019年1月にオープンした。

例えば、那覇の国際通りといった観光客の集まりやすい場所ではなく、浦添のこの場所に開店した理由を、山本代表は、「地元よりも県外の方にお金を落としてもらえる場所に、とは考えたが、大量生産・大量販売を目指すのとは違う。店の思いにしっかりと共感し、ここまで来てくださる方たちに商品を届けたいという思いが強かったからだ」と説明する。

原点となるサトウキビ畑の画像を背景にオンラインで取材に答える山本氏

山本直人(やまもと・なおと)氏 1977年東京都出身。大学卒業後、全国の地域活性化案件を幅広く手掛ける広告代理店で企画立案や商品開発、ブランディングなどの事業に携わる。2018年に退社し、「SHIMA DENIM WORKS」の運営母体となる株式会社「Rinnovation」を設立。東京・文京区の本社と、沖縄の店舗を核に、支社を置く京都や、拠点のある福山、タイのサトウキビ生産地などを飛び回る毎日を送っている。

原点は、前職の広告代理店の社員時代、2015年ごろのできごと。仕事で何度も沖縄に足を運ぶなかで、統廃合されるサトウキビの製糖工場で話を聞く機会があり、そこで『サトウキビは沖縄の宝』と大きく書かれた看板を見て、胸に迫るものがあったという。

「コロナ前の沖縄は約20年間で飛躍的に観光客が増え、一大観光地になりました。ただ人口はほぼ変わらず、限られたリソースのなかでいちばん影響を受けるのが一次産業です。収益性がなく、重労働である農業は特に衰退している。なかでも基幹産業であるサトウキビ農家がものすごく減り、収穫量も最盛期の3分の1ぐらいになったと聞き、なんとか本当の意味で地域活性につながるような産業を起こせないかと考えました」

製糖工場ではバガスと呼ばれるサトウキビの絞りかすが日々大量に発生する=「SHIMA DENIM WORKS」提供

製糖工場にはバガスと呼ばれるサトウキビの搾りかすが山積みになっていた。一部は工場のボイラーの燃料や畜産の飼料などに再利用されるが、大半は廃棄されることを知った山本代表の頭に浮かんだのが、食物繊維が88%と豊富でセルロース分の多いこのバガスの特性を生かして繊維がつくれるのではないか、そしてその繊維からデニムを、ジーンズをつくれないか、というものだ。

なぜジーンズなのかという問いに、山本代表は、もともと炭鉱のユニフォームだったデニムは非常に丈夫であり、「全く同じ色落ちの仕方は絶対にしない」など、普通の洋服にはない経年変化が味わいにつながること、ひいてはそれが「製品寿命を最小化できる」ことを挙げる。さらに諸説はあるが、ジーンズはアメリカから始まったものであるとされることからも、「非常にシンボリックであり、目指す事業の意味合いと合致した」のが大きな理由だという。

バガスとバガスの粉末、バガスからできた「紙糸」やデニム生地など=「SHIMA DENIM WORKS」提供

構想は、沖縄県内の工場でバガスを粉末にし、1300年もの歴史を持つ岐阜県美濃市の和紙工場の協力で、吸湿速乾性に優れ、綿の半分ほどに軽い「紙糸」にすることで実現した。そこからは国産デニムの生産地である広島県福山市へと舞台を移し、撚糸工場で「バガス繊維」として加工した後、テキスタイル工場で、通常のオーガニックコットン(Cotton USA)と組み合わせながらデニム生地に織りあげていく。染色工場でも薬剤は一切使わない。

ブランド「SHIMA DENIM WORKS」のジーンズは、一本一本がそのような工程を経てできあがり、商品の一部は最後、沖縄唯一のデニム工房で、ハンドメイドで仕上げられる。端切れや糸くず等の廃棄物は、焼却せずに炭化させ、土壌改良剤として再利用する。サトウキビ畑へまかれた炭はサトウキビの成長を促進し、そこから新しい芽が育つ。それが、「SHIMA DENIM WORKS」が確立したサーキュラーエコノミーの流れだ。

国産デニムの職人技をつなぎ、且つサプライチェーンを5分の1に

HPの左肩には「現在、消費したバガスの総量23050キログラム」とある(2023年1月現在)。初年度は、1回に約200キロのバガスを原料に製品を工場に発注していたのが、5年目の今は1回あたり1トンを年に2回は発注するなど、事業規模は約5倍に成長した。

山本代表によると、一般的なジーンズは、原料となるコットンを収穫し、繊維化・生地化して製品として店頭に並ぶまでに「地球を1.6周するほどにモノが動く」とされる。「SHIMA DENIM WORKS」の場合、それを「日本各地のしっかりとした技術を持つジャパンデニムの産地をつなぐことで、5分の1の距離、約1万5000キロほどに縮めた」のが大きな特徴だ。

その距離に込めた思いを、山本代表は「ジーンズというのは、糸を作る人、染める人、布を織る人…とものすごく分業制です。その中で世界に誇る技術を培ってきた日本の工場が、工賃を上げることもできない状態でいるのはおかしい。沖縄だけでなく、デニムに関わる日本の地域が一緒に浮揚していかないと真の地域創生にはつながらない」と語る。

つまり、サプライチェーンの物流をできるだけ小さく保ちつつ、日本国内のデニム職人の技術を生かし、各工場がそれぞれに取り組んでいる環境負荷を減らすための取り組みを積み上げながら循環の輪をつくっていこうという、絶妙なバランスの上に成り立つ距離が約1万5000キロなのだ。

サトウキビの絞りかすから生まれたジーンズたち。見た目も普通のジーンズとは違い、独特の光沢がある

「紙糸」から生まれた生地ならではの光沢があり、パリッとした独特の風合い。履くほどに柔らかくなるというジーンズは1本27500円〜36300円(税込み)と値は張る。それでも昨年は他社とのコラボ商品などを含めて1250本を販売し、ネット販売も含めた売上は前年比で約1.8倍となった。もともと店舗とネットの販売比率は9対1で店舗の方が多く、最近は「県内の方が購入しに来てくださる機会が非常に増えた」と山本代表は手応えを話す。2年前には県の優良産品に選定されるなど認知度が上がり、「みなさんにサトウキビからというところに共感していただいているのを実感する」という。

バガス以外の原料にも 全国にアップサイクルの輪が波及

コラボ商品の例は、地元オリオンビールとの連携による限定50本のジーンズや、「SHIMA DENIM WORKS」のアップサイクル技術に注目したサッポロビールの声掛けで、ビールの搾りかすから製造したジーンズなど。共創の輪はバガス以外の素材にも広がり、化粧品の材料に使った後のハトムギや、食品に使ったトマトの葉、カカオの殻や東北地域のコメの籾殻など多岐にわたる。要は、「とにかく廃棄されるものをSHIMA DENIMの力で製品化する」方向で新たなビジネスが生まれつつあり、ジーンズ以外にも愛知県一宮市ではウールにバガス繊維を組み合わせてスーツの生地に仕立てるなど、沖縄発のアップサイクルの形が全国に波及している格好だ。

これには、沖縄に軸足を起きつつも、もともと本社を東京に構えた、「Rinnovation」の企業としての在り方も大きく寄与している。「事業は大きなスケール感をもって動かしていくことも大事。常に外側からの視点を持ち続け、アップサイクルや地域創生の理念に共感してくれる人たちと一緒に企業として成長していきたい」(山本代表)という思いがBtoBのビジネスを大きく広げている。

協業は日本だけにとどまらない。サトウキビはもちろん、沖縄だけでなく、世界中で年間約19億トンも生産されている世界最大の農作物であり、年間1億8900万トン〜3億7800万トンものバガスが発生している。昨年からは、その世界第5位のさとうきび生産大国であるタイとの連携を模索し、工場で発生するバガスを何らかの形でアップサイクルするプロジェクトが具体化に向けて進んでいるところだ。

「僕らのやっていることがアパレル産業の環境負荷低減に少しでもつながり、世界の課題解決の一助になればいいなと思います」

恩師に教わった、ものの価値のつくり方、目の前でなく先を見ること

「SHIMA DENIMWOKS」では、バガスの繊維から「かりゆしウェア」も製造・販売。沖縄県内のホテルと提携し、観光客らに貸し出すシェアリングサービスなどにも力を入れている

創業時にはエシカルやアップサイクルといった言葉も今ほど一般的ではなく、バガスの粉末から紙糸をつくってくれた美濃市の和紙工場も、「全国の限られた工場で、話を聞いてくれたのがそこだけだったから」というところからのスタートだった。それでも突き進んでこれたのは山本代表にとって会社員時代にサトウキビ工場で見た風景を原点に、「地域をサポートするとは雇用を生み、産業を構築すること。それをバガスと紐づけてこそ、沖縄の、サトウキビ産業の創生につながる」という強い思いであり、「それは自分の中の決定事項だったから」だ。

その、まるでZ世代の起業家のような社会課題解決に向けた思いはどこから来たのか。問いを重ねると、会社員時代に出会い、2017年に亡くなった恩師の存在を明かしてくれた。日本各地の地域創生に関わり、映像プロデューサーとしても名を馳せた藤井雅俊氏で、「売り上げの作り方を教わったことは一度もないが、ものの価値のつくり方や、目の前じゃなく、先を見ること、点ではなくスケール感でものを考えることなどを教わった」という。

「(藤井氏は、今の「SHIMA DENIM WORKS」を見て)やっていることはいいんじゃないかと言ってくれるでしょうが、それがどれだけ経済効果を生み出し、地域貢献につながっているかというとまだまだ足りない。しかし、だからこそ可能性はあるわけで、結果が出せるよう頑張っていきたい。こういうものを作ったよ、こういう循環をやっているよという事例をしっかりとつくり、僕自身もサステナブルネイティブと言われる世代の人たちに気付きを与えられる立場になりたいと思っています」

山本代表が謙遜気味に言うように、地域の社会課題に向き合った商品が目に見える経済効果として表れるにはまだまだ時間がかかるだろう。しかし、各地域にとって、どの分野の産業を底上げし、何をアップサイクルしていくことが最適の道筋なのか、何がいちばん地域のためになるのか、その根幹を見据えたチャレンジ精神こそが、今の日本にもっとも求められている ”再生魂” と言えるのではないだろうか。

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廣末智子(ひろすえ・ともこ)

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーを経て、2022年10月からSustainable Brands Japan 編集局デスク 兼 記者に。サステナビリティを通して、さまざまな現場の当事者の思いを発信中。