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脱炭素特集

EVで後れを取る日本が、本当に心配しなければならない2つの重要なこと

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北村和也

Photo by Andrew Roberts on Unsplash

昨年の各種のデータがまとまり始め、世界的にEV(電気自動車)導入が予想をはるかに上回るペースで進んでいることがはっきりした。ところが、日本の実態は驚くほど遅い。世界で新しい乗用車の10%がEV化されているのに、日本は2%に満たない。これは、日本のEVシェアが伸び悩んでいるなあ、といったのんびりしたレベルの話ではない。
そこには2つの深刻な問題点が隠れている。
一つは、日本の自動車産業の将来の陰りであり、もう一つは、日本の脱炭素社会実現への危惧である。
今回のコラムでは、EVに係る強い懸念についてまとめる。

すでに世界の乗用車の新車販売の1割がBEVに

2022年の世界のEVの販売数はおよそ780万台で、初めて自動車販売の10%に達した。これは、イギリスの調査会社LMCオートモーティブなどによるもので、昨年比で+68%という驚異的な伸びである。
重要なのは、ここでいうEVとはいわゆるバッテリー式のEV(=BEV)であり、HEV(トヨタが得意とするハイブリッドEV)どころか、PHEV(プラグインハイブリッド)さえも含まない数字であるということである。
実は、EVの売れ行きには大きな地域差がある。

(世界の電動乗用車の地域別の販売の推移 出典:Bloomberg NEF *2022年は推計)

上記のグラフを見てみると、販売数にはPHEVなども含まれるが、半数以上が中国で、続いて欧州、北米で売れていて、ここまでで全体の9割を大きく超えている。各国内でのシェアも中国では19%、欧州でも平均11%まで上がっている。ノルウェーの9割弱は特別としても、ドイツの12月の新車販売ではEVの販売数がガソリン車を越えてしまった。
日本でも昨年のEV販売が過去最高を記録したが、シェアはわずか1.7%、台数で6万台弱にすぎない。

EVのシェア縮小は、日本メーカーの自動車全体シェアの縮小

EVの販売予測は当たらないので有名である。
Bloomberg NEF社は毎年EVの将来予測を発表するが、いつも過小なデータしか示せずに結果として上方修正している。現状では、2030年には新車の4割程度まで伸びると予測しているが、これも前倒しで達成される可能性が高い。いずれにせよ、EVは新しもの好きの先取りのレベルは終わって、すでにごく普通の選択肢になり、遠くない将来に主流となる。

よく考えてもらいたい。せいぜい数%のEVシェアでの勝ち負けは気にならなくても、EVが主流となれば、その負けは全体販売での敗北となる。

(2022年上半期、世界のBEV出荷台数トップ5メーカー 出典:Clean Technicaをもとに編集部作成)

上のグラフは昨年上半期のBEV出荷数のトップ5メーカーである。
1位のテスラはもちろんよく知られており、2位と3位は中国のメーカー、4位がドイツのフォルクスワーゲン、5位は韓国の現代自動車となっている。
日本のメーカーは、統計の取り方にもよるが、10位以内あたりに日産グループがかろうじて入るだけで、トヨタははるか下に沈む。日本メーカー全体でもEVシェアは世界で5%を切っている。日本政府も含め、ハイブリッド(HEV)に固執して時流から大きく遅れたのが響いている。
繰り返すが、問題はEVがメインとなる時代がそこまで来ているということである。このままでは、EVのシェアだけでなく、全体シェアも減らすことになり、日本経済をけん引してきた自動車産業が衰退していくことにつながりかねない。

脱炭素のツールとしてのEVの重要な役割

EVの導入自体は、交通手段の電化でガソリンという化石燃料の利用を大きく減らすことになる。つまり、脱炭素の重要なツールであることはよく知られている。もちろん、使用する電気がゼロカーボン、再生可能エネルギー由来である必要がある。
一方で、最近EVに積んだ蓄電池の利用ががぜん注目されてきている。

(EV・PHEVとV2H機器の活用イメージ 出典:資源エネルギー庁)

上図は、EVの蓄電池を利用して、自宅の屋根に設置した太陽光パネルからの電力を充電したり放電したりして有効に使う方法、いわゆる「V2H」を示している。
再生エネ電力の自家消費だけでなく、非常用電源として使ったり、また系統とつなぐことでいわゆる電力の調整力として利用したりすることも視野に入れている。
EVは大型のバッテリーを載せていて、軽EVのサクラでも20KWh、日産リーフでは40KWhにもなる。蓄電池の値段はまだ高価で、単独で買ってもEV本体の値段とさほど変わらないものもある。つまり、EVは、大型蓄電池におまけで走る機能が付いたというイメージも決して間違いではない。

実は、乗用車は9割の時間駐車していて、その際、EVなら蓄電池は使われていない。その蓄電池をうまく利用できれば、機能の利用コストを激減させることができるのである。V2Hは原則として個々の家庭での利用であるが、系統につないで束ねて使えば、いろいろなことができる。
例えば、各地で太陽光発電施設が急速に拡大し、その時の需要を大きく上回る発電量が見込まれることから、発電を止める「出力制御」がどんどん増えている。せっかくの再生エネ電源が使われずにいるのである。これを一般の蓄電池で充電することはできるが、蓄電池の価格が高くてペイしないのが実情である。再生エネが増やせない原因の一つがここにある。

ここでEVのバッテリーをその受け皿に使うというのが、賢い利用法となる。この使い方を「柔軟性」と呼び、再生エネ導入の鍵はこの柔軟性の拡充にもある。日本の再生エネ電源は太陽光発電が圧倒的で、夜のカバーをどうするかが課題である。EVの蓄電池が広く使えると飛躍的に状況が改善される可能性がある。

最近、日本でもEVの蓄電池利用を進めるシステムを構築するスタートアップ企業が増え、柔軟性拡大の技術や利用法が注目を集めている。ところが、肝心のEV導入が日本は大幅に遅れているのである。EVの一定以上の台数が存在しなければ、絵に描いた餅である。
EVで後れを取る国は、自動車産業の衰退に結び付く。さらに再生エネ導入拡大が遅れることで脱炭素にも掉(さお)さすことになる。日本の抱えるEVにまつわる心配は、決して放っておくことが許されない緊急の課題である。官民挙げての素早く、実効性のある対応が望まれる。

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北村和也 (きたむら・かずや)

日本再生可能エネルギー総合研究所代表、日本再生エネリンク代表取締役
民放テレビ局で報道取材、環境関連番組などを制作した後、1998年にドイツに留学。帰国後、バイオマス関係のベンチャービジネスなどに携わる。2011年に日本再生可能エネルギー総合研究所、2013年に日本再生エネリンクを設立。2019年、地域活性エネルギーリンク協議会の代表理事に就任。エネルギージャーナリストとして講演や執筆、エネルギー関係のテレビ番組の構成、制作を手がけ、再生エネ普及のための情報収集と発信を行う。また再生エネや脱炭素化に関する民間企業へのコンサルティングや自治体のアドバイザーとなるほか、地域や自治体新電力の設立や事業支援など地域活性化のサポートを行う。