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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Life Media, Inc.)

ラッシュ、全世界で「企業理念に反する」フェイスブックなどSNSアカウントを無期限停止へ 

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ラッシュ共同創立者のマーク・コンスタンティン氏 (2017年) Lush Digital

英コスメブランド・ラッシュは26日から、世界48の国・地域でフェイスブックやインスタグラム、ティックトックなどの一部SNSアカウントの利用を無期限停止する。同社はこれまで社会にポジティブな影響をもたらすインターネットやSNSの在り方・利用を啓発してきた。しかし、メタ・プラットフォームズ(前フェイスブック)が自社の収益を優先し、心身や社会に悪影響をもたらすアルゴリズムや規制に対処せず放置していることなどを問題視。こうしたSNSでの情報発信は、同社が創業時から重視する「エシカル」「ウェルビーイング」といった理念に反するとして無期限停止に踏み切った。(サステナブル・ブランド ジャパン=小松遥香)

SNSが若者に与える深刻な影響を懸念

ラッシュは今回、フェイスブック(Facebook)、インスタグラム(Instagram)、ティックトック(TikTok)、スナップチャット(Snapchat)、ワッツアップ(WhatsApp)の5つのSNSプラットフォームにおけるアカウントの利用を全世界で取りやめる。このうちフェイスブック、インスタグラム 、ワッツアップはメタ・プラットフォームズの傘下にある。

これらの無期限利用停止について、今年9月にメタ・プラットフォームズへの内部告発資料によって明らかになったアルゴリズムの操作、これまでも指摘されてきた偽情報やヘイトスピーチへの規制の緩さなどの、SNSによる若者の心身への深刻な弊害を理由に挙げている。さらに、SNSがいじめ、フェイクニュース、過激な意見や価値観の拡散、FOMO(Fear of Missing Out:取り残される不安・恐怖)、幻想振動症候群などの要因となり、若年層の自殺やうつ、不安の割合を大幅に増加させていることにも言及する。

こうしたSNSの心身への影響は、日本国内で55万部を突破し今年上半期のベストセラーとなった、スウェーデンの精神科医アンデシュ・ハンセン氏の書いた『スマホ脳』(新潮新書)でも指摘されており、注目を集めている。この本では、フェイスブックの初代CEOが「同社が人間の心の脆弱性を利用したと明言している」ことや、元副社長が「SNSが人々に与えた影響を悔いている」と発言していることなどが記されている。

今回、ラッシュが声を上げた問題は、SNSの利便性などから見過ごされがちだが、現代社会が立ち止まって考えなければならない重要なトピックだ。

フェイスブックの内部告発問題とは

Brett Jordan

ウォールストリートジャーナルが9月半ば、フェイスブックで偽情報を管理する製品管理者を務めていたフランシス・ホーゲン氏の内部告発資料をもとにシリーズ「フェイスブック調査報道:内部文書は何を語る(The Facebook Files:A Wall Street Journal investigation)」を公開した。メタ・プラットフォームズの自社事業が社会に及ぼす悪影響に対応しない姿勢に対して企業倫理が問われている。

大きな注目を集めているのがアルゴリズムの問題だ。ワシントン・ポスト紙によると、フェイスブックの投稿への反応には「いいね」のほかに、2016年から始まった「超いいね!」 「うけるね」「すごいね」「悲しいね」「ひどいね」の5つの感情のリアクションがあるが、「いいね」よりも感情のリアクションの方がアルゴリズムでは5倍の価値がおかれているという。つまり「ひどいね(英語では怒りを意味する“angry”が使われている)」と反応した情報が「いいね」の5倍多くの人に広がる仕組みになっている。さらに同社は2019年には、「ひどいね(angry)」の反応がつく投稿には偽情報や有害で低品質のニュースが含まれる傾向が高いことを認識していながらも、そうした情報が拡散されやすい状況に対処してこなかったという。

こうした規制の緩さについて、ホーゲン氏は前フェイスブックがヘイトスピーチと偽情報への対策よりも利益を優先してきたと訴える。同社のヘイトスピーチ対策への消極的な姿勢はかねてより指摘されており、昨年、ブラック・ライブズ・マター運動が起きた際には、大手グローバル企業が相次いで広告の出稿をとりやめる事態にもなった。ほかに、ロヒンギャ族の大量虐殺に関して、ミャンマー軍がフェイスブックを使ってヘイトスピーチを拡散することで暴力を助長してきたことに対しても積極的に対処しなかったことを同社は認めている。

傘下のインスタグラムにおいては、10代女性の32%が自らのボディイメージ(人間が身体について持つイメージ)にネガティブな感情を抱くときにインスタグラムを見ると、さらに嫌悪感が強くなるという調査結果や、自殺を考えている10代の若者のうち英国では13%、米国では6%がインスタグラムを要因に挙げていることを同社は把握してきた。それにも関わらず、インスタグラムの責任者アダム・モセリ氏が今年5月、10代の若者のメンタルヘルスへの影響は「極めて小さい」とする調査結果を発表。企業として若者のメンタルヘルスへの影響を軽視してきたことが指摘されている。

安全性の低いSNSの利用は、「危険な場所でお会いしましょう」と誘うのと同じ

ラッシュが今回の発表にあわせて掲載した画像

ラッシュは、5つのSNSがより安全な環境を利用者に提供できるようになるまで同社の姿勢を継続することで、変化を促していきたい方針だ。安全性の低いSNSで情報を発信することについて、「お客様に暗く危険な場所でお会いしましょうとお誘いすること」と同じだとする。

ラッシュの共同創立者であるマーク・コンスタンティン氏は「私は生涯をかけて、人に害を与えるような原材料を商品に入れないようにしてきました。SNS利用時に私たちが危険にさらされているという証拠が、今や数多くあります。私は自分のお客様をこのような環境にさらしたくありません。今こそ行動を起こすべき時が来ました」と話している。

安全でないSNSの使用は同社が店舗にも大きく掲げる「ラッシュの信念 (A LUSH LIFE)」にも反する。例えば、信念の一つに以下のような「ウェルビーイング」を重視する文言がある。

「私たちは、キャンドルを灯しながらお風呂でくつろぎ、シャワーを誰かと一緒に浴びたり、マッサージをしたり、心地よい香りで世界をいっぱいにすることと同時に、たとえ失敗して全てを失ったとしても、再びやり直す権利があると信じています」

しかし、「一部のSNSプラットフォームは、人々にスクロールさせ続け、スイッチオフやリラックスができなくなるよう設計されたアルゴリズムを使っており、ラッシュの考え方と真逆」とチーフ・デジタル・オフィサーのジャック・コンスタンティン氏は言う。

ラッシュジャパン、75店舗がアカウントを停止

日本市場は、ラッシュが展開する48の国・地域の中でも3番目に規模が大きい。国内ではフェイスブック、インスタグラム 、ティックトックの3つを利用しており、ラッシュジャパンのブランドアカウントと全国75店舗がそれぞれ独自に運営するアカウントを停止する。アカウントは、なりすましアカウント発生などを防ぐ意味でも維持されるが更新はされない。

ラッシュは「完全に反SNSになるわけではない」としており、「新しくお客様とつながる方法を模索し、他の場所でより良いコミュニケーションの場を構築していく。必ずしも『いいね』をクリックしたり、登録したり、通知を受け取ったりする必要はなく、誰もが気が向いたときに立ち寄って見てくれれば、それで良い」と発表している。

ラッシュジャパンでは今後、ツイッター(Twitter)やライン(LINE)を活用するほか、Googleマイビジネスで地域ごとにラッシュの各店舗からタイムリーな情報を発信し、さらにニュースレター(メールマガジン)を通して購読者に最新の情報を届けることでコミュニケーションを図っていくという。またラッシュでは店舗でイベントを開催するなど体験型の運営を行っていることから、オンラインだけでなくリアルでのコミュニケーションにも注力していく方針だ。

ラッシュは『LUSH TIMES』と呼ばれるタブロイド紙も発行する

ラッシュは、今回のように人権や動物の権利、自然環境の保全などの課題に行動を起こす「キャンペーンカンパニーであること」を倫理的指針に掲げる企業だ。しかしラッシュに限らず、パーパス(企業の社会的な存在意義)に基づいた経営が社会から求められる時代において、こうした社会的問題や政治的問題に対して自社ならではの姿勢を積極的に示す企業・ブランドは少しずつ現れてきている。こうした行動はブランド・アクティビズムとも呼ばれる。世界的にユーザーの多いSNSアカウントの利用を停止するという、ラッシュの大きな決断は企業・ブランドコミュニケーションの新たな時代を切り開いていくだろう。

なお、同社は今回、新たにソーシャルメディアポリシー「SNSの利用に関するポリシー」も掲げている。

ラッシュのSNSの利用に関するポリシー

・私たちは、お客様や世の中との交流を可能にする、最新のコミュニケーションツールや方法を使いたいと考えています。

・私たちは、第三者に不当に交流をコントロールされること無く、できる限り直接お客様とつながることを望んでいます。

・私たちは、外部プラットフォームがその真の商業的機能や収入源を隠すことなく、明確かつ透明性のあるサービスを提供すると信じられるようになることを望んでいます。

・私たちは、ユーザーをハラスメント、弊害、操作から守るために最善を尽くすプラットフォームやサービスのみを利用したいと願っています。

・私たちは、非公表で訪問者データを使うプラットフォームは利用しません。

・私たちは、エンゲージメントやクリック、シェアを促進する目的で、ネガティブなコンテンツ、フェイクニュース、もしくは極端な価値観でユーザーを狙うアルゴリズムを使用しないプラットフォームを好みます。

・他の中毒性のある娯楽と同様に、私たちはプラットフォームに対し、過剰な利用によるリスクを最小限に抑え、健全な利用パターンを促すようなサービス設計を望みます。

・私たちがコミュニケーションのために使用するプラットフォームの選択は、今後の新たなプラットフォームやサービスの出現と共に変わっていきます。ただし選択時には必ず上記の点を考慮し、懸念事項を検討します。

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小松 遥香 (Haruka Komatsu)

Sustainable Brands Japan 編集局デスク。アメリカ、スペインで紛争解決・開発学を学ぶ。「持続可能性とビジネス」をテーマに取材するなか、自らも実践しようと、2018年7月から1年間、出身地・高知の食材をつかった週末食堂「こうち食堂 日日是好日」を東京・西日暮里で開く。