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脱炭素特集

欧州、「空前の太陽光発電とヒートポンプブーム」が日本に与える前向きな影響

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北村和也

Photo by Cassie Boca on Unsplash

ロシアのウクライナ侵略など、欧州をきっかけに世界を揺るがすエネルギー費の高騰。電気代やガス代などの急上昇は食料など生活すべてに及び、インフレなどによって私たちの生活を脅かしている。負の側面ばかりが強調されることが多いが、一方で強い再生可能エネルギーブームを呼び起こしていることを忘れてはならない。
今回のコラムでは、欧州で進む、太陽光発電とヒートポンプの一大ブームについてお伝えすると共に、日本への伝播(でんぱ)、ポジティブな影響を考察してみたい。

ウクライナショックが決定づけた、再生エネ拡大への加速

過去のコラムで示したように、ロシアのウクライナ侵略を端緒とする天然ガスなど化石燃料のロシア依存脱却の動きは、自国で賄えて燃料代のかからない再生エネへのシフトを急速に早めることになった。繰り返すが、脱原子力発電の延期や石炭利用は再生エネが十分拡大するまでのつなぎという考え方である。

IEA(国際エネルギー機関)が12月に発表した報告書「Renewables2022:2027年への分析と予測」でも、2025年の初めには、再生エネが石炭を抜いて世界最大の電源となるとしている。そして、再生エネ全体の発電容量シェアは、2027年までに10ポイント増加し38%と予測された。
中でも、太陽光発電の伸長は目覚ましく、2027年に石炭を上回り電源別でトップに躍り出る見通しである。

(世界の電源別の発電容量と2027年への予測 出典:IEA「Renewables2022:2027年への分析と予測」単位GW)

IEAの報告書では、太陽光や風力を中心に再生エネ電源は、2027年までの5年間でおよそ2400GW増えるとされている(次グラフ)。これは過去20年間の増加分に匹敵する量で、この1年間で予測自体が30%伸びている。これは、ウクライナ危機が生んだ「エネルギー安全保障」の必要性によるもので、欧州に限らず中国やインドなどでも同様の傾向にある。

(世界の再生エネ電源容量の時期別の増加量と予測 出典:IEA「Renewables2022:2027年への分析と予測」単位GW)

欧州各国で起きる太陽光発電設置ブームの実際

特にロシアの化石燃料からの脱却が急がれる欧州各国では、太陽光発電急拡大の予測を裏付けるデータが次々と示されている。中でも電気代急騰に苦しむ一般家庭や事業者などの屋根上などへの設置意欲は旺盛である。
イギリスで300を超える太陽光発電設置業者を束ねる業界団体ソーラーエナジーUKによれば、今年前半に住宅の屋根に設置された太陽光パネルは昨年一年分の量を超えたという。業界としても、2030年までに合計40GWの積み増しを目指している。
また、需要に伴って欧州全体の太陽光パネルの輸入も増えている。

(EUの太陽光パネルの輸入額 出典:POLITICO、BNEF 単位:ドル)

グラフが示すように、昨年2021年の半ばから拡大が始まり、今年に入って輸入額が急激に増えている。ちょうどEUの電力卸売市場の値上がり時期と値上がり額に呼応しているように映る。卸売価格は2021年初頭の10倍規模となり、それに合わせて電気料金も今後さらなる高騰が見込まれている。太陽光パネル設置による自家消費は、明らかに電気料金削減につながる。EUとしても脱炭素実現のために再生エネ拡大を目指しており、自衛手段として設置を検討する家庭や企業のニーズと合致しているともいえる。

熱を抜きにして語れない脱炭素とヒートポンプへの注目

ここまで電気の話をしてきたが、エネルギーの課題として考えれば、欧州全体にとっても家庭を含む需要家にとってみても、熱を外すことはできない。特に天然ガスの用途は、家庭用ではお湯を含む暖房が圧倒的で、ドイツでは発電に使う分は10%強しかない。
つまり、ロシアからの天然ガスを使わないようにするためには、熱の代替品を考えるのが合理的であることがわかる。
以下の図は、ドイツの2021年の最終エネルギー消費量をセクター別に示したものである。

(ドイツ、最終エネルギーのセクター別消費量TWh 出典:Die ZEIT ONLINE)

縦に「ガス」、「電気」、「オイル・ガソリン」と並び、横は左から需要先の「家庭」、「産業」、「商業」、「交通」を示している。一見してわかるように、天然ガスはどの需要先でもそのまま使われることが多く、実際に家庭でも産業でも熱利用が最大である。当たり前だが、ガソリンは自動車の利用が圧倒的(右下の円)で、脱炭素化に向かってEVへの転換が急激に図られている。

では、化石燃料に頼っている熱をどう脱炭素に転換しようとしているのであろうか。
答えは、このコラムのもうひとつのテーマである「ヒートポンプ」である。
ヒートポンプとは、空気中、または地中の熱を集め何倍もの熱エネルギーとして活用することができる技術である。実際にエアコンや冷蔵庫などに使われている馴染みのあるもので、例えば、現在のヒートポンプエアコンは投入エネルギー1に対して、7倍の熱利用が可能という優れモノである。

その仕組みを図式化したのが次の絵である。

(ヒートポンプの仕組みとパフォーマンス 出典:REN21)

A:存在する再生エネ熱(空気、地下水、地熱など)3kWh
B:熱利用のシステムを動かすための再生エネ電力1kWh
C:ヒートポンプ
D:利用できる熱4kWh

ここでは、投入エネルギーに対して4倍の利用となっている。
気が付くように、システム(C)のコストがポイントで、また、熱を集めるヒートポンプを動かすための電気(B)が再生エネ由来でないと完全な脱炭素にはならない。
欧州ではここにきてロシアの天然ガスを減らすことができ、さらに脱炭素にもつながる仕組みとして注目を集めるようになり、自家消費の太陽光発電と並んで大きなブームを呼んでいる。

次のグラフは、ドイツの暖房用システムの構成比と今後の推移を予測したものである。

(ドイツ、暖房用熱供給システムの構成と将来予測 出典:Agora Energiewende)

一番左の現状のシステム(2016~2020)は、グラフ下部の暖房用オイル(濃緑)と天然ガス(薄灰緑)の化石燃料利用が全体の3分の2を占めている。しかし、すでにヒートポンプ(薄紫)への転換が急激に始まっていて、2026年以降では7割以上がヒートポンプになると予測されている。
実際に、ドイツのテレビなどではヒートポンプの特集が組まれたり、設置のやり方の動画が頻繁にWEBサイトにあげられたりしている。

日本への影響とブームの予感

日本でも電力が高騰しているため、対策としての太陽光発電の自家消費需要やコーポレートPPAが欧州同様に急拡大している。ただし、欧州の太陽光発電ブームによって、日本へのパネル輸出や部材調達の滞りなども起きているが、時間の経過とともに解消に向かうであろう。

熱の話に移る。日本では残念ながら再生エネ熱への関心や理解がやや低いのが現実である。
しかし、再生エネ電源の国内での確保は、日々難しくなり、時間も要している。前述した発電設備の部材調達の困難さだけでなく、取り合いになっている適地の決定的な不足、また系統連系の脆弱性などは多くの関係者の語るところである。

一方で、企業や自治体に対する脱炭素の要請は強くなるばかりである。脱炭素は、電力だけでなく、熱や交通などすべてで実現しなければならない。そこでは電力の確保だけでなく、できるものは何でも取り掛かるという姿勢が必要となる。これは、情報交換している政府などのエネルギーセクションの担当者の考えとも一致している。
つまり、カーボンニュートラルに資する熱や交通への対応策、具体的にはEVへの転換や本コラムのテーマであるヒートポンプ利用はドンピシャの方法になり得るということである。

世界のヒートポンプ機器のメイン企業の一つであるダイキン工業は、50年ほど前から欧州に進出しているが、現在、化石燃料の暖房から高効率のヒートポンプ暖房への切り替え需要をターゲットに拡大を図っている。ポーランドの新工場には400億円を充てる。
また、パナソニックも新しい工場の欧州での建設の検討を発表したばかりである。ヒートポンプ暖房の生産を現状の6倍の100万台に増やす目標を掲げている。

交通の脱炭素化はEVでほぼ決まったが、熱の転換では企業などは苦慮している。ヒートポンプはその重要な答えの一つであるのは間違いない。今後は、特に寒冷地でのヒートポンプ暖房の展開などが期待される。爆発せずともジワリとくるブームは目の前であろう。

また、大量の木質バイオマスを燃やして発電だけに使う専焼施設はすでに外材の高騰などで行き詰まり始めている。こちらは、小規模のコジェネ、もしくは熱利用だけの需要が膨らむとみている。

電気だけでは解決できないのが脱炭素である。いつまでも電気だけに拘泥されることのない多岐にわたった取り組みが、政府、企業、自治体、そして私たち個人にも求められている。

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北村和也 (きたむら・かずや)

日本再生可能エネルギー総合研究所代表、日本再生エネリンク代表取締役
民放テレビ局で報道取材、環境関連番組などを制作した後、1998年にドイツに留学。帰国後、バイオマス関係のベンチャービジネスなどに携わる。2011年に日本再生可能エネルギー総合研究所、2013年に日本再生エネリンクを設立。2019年、地域活性エネルギーリンク協議会の代表理事に就任。エネルギージャーナリストとして講演や執筆、エネルギー関係のテレビ番組の構成、制作を手がけ、再生エネ普及のための情報収集と発信を行う。また再生エネや脱炭素化に関する民間企業へのコンサルティングや自治体のアドバイザーとなるほか、地域や自治体新電力の設立や事業支援など地域活性化のサポートを行う。