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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Brands, PBC)

2030年までに1000人の“グリーンイノベーター”を育成する 菅原聡さん・坂野晶さん

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脱炭素社会の実現に向け、2030年までに経済と環境の好循環を生む1000人のイノベーターを世界規模で育成するーー。一般社団法人グリーン・イノベーションが2021年10月から開講した育成プログラム「グリーン・イノベーター・アカデミー」には、国内を中心に130人の大学生と社会人が参加する。その実行委員には、伊藤元重さんや岡田武史さん、渋澤健さんら錚々たる顔ぶれが揃う。共同代表の菅原聡さんと坂野晶さんは共に世界経済フォーラムのユースコミュニティ「グローバル・シェイパーズ」出身のミレニアル世代だ。前編では、自らもイノベーターとして挑戦を続けるふたりが描く未来と「グリーン・イノベーター・アカデミー」について話を聞いた。 (小松遥香)

菅原 聡 (すがわら・そう)
大学在学中、鉱物資源をめぐり紛争が続くコンゴを訪れたことをきっかけに、スポーツを通じて社会課題の解決を目指すNPOを立ち上げる。現在まで継続して「地雷のなくなるフットサル大会」を100回以上開催するなど、スポーツイベント・教育事業を行う。学生時代に開催したイベントで赤字を出した際に、元日本代表監督の岡田武史さんに助けてもらった経験から、事業について勉強しようとリクルートに入社。同ホールディングスのサステナビリティ推進室を経て、ミニット・アジア・パシフィックでCSO(チーフストラテジーオフィサー)を務めた後、一般社団法人Green innovation(以下、グリーン・イノベーション)を立ち上げ代表理事に就任した。

坂野 晶 (さかの・あきら)
2019年、世界の首脳や経営者が集まる世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で、世界の若手リーダー6人の一人として、マイクロソフトCEOらと並び共同議長を務めた。当時は、日本で初めて「ゼロ・ウェイスト宣言」を行った徳島県上勝町のNPO法人ゼロ・ウェイストアカデミーの理事長だった。ダボス会議でも、世界のリーダーらに「グローバリゼーション4.0は、ローカライゼーションから始めるべき」と呼びかけるなど、グローバル人材でありながら地域から変革を起こす新たな世代の先駆者として知られる。2020年からは、自ら立ち上げた一般社団法人ゼロ・ウェイスト・ジャパンで代表理事を務める。グリーン・イノベーションの理事であり共同代表。

自ら考え未来に向けて行動を起こす「変革者」を育成

菅原さんと坂野さんの出会いは2015年、グローバル・シェイパーズの一員として、140カ国から参加者が集まるスイスで行われた会議に共に参加したことがきっかけだ。世界の国・地域で、政治や経済、科学などの分野で活躍する33歳以下の若者が集まるグローバル・シェイパーズ出身者は、国内でもさまざまな分野で活躍している。

グリーン・イノベーター・アカデミー は、ふたりがこれまでの人生で出会ってきたさまざまな分野や世代の人々の協力の下で立ち上げた育成プロジェクトだ。

2050年までに脱炭素社会を実現するために、まずは2030年を目標に、経済と環境の好循環を生む1000人のイノベーターを輩出することを掲げる。

半年間のプログラムを通し、産業構造や政策方針、暮らし方などあらゆる社会のシステムを転換していくためのグリーンイノベーションを起こす人材を育成していく。参加者は、気候変動やエネルギー情勢に対する大局観を養い、リーダーシップ、企業の先進事例、新規事業や政策を立案するための共創型価値創造などを学び、自ら考え行動を起こす“共創型イノベーター”へと成長することを目指す。

最終的には、そこで出会った人たちが業界や分野、世代を超えて協働することにより “グリーンイノベーション”を加速させていくことが狙いだ。

ふたりは「未来」についてこう話す。

「未来に行って未来を見ることはできないですが、“どうしたいか”という思いを持って未来をつくることはできます」(坂野)

「未来は目の前にあるのではなく、私たちの頭の中にあると思います。それを形づくっていく人がイノベーターです」(菅原)


グリーンイノベーションを起こす“エコシステム”をつくる

――「グリーン・イノベーター・アカデミー」を立ち上げようと思われたのはいつですか?

菅原:昨年3月です。坂野と再会し、7月にグリーン・イノベーションを設立しました。2020年9月から週一官僚として資源エネルギー庁の広報・教育専門職員を務めるなかで、気候変動に対応するには社会の在り方自体の転換が求められており、積極的な環境対策を経済成長につなげていくイノベーションが必要だと思いました。

坂野:私は上勝町、そしてゼロ・ウェイスト・ジャパンでゴミ削減や資源循環など特定の分野で具体的に何かをつくっていくことに取り組んできました。地域に入り、小さくしっかり事例をつくっていくこと自体はすごく大事で、私も楽しいからやりたいことです。でも、それだけでは進まない。スピードが追いつかないことが一つの問題です。

じゃあそれをもっと加速化するにはどんなことが必要なのか。そう考えると、人材育成は間違いなく必要だし、あわせて情報共有やいろんなことを含めた仕組み化が必要だろうと考えるようになっていました。菅原と再会したのは、そんなことをちょうど考え始めたタイミングでした。

――なぜ2030年までに1000人のイノベーターが必要なのでしょうか?

菅原:アカデミーで講師を務めてくれた、林志洋というグローバル・シェイパーズのメンバーがいます。長野県小布施町の総合政策推進専門官です。彼は大学時代に、イノベーションがどうしたら起こるのかという研究をしていました。東京大学や北京大学、シンガポール国立大学、ソウル大学で学び、そうして出した答えが、イノベーションが起こった場所の要素には関連性がなくて、強いていうなら「人」だと言っていました。

やはり、グリーンイノベーションを起こす時に一番大事なのはイノベーターの存在です。イノベーターとは、社会のことを考え、地球のこと、世界のこと、日本のことを考え、ほかの人を思い、自ら変えていくんだ、と未来をつくっていく人です。

大企業がいけない、政府のせいだとか、教育がいけないんだと言っても、イノベーションは起こらない。評論家のように総理大臣はこうするべきだとか、企業はこうするべきだとか言ってもイノベーションは起こらないです。

問題を大局的に、自分ごととして捉えて挑戦しようとする人がイノベーションを起こす。思いだけでは起きないので、知識やスキル、仲間をグリーン・イノベーター・アカデミーというエコシステム(生態系)を通じて得てもらいたいです。

坂野:イノベーターと呼ばれる人たちは、実際にはすごく小さいところから最初は始められて、自ら試行錯誤されます。それは、ものすごく孤独な戦いでもあります。

上勝町で取り組むなかで学んだのは、つながっているだけであっという間に解決できることが恐ろしくあるということです。

地域の中で完結しているエコシステムの中でいかに物事を動かしていくのか、ということもすごく大事です。しかし、そこだけでは解決しえないことも沢山あります。小さくやって、それを外にどう展開していくのかという視点も大事だし、中のことを動かそうと思ったら、外から刺激を受けないと動かないこともあります。

どちらも「つながり」がすごく重要ななかで、そのつながりを持っている人が結局、最終的に物事を動かせるんだろうなというのは、これまでの失敗や成功のなかで実感しています。

ですから、イノベーターの人材育成だけではなくて、そういう要素を持った人たちがあらゆるところにいる、そしてつながっているという状態をつくるのが、やはり大きな変化を生み出すためにすごく大事な要素です。

エネルギーだけを見ても、いろいろな課題や分野、国、ステークホルダー、政治などが複雑に重なり合っています。複合的なものをいかに紐解いて、包括的に取り組んでいくか。

「世代縦断・分野横断」といつも繰り返し言っていますが、一企業、一団体、一セクターのなかだけではなく、それらを跨いで、どんなふうに社会を形づくるのか。跨いでいく、つないでいく人材を育成することを目指しています。

私たち自身が今、それをつなぐことのできる立場にいますから、そこがグリーン・イノベーター・アカデミーがもたらせる一番の大きなインパクトなのではないかと思います。

2025年には世界のZ世代・ミレニアル世代が参加するコミュニティに

――どんな方々が参加されていますか?

菅原:日本全国から大学生、大学院生が集まっています。海外在住の日本人の学生もいます。今回は日本人が多いですが、日本にいる海外国籍の学生も参加しています。学生が100人、社会人が30人です。

社会人は、基本的に事業開発やサステナビリティ推進の担当者です。そのほかには企業の取締役、社長、官僚の方もいます。年齢層は、20代半ばから30代のミレニアル世代です。

――今後は海外の方々も参加する予定ですか?

坂野:今回は日本語でプログラムを実施していますが、今後は海外の学生も一緒に参加できるプログラムにし、2025年にはグリーン・イノベーター・アカデミーを含む育成プロジェクト「ユース・グリーン・イノベーション・プロジェクト(Youth Green Innovation Project)」を世界に広げていく計画です。

菅原:日本に限定してイノベーターを育成することを目指しているわけではありません。坂野と共に2016年に、日本のグローバル・シェイパーズとして、広島で30カ国から参加者が集まる国際会議を開催したときと同じように、世界のZ世代・ミレニアル世代に向けてプロジェクトを実行していこうとしています。

――1人あたり総額80万円相当のプログラムを受けられるということですが、企業の協賛によって成り立っているのでしょうか?

菅原:協賛ではなく、パートナー企業として人材育成のために費用をお支払いいただいています。そのなかから一部を学生の育成に割り当てています。

――パートナー企業には、岩谷産業やINPEX、JERA、三菱商事をはじめエネルギー関連の事業を行う企業や不動産、金融機関などさまざまな企業が名を連ねています。声をかける際の基準はありましたか?

菅原:グリーントランスフォーメーション(GX)を行っていこうとしている企業、新規事業をオープンイノベーションで起こしていこうとする企業の方にお声がけしました。同時に、日本の産業構造のなかで特に重点的に変化が必要とされている分野でもあります。

坂野が「つながり」という話をしましたが、グリーンイノベーションを起こすには、産官学で連携して“エコシステム”をつくっていかないといけません。われわれだけがやるものに協力してもらうというのではなく、パートナー企業のみなさまと一緒に進めていくということです。

なにかスタートアップ企業が出てきて、新規事業でグリーントランスフォーメーションができるかというと、そうではないのです。もちろんそれも大事です。しかし、既存の大企業がトランジション(移行)していくことが大事であり、他のセクターと協力してオープンイノベーションを起こすというのもすごく重要です。

その時にネットワーキングができていて、もっとつながっていればオープンイノベーションを起こしやすいです。ですから、そこをちゃんとつなげていこうということです。

新聞を読めば、その企業が何をしようとしているのかがわかります。でも、何に悩んでいるのか、といった頭の中については書いていない。

そこをシェアしながら、そして単にシェアするだけじゃなくて、世界ではなにが起きているのか。大局をさまざまな角度から複眼的に捉え、それをディスカッションしてちゃんと咀嚼をしながら、自分たちの可能性を生かしてどんな共創ができるのか――。

このアカデミー自体は数カ月というものですが、1期生、2期生、3期生とつながっていくなかで重層的にコミュニケーションができるようなエコシステムをつくりたいと思っています。

(写真:原啓之)

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小松 遥香 (Haruka Komatsu)

アメリカ、スペインで紛争解決・開発学を学ぶ。一般企業で働いた後、出版社に入社。2016年から「持続可能性とビジネス」をテーマに取材するなか、自らも実践しようと、2018年7月から1年間、出身地・高知の食材をつかった週末食堂「こうち食堂 日日是好日」を東京・西日暮里で開く。前Sustainable Brands Japan 編集局デスク。