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特集:脱炭素

青森県、地元生協と発電事業者がコラボレーションした地域新電力:エネルギー地産地消の「実質」を見極める 

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北村 和也

CHENG FENG CHIANG

昨年末にお届けした「エネルギー地産地消の『実質』を見極める」をテーマにした、地域新電力の取り組みの3回目となる。今回は、地域の生活協同組合と地元の再生可能エネルギー発電事業者がタッグを組んだ地産地消の取り組みを紹介する。

青森県民エナジー株式会社(八戸市)は、青森県初の地域新電力として5年前に生まれた。自治体の出資はなく地域の地元資本100%である。関連会社が保有する風力発電を利用して、一時は電力の地産地消率が9割を超えたこともある。

100%地域の資本というのは伊達ではない。県内のコネクションをフル活用して、多くの県内の自治体とつながりを持つ。昨年には、人口2000人足らずの村と共同出資で自治体新電力を立ち上げ、県内の関係者を驚かせた。また、脱炭素の切り札ともいわれるPPA(第三者所有の太陽光発電システム)を県民生協の店舗で実現するなど、まさに先端を走っている。

生協と再生エネ発電事業者のコラボによる新電力

2016年の電力小売りの完全自由化の翌年1月1日、青森県民エナジーは保守的ともいわれるこの県で産声を上げた。地域新電力の“走り”の一つである。

地域に11店舗(新電力設立当時)を有する青森県民生活協同組合と、関連企業も合わせて県内に風力や太陽光発電施設を持つ未来エナジーホールディングス株式会社が共同で設立したものである。

設立時のプレスリリースには、「電力の地産地消を通じた青森県における経済循環と地域活性化の実現を目指す」とある。年間数千億円規模で県外に流出しているエネルギー費を削減したいとの意思をはっきり示している。

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例えば、青森県は日本一の風力発電による再生エネ発電量を誇るが、発電施設のほとんどが県外資本である。せっかくの地域の再生エネ資源による利益をそっくり域外に持っていかれている現実がある。これを悔しく、もったいなく思う気持ちは民間だけでなく行政としての県にも根強く、後述する県との協力体制はそんな背景から生まれている。

設立の年の11月には、関係する会社の保有する大間町風力発電所からの電力を調達することで、青森県民エナジーの月間の供給電力の93%が県内産という高い地産地消率を実現させている。

地域新電力の拡大と県との協力

出資者の青森県民生協では、まず、「コープのでんき=あおもり県民でんき」のブランドを作って生協会員への切り替え拡大を進めた。また、県内の他の生協とも連携してオール青森県内生協の協力体制も敷いた。さらに、店舗などで使う電気の将来の完全再生エネ化を目指して計画を立てるなど脱炭素化の先取りも抜かりない。

県内資本100%の青森県民エナジーの設立は、県内にポジティブな影響を及ぼしている。エネルギーの地産地消などによる流出エネルギー費の削減や地域活性化のメリットに気づく県内自治体が少しずつ増えてきたのである。

そんな中、県北端にほど近い小村、佐井村から自治体新電力の設立支援の相談が舞い込む。佐井村と青森県民エナジーの共同出資での設立(さいエナジー株式会社、2021年)を決め、同時に村と 「『日本で最も美しい村』を実現する協力連携協定」を締結した。プレス発表には全マスコミがそろい、NHKでもトップニュース扱いされる。

人口2000人にも満たない漁業を中心とした村で、すぐには事業性が見込めないため、取次店形式からのスタートであるが、成果はジワリと見えている。すでに、村で栽培するホップと八戸の酒造会社の地ビールとを組み合わせる取り組みや政府推奨のカーボンニュートラルの地域モデルである「脱炭素先行地域」への提案などを、共同(青森県民エナジー+さいエナジー)で進めている。

青森県のエネルギーというと、六ヶ所村の核燃料サイクルの存在からどうしても原子力のイメージが強い。確かに、県のエネルギー総合対策局の大きな柱は、原子力(原子力立地対策課)であるが、もう一つの課(エネルギー開発振興課)を軸とした再生エネ拡大の動きもしっかりある。

県と青森県民エナジーとの協力関係も構築済みで、年を追うごとに強くなってきている。2018年と2019年には、県の予算を使ったFS調査(事業化調査)「自治体の規模と新電力の設立可能性」を弘前大学と共同で行っている。県側も再生エネ拡大や地域経済循環を目指す中で、県民エナジーが頼りにされ相談相手にさえなっている。

全国展開の新電力と地域の新電力の決定的な差のひとつはここにある。

「じょっぱり」といわれる頑固さと新しい取り組み

世界の情勢が、「待ったなしの脱炭素」にまっしぐらに向かう中、日本も地域主導のカーボンニュートラルを掲げている。2030年の脱炭素の中間目標(NDC)の切り札とされるシステムがPPA(第三者所有型の電力売買契約)で、実施主体として政府が想定するのが、脱炭素ロードマップにある「地域の中核企業」である。

中核企業の第一候補はまさしく地域新電力のことであり、このPPAをいち早く青森県内で実現させたのが青森県民エナジーであることは、決して偶然ではない。

県民エナジーは昨年、県民生協の新規店舗、おいらせ店の屋上に400kWを超える太陽光パネルを設置して、再生エネ電力をPPAによる“自家消費スタイル”ですでに生協に供給している。

電力自由化を機にした素早い立ち上げと電力の地産地消、県内での他の自治体新電力の設立とPPAの実現と常に新しい動きを進める地域新電力、青森県民エナジーであるが、すべてが順風満帆というわけではない。昨年と今年のダブルのJEPXの価格高騰で、少なくないダメージを受けたことは事実である。

しかし、「まだ、道半ばで、やらなければならないこと、やりたいことが山ほどある。やめるわけにはいかない」と、富岡敏夫社長は語る。事業体制を見直しし、すでにリセットを終えた。青森の県民性とも言われる頑固な「じょっぱり」の気質で、この地域新電力は新たな高みを目指している。

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北村和也 (きたむら・かずや)

日本再生可能エネルギー総合研究所代表、日本再生エネリンク代表取締役
民放テレビ局で報道取材、環境関連番組などを制作した後、1998年にドイツに留学。帰国後、バイオマス関係のベンチャービジネスなどに携わる。2011年に日本再生可能エネルギー総合研究所、2013年に日本再生エネリンクを設立。2019年、地域活性エネルギーリンク協議会の代表理事に就任。エネルギージャーナリストとして講演や執筆、エネルギー関係のテレビ番組の構成、制作を手がけ、再生エネ普及のための情報収集と発信を行う。また再生エネや脱炭素化に関する民間企業へのコンサルティングや自治体のアドバイザーとなるほか、地域や自治体新電力の設立や事業支援など地域活性化のサポートを行う。