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脱炭素特集

70年代オイルショック以来、デンマークがエネルギー危機に備えてきたこと、備えること

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欧州はロシアによる天然ガス輸出制限により、深刻なエネルギー危機に陥っている。デンマークは日本と同様、70年代石油危機を経験したが、そこから自然エネルギーに舵を切り、現在は電力の半分以上を自然エネルギーで発電し、他の欧州諸国よりその影響が少ない。豊富な風力発電を軸に、電力の余剰分から水素やバイオガス、メタンなどを作る「Power-to-X」の動きも活発だ。政府は公共施設の室内温度を19℃に設定するなど節電や省エネを推奨し、市民も生活の中で工夫する。デンマークがエネルギー危機を回避するために行ってきた政策や今後の方針について、クリストファー・ベッツァウ エネルギー庁長官の講演やデンマーク在住のジャーナリスト北村朋子さんへのヒアリングからレポートする。 (環境ライター箕輪弥生)

オイルショックを機に自然エネにシフト

「省エネのためのニュースがぐっと増えた」。デンマーク、ロラン島に20年以上在住するジャーナリスト北村朋子さんはこのところのデンマークの変化をこう話す。

「高速道路はできるだけ低燃費で走るために、スピードを出す車はぐっと減ったし、冬の前に薪ストーブをつける人も増えている」

このような変化をとらえて北村さんは「70年もこんな感じだったのでないか」と想像する。1970年代、デンマークは日本と同様オイルショックに直面した。その頃のデンマークはエネルギーの99%を輸入化石燃料に頼っていた。そのため週に1度はノーカーデーとして車の運転を制限したほどだった。

「今は50年前に比べるとデンマークのエネルギー状況は安定している。それは自然エネルギーを大量に導入して、変動型であったとしても自立性が確保できているからだ」

自然エネルギー財団が主催したイベント「自然エネルギー大量導入を実現する電力システムと市場」で登壇したクリストファー・ベッツァウ デンマーク エネルギー庁 長官はそう話した。

同国は、80年代までは石炭、ガス、石油への依存度が高く集中型発電システムに頼っていたが、自然エネルギーの導入が増えるにつれ、分散独立型になった。送電網も拡充し、他国との連携線も増やしている。

70年代のオイルショック時は、デンマークも原子力発電の導入を検討していた。しかし、原発の是非を国民全体で10年をかけて議論し、導入しないことを決めた。

この議論では環境NGO「OOA」(Oplysning om Atomkraft原子力発電情報協会)の役割が大きかったと、団体を取材してきた北村さんは言う。

原発のメリット、デメリットや賛成・反対の双方の研究者の意見を入れたパンフレットをつくり、各家庭に配り、国民がエネルギー源を自分たちで選べるような情報提供を丁寧に行ったのだ。

70年代の原発の是非を問う運動のシンボルマーク

組織はヒエラルキーをつくらず、超党派で活動し、フラットでオープン、透明性の高い組織として国民から政治家にも信用された。国民が、原発や他のエネルギー源について理解し、議論を深める装置を数多くつくった。

日本は同じ70年代に原発に舵を切り、今また電力ひっ迫を理由に、政府が新たな原発の創設を進めようとしているが、「国民に対してもメディアに対しても透明性を保った上で、なぜそういう判断なのか説明責任とヒアリング、議論の期間が必須だ」と北村さんは言う。

電力をバイオガスへさまざまな「Power-to-X」が脱炭素を可能にする

デンマークが計画するエネルギーアイランド(Danish Energy Agency)

現在、デンマークは電力の50%以上を再エネで発電し、エネルギー自給率は6割を超える。

自然エネルギーを導入するにあたって重要なのは「柔軟性」だとベッツァウ長官は強調する。今は天気予報が以前より正確になってきているので、48時間前にエネルギー生産量が予測できる。そのため風力や太陽光の発電量が足りなければコージェネによる発電所を稼働させたり、他国の電力を電力マーケット、もしくは連携線によって調達できる。

もちろん、電力価格も変動するので、「電力供給をベースロード電源を基本に考えるのではなく、バランシングで考えることが重要だ」とベッツァウ長官は強調する。

ガスについては、デンマークで流通するガスの割合の4分の1がバイオガスで構成されるのに加え、備蓄量も95%と豊富にあるので他国よりは余裕がある。ロシアへのガスの依存度は10~15%程度なので、ドイツなどに比べれば少ない。それでも「エネルギー価格は以前の3〜4倍になっている」と北村さんは話す。

デンマーク政府は、10月から公共施設の室内温度は19℃に設定し、室外の不必要な照明も消灯することを決定した。更に、電力市場のセーフティネットを拡充するために1,000億デンマーククローネの国家保証を決定するなど、素早い対応を行っている。

また、力を入れているのが電力をバイオガスなど他の形で使う「Power-to-X」だ。風が強く吹く時などには、余剰電力から水素をつくったり、水素と二酸化炭素からメタンガスをつくったりと違う形にして使う。「ロラン島では、余った電気を熱の形にして玄武岩に貯めて、必要な時に放電するなどの実証実験もまもなく始まろうとしている」と北村さんは話す。

「Power-to-Xが進むと、電力を他のエネルギーの形にして暖房やモビリティにも使うセクターカップリングも広がっていく」(ベッツァウ長官)。

さらに、今後10年をかけて同国はエネルギーアイランドをつくる構想をもっている。北海の人工島に2030年までにまず3GWのウインドファームをつくり、最終的には10GWの洋上風力をつくり、ベルギーなど近隣諸国とつなぐ予定だという。島には、港、ヘリポート、エネルギー貯蔵システム、Power-to-Xシステム、高圧直流送電、宿泊施設などが装備される予定だ。

「エネルギーアイランドと洋上風力を組み合わせることで、グリーン燃料への変換も強化し、自動車、飛行機、船、重工業などこれまで脱炭素が難しかった分野の転換を進めていきたい」とベッツァウ長官はビジョンを語った。

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箕輪 弥生 (みのわ・やよい)

環境ライター・ジャーナリスト、NPO法人「そらべあ基金」理事。
東京の下町生まれ、立教大学卒。広告代理店を経てマーケティングプランナーとして独立。その後、持続可能なビジネスや社会の仕組み、生態系への関心がつのり環境分野へシフト。自然エネルギーや循環型ライフスタイルなどを中心に、幅広く環境関連の記事や書籍の執筆、編集を行う。著書に「地球のために今日から始めるエコシフト15」(文化出版局)「エネルギーシフトに向けて 節電・省エネの知恵123」「環境生活のススメ」(飛鳥新社)「LOHASで行こう!」(ソニーマガジンズ)ほか。自身も雨水や太陽熱、自然素材を使ったエコハウスに住む。JFEJ(日本環境ジャーナリストの会)会員。

http://gogreen.hippy.jp/