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新しいフェーズに入った脱炭素~COP27が私たちに迫る効果的な実現策

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北村和也

COP27の最終日11月20日に「損失と損害」に関する新基金の設立が決まった(COP27オフィシャルサイトより)

エジプトで開かれていたCOP27は11月20日、前回のCOP26同様に延長の末に閉幕した。総意として、温暖化防止が地球的な重要事項であっても、個別の課題、例えば、化石燃料の取扱いなどは個々の国の利害などで簡単にはまとまらないことを示している。底流にあるのは、主として先進国と途上国との間の争いである。

今回はメディアでも中心的に取り上げられたように、温暖化による「損失と損害」に対する途上国への支援が争点となり、まがりなりにも基金の設立が決まった。結果を途上国の勝利と見る向きもある。しかし、重要なのは、個々の課題の解決・未解決より、「フェーズ転換」の認識である。

脱炭素は、目標設定などの合意を巡るやり取りから、待ったなしの実行の段階に完全に入ったと言ってよい。カーボンニュートラル宣言の国が急増し、実現の年が早まっていったこの数年間を経て、どうやって本当に脱炭素化するのか実効性が問われている。

これは、各国の政府のレベルはもちろん、すべての企業や個人にも求められる重い責任である。

画期的だった、気候変動による損失と損害をカバーする基金設立

今回のCOP27の結果は、大きく2つに絞られる。
まずCOP26で事実上合意した、温度上昇1.5度の抑制を維持したことである。ただし、前回踏み込んだ石炭火力発電に対する段階的削減の強化はなく、前進とはいえないものであった。
もう一つが、「損失と損害」の議論である。
進む気候変動のために起きる世界各地での災害の頻発は、日本も含め実感レベルに達している。以下のグラフで示すように、今年の初夏から夏にかけては東アジアや欧州を中心に世界的な熱波が発生した。
例えば、欧州では水不足によって水力発電が極端に不振で、電力供給が危機的状況となった。一方、特に災害の予防に十分な費用を割くことができない途上国での被害は、国の存立を揺るがすまでになってきている。パキスタンの大洪水では国の3分の1の面積が水没した。数百万人が被災し、いまだに継続中である。

2022年の6月から8月にかけての熱波(出典:Berkeley Earth)

損失と損害の問題は、長く温暖化の中心議題となってきた。“先に経済発展を果たし温暖化を招いた先進国”と“その被害を受けるだけの途上国”という対立の歴史でもあった。
今回、激しい議論と会期延長の末、「損失と損害にフォーカスした基金を2023年のCOP28に設立する」ことが決まった。画期的な成果といってよい。

地球上すべての存在が、責任として問われる脱炭素の実行

基金設立に至った最大の背景は、気候危機といわれる温暖化の強烈な悪影響である。このまま放ってはおけない状況という危機感が、最終的な妥協を生んだと考えられる。
カーボンニュートラルを達成するには、すべての国が参加しなくては意味がない。それは、財政的に余裕のある先進国であろうと、ウクライナ情勢が招いたエネルギーと食糧の高騰の激しい影響にさらされる途上国であろうと同じである。頻発する温暖化による災害は、途上国のさらなる国力劣化を呼んで“脱炭素どころではない”状況に突き落としている。基金の設立は、おこがましい言い方ではあるが、損失と損害に苦しむ途上国を、脱炭素実施のステージに引き上げるために必要なものである。そこまでの状況に人類は追い込まれている。

COP27の成果は、単に途上国と先進国の間での有意な合意というだけではない。脱炭素化策の実効性を担保し、地球上のすべてのプレーヤーが目標に向かってそれぞれ努力を行うことを迫っている。脱炭素の宣言や表明だけでは責任は果たせず、実施が必須となる新しい段階に入ったことになる。
例えば、基金については、先進国に加え新興国である中国にも拠出が求められることになる。もちろん、日本の財政的な負担もすぐに俎上に載ることになる。
地球上で温暖化の影響を受けない所はなく、脱炭素への取り組みを除外される対象も存在しない。政府だけでなく、民間のすべての企業や各種の団体、そして学生や個人などあらゆるものの取り組みがチェックされることを忘れてはならない。

必須となる自らの脱炭素行動のチェック

その観点からみると、私たちの現状の行動はあまりに緩く、甘いと言わざるを得ない。現在、先進国でさえエネルギー高騰を中心としたインフレに苦しみ、かろうじて先進国に踏みとどまる日本に余裕はない。そんな中で果たして政府や企業、個人が、脱炭素に本当に取り組めているか、点検が必要である。仮に基金が立ち上がり、日本政府が一定額を拠出したとしても、それは単なる責任の一部を果たすことにしかならない。

日本政府のエネルギーに関する取り組みを見てみよう。
先日、来年の2月から実施されるエネルギー高騰の新しい緩和策、需要家への電気とガスの料金支援が発表された。すでに実施されているガソリン対応に加わるものである。

ガソリンの全国平均価格の推移、補助なしと補助後(出典:資源エネルギー庁)

先に始まったガソリン代の補助額は3兆円を超えようとしており、電気代とガス代の補助は10月までと期限はついているが、こちらも3兆円規模となる。
所得制限のない補助に対する非難もあるが、ガソリンの使用を維持、促進することになりかねず、脱炭素に反するといった声が非常に強い。特に本来起きるはずの、値上がりによる需要抑制の動きを止めてしまうというのである。
政府が進めるエネルギー高騰対策は、きつい言い方をすると単なるバラマキでしかない。決定的に脱炭素の視点が抜けている。

この冬、夏同様の節電要請が政府から発信された。脱炭素の急激な進行とウクライナ情勢が重なった電力不足の不安解消が目的である。しかし、節電の数値目標はない。欧州では、ピーク時の5%と来年3月末までの総需要の10%カットが掲げられている。
COPなどの国際的な約束と実生活との乖離(かいり)は、危機感の無さから生まれる。政府は目の前の“きれいごと”で国民に媚びを売るのではなく、将来への安心の道筋を示すために、今、耐えることの必要性を提示しなければならない。
特に温暖化に関しては、私たち個人や企業も同様の責任がある。安易にエネルギーを浪費することなく、日々の節電や物を大事に長く使うことなど、いくらでもやる余地は残っている。

COP27は、私たちすべてに脱炭素への覚悟を求めている。

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北村和也 (きたむら・かずや)

日本再生可能エネルギー総合研究所代表、日本再生エネリンク代表取締役
民放テレビ局で報道取材、環境関連番組などを制作した後、1998年にドイツに留学。帰国後、バイオマス関係のベンチャービジネスなどに携わる。2011年に日本再生可能エネルギー総合研究所、2013年に日本再生エネリンクを設立。2019年、地域活性エネルギーリンク協議会の代表理事に就任。エネルギージャーナリストとして講演や執筆、エネルギー関係のテレビ番組の構成、制作を手がけ、再生エネ普及のための情報収集と発信を行う。また再生エネや脱炭素化に関する民間企業へのコンサルティングや自治体のアドバイザーとなるほか、地域や自治体新電力の設立や事業支援など地域活性化のサポートを行う。