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脱炭素特集

電力ひっ迫時に即効薬となったデマンドレスポンス、その実例と効果を検証

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写真:Oran Viriyincy

6月末の観測史上初となる猛暑で、東京電力管内では「需給ひっ迫注意報」が発令された。今年3月に次ぐ電力ひっ迫だったが、供給側の対策に加えて、需要側の調整によるデマンドレスポンス(DR)が大きな効果を生んでいることがわかった。WWFジャパンが主催したウェビナー「電力需給ひっ迫にどう対応するか?」では、システム技術研究所(東京・文京)による気象データのシミュレーションの分析などから、再生可能エネルギーへの移行期の即効薬としてDRが重要であることを明らかにした。鉄鋼メーカー東京製鐵は、電力ひっ迫を避けるために実際に行ったDRの方法や効果を発表した。電力の余剰時にはたくさん使い、不足時は節電するシンプルな方法ともいえるDRは、大きな投資や新たな設備増設を必要としない一方、効果は明確で、電力不足を回避する方法として見直されている。(環境ライター 箕輪弥生)

年に数時間の電力ひっ迫回避のために原発が必要か

世界的な気候変動、ロシアによるウクライナ侵攻などの影響により、電力不足が懸念されている。経産省は6月27日から30日まで「需給ひっ迫注意報」を発令したが、この原因を分析してみると、いくつかの予期しない事情が重なったことがわかった。それは、記録的な空梅雨と6日連続で猛暑が続いたことに加え、7~9月の電力需要期を前に、多くの発電所が補修点検中だったことだ。

需給がひっ迫したのは東京の夕方から夜にかけての数時間だけだった。昼間に電力ひっ迫が起こらなかった理由は、太陽光発電の普及が大きい。太陽光は昼間に多く発電し、日中ピーク時の太陽光からの出力は1300万kWを超えて主要な供給力となっているからだ。

3月のひっ迫時は地震による648万kWの発電所停止や連携線のトラブル、異常低温などが重なった。この際、デマンドレスポンスによって最大352万kWが節電され、中でも高圧産業用電力の節電量は85万kWh、節電率は7%と高かった。節電量が最大だったのは17 時~18 時の間で約8%の節電だった。

システム技術研究所の槌屋治紀所長は、全国842カ所のアメダスのデータを使った電力需給シミュレーションによって、太陽光や風力などの再生可能エネルギーが多く導入されると、夕方に数時間電力不足が起こりやすくなることをすでに2013年から予測していた。槌屋所長は「まずは揚水発電によって夕方の電力不足をカバーすると同時に、太陽光発電予測の精度向上とDRによってリスクを回避することが重要だ」と話す。

ウェビナーを主催したWWFジャパンの小西雅子 環境・エネルギー専門ディレクターは、「年間数時間だけのために、原発や火力発電所を新増設してまで用意しておくのは高価な対策になり、それは結局国民の負担になる」と説明する。

現在、岸田政権は、今後できるだけ多くの9つの原発を稼働させる予定だが、「これらの原発はすべて西日本にあり、東日本の冬の電力ひっ迫には間に合わない」(小西ディレクター)。

そもそも、電力消費量は省エネの推進により2010年比で10%削減しており、さらなる省エネや地域間連系線の増強による広域運用、デマンドレスポンス、自家発電の活用などにより、再生可能エネルギーを中心とする電源構成までの移行期を乗り切れるはずだというのがWWFジャパンの分析だ。

これを裏付けるのが、システム技術研究所の槌屋所長らの再生可能エネルギーの導入シミュレーションだ。同研究所によると、1日の中では日中、季節では春夏に発電量の多い太陽光発電と、その反対に1日中平均して発電し冬に発電量が増える風力発電を組み合わせると、電力の供給が安定し、不足が生じる可能性は少なくなるという。

槌屋所長は「それぞれの地域で風車と太陽光発電を活用すると、日本全体で均一化されていく」と予測する。

太陽光発電と風力発電はお互いを補完する発電システムとなる (グラフ:システム技術研究所)

需要側のDRに対するインセンティブを明確に

鉄鋼メーカーの東京製鐵はこれまで電力料金の安い夜間や休日に集中的に電気炉を稼働させていたが、九州電力から太陽光発電量が増える春や秋の昼間の余剰電力の利用をリーズナブルな価格で提案され、2018年から「上げDR」(電気の需要量を増やすこと)を行っている。昨年はこの調整により累積で540万kWhの余剰電力を吸収した。

今年3月22日の電力ひっ迫時には、東京電力から前日の昼に節電の要請があり、緊急対応で操業のスタートを数時間遅らせ、使用する電力量を落とした(下げDR)。この日の操業抑制によって生まれた10万kWhのDRは管内の節電量の0.3%に相当したという。

資源エネルギー庁「2022年3月の東日本における電力需給ひっ迫について」資料より

東京製鐵は電気炉で鉄スクラップを溶かして鉄鋼製品を製造・販売するメーカーだが、比較的柔軟な生産体制で、1日、1時間単位で操業を調整できる。「製品の納期や品質は守らないといけないが、脱炭素や電力系統の安定に寄与するメニューであれば今後もDRに協力していきたい」と同社の奈良暢明取締役は話す。

その場合、「経済的なメリットがあることによって、需要側が経済面と環境面を両立していけることが必要だ」と奈良取締役は訴える。

WWFジャパンの小西ディレクターは「企業は需要調整をビジネス価値としていく発想が重要だ」と話し、同時に需要側のインセンティブがきちんと制度化されることの必要性を指摘した。

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箕輪 弥生 (みのわ・やよい)

環境ライター・ジャーナリスト、NPO法人「そらべあ基金」理事。
東京の下町生まれ、立教大学卒。広告代理店を経てマーケティングプランナーとして独立。その後、持続可能なビジネスや社会の仕組み、生態系への関心がつのり環境分野へシフト。自然エネルギーや循環型ライフスタイルなどを中心に、幅広く環境関連の記事や書籍の執筆、編集を行う。著書に「地球のために今日から始めるエコシフト15」(文化出版局)「エネルギーシフトに向けて 節電・省エネの知恵123」「環境生活のススメ」(飛鳥新社)「LOHASで行こう!」(ソニーマガジンズ)ほか。自身も雨水や太陽熱、自然素材を使ったエコハウスに住む。JFEJ(日本環境ジャーナリストの会)会員。

http://gogreen.hippy.jp/