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繰り返し使えるテイクアウトカップが循環するまちに 東京のカフェから新しい「まちづくり」が始まる

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日本のスペシャルティコーヒーの潮流をけん引してきたオニバスコーヒー(ONIBUS COFFEE)を中心に、繰り返し使える共通のテイクアウトカップを近隣のコーヒーショップや飲食店で循環利用する取り組みが始まっている。10月から開始したサービス「CUPLES(カプレス)」は11月末までに、東京を中心に首都圏で45店舗まで広がる見込みだ。企画したオニバス(東京・目黒)の坂尾篤史代表は、CUPLESのサービスが広がることで、最終的に、東京やコーヒーショップのある近隣エリアが資源を大切にする魅力あるまちになっていくことを目指している。坂尾代表にCUPLESとコーヒーショップから始まるまちづくりへの思いについて聞いた。(サステナブル・ブランド ジャパン=小松遥香)

繰り返し使えるテイクアウトカップ

坂尾さんがテイクアウトカップをまちのなかで循環利用する構想を立てたのは3年前。渋谷・目黒区でコーヒーショップを4店舗展開するオニバスコーヒーの一部店舗ではテイクアウトカップの利用者が多い。しかしその場で飲んでそのまま店に使い捨てカップを戻す人も少なくない。グリーンピース・ジャパンが今年8月に発表した報告書によると、国内のカフェ業界において年間で消費されている使い捨てカップの数は8.7―9.3 億個に達するともいわれる。

使い捨てカップの問題を解決するいい方法はないだろうか。そう考えている時に知ったのが、欧州を中心に取り組みが広がる飲料容器のデポジット制度だった。スーパーで飲料を購入する際に容器代を預かり金(デポジット)として支払い、容器を戻すと預かり金が返ってくる仕組みだ。さらに調べると、ドイツ国内ではリカップ(RECUP)という繰り返し使える共通のテイクアウトカップの循環利用が全国的に行われていることがわかった。ニュージーランドやサンフランシスコでも似たサービスが始まっていた。

「東京はコーヒーショップも飲食店も多いので、同じようなことができるのではないかと思いました。どこかが主導してくれるのを待ってもなかなか始まりません。自分たちで始めることにしました」

アプリを使って貸し出しを管理 加盟店であればどこでも返却できる

CUPLESは、ONIBUSとアプリ開発を行う坂尾さんの知人が立ち上げたサービスだ。実証実験の段階ということもあり、CUPLESを利用できる店舗は、坂尾さん自らが知り合いのコーヒーショップや飲食店に声をかけて開拓している。

経営者でありながら、今でも週1日は店舗に立っているという日々のなかで、坂尾さんは直接会って自らの思いや「東京をどんなまちにしたいか」について伝えながら、パートナーとなる加盟店を増やしているという。サービスを利用できる地域は今のところ、コーヒーショップの多い世田谷や渋谷、目黒などのエリアに集中しているが、都内を中心に神奈川や埼玉などにも広がっている。

同業者やお客さんの反応はいい。坂尾さんは「コーヒーショップの人たちは環境問題への感度が高い」と言う。それは、この数年間で使い捨てプラスチックの問題や、コーヒー豆栽培への気候変動の影響が避けられない課題となってきたことも背景にある。

CUPLESはアプリを使って利用する。注文する際にCUPLESを利用することを店の人に伝え、専用のQRコードを読み込んでカップを借り、返却する際にも返却用のQRコードを読み込む。加盟店であればどの店でも返すことが可能だ。デポジット料金は発生しない。カップが長期的に返却されない場合は、利用者があらかじめ登録したメールアドレスに連絡するという。実証実験を経て、クレジットカードを登録するシステムを導入するなどし、紛失した場合は料金を支払う仕組みを導入することも検討している。アプリでは、サービスを利用できる加盟店も検索できる。ダウンロード数は現在、600回に達しているという。

カップは、およそ300回は繰り返して使えるポリプロピレン製のものを採用した。バイオプラスチック製カップも探したが、洗浄機にかけることや耐久性などを総合的に考えて、最終的に環境団体「地球・人間環境フォーラム」が20年間にわたり啓発・販売するリユースカップに決めた。

団体によると、このカップを2.7回以上繰り返して使うと、製品ライフサイクル(原料調達から廃棄されるまで)において排出される二酸化炭素の量は、紙コップ1個あたりの排出量よりも低くなる。さらに6.3回以上繰り返して使えば、エネルギー消費量は紙コップ1個分よりも少ない。最終的には、傷がつけば回収してペレットに変えて循環利用することもできる。現在は1カップあたり300―400円ほどかかっているそうだが、サービスが広がって発注ロット数が増えると価格も下がる。ゆくゆくは異業種とも連携して、サービスを拡大していきたいと考えている。

「コーヒーショップはまちをつくっている」

今はまだCUPLESに取り組むことが売上高やブランディングにどれだけのメリットがあるのかも分からない手探りの状態。それでも「地道に声をかけてサービスを広げている」と言う。その原動力をたずねた。

「僕らは、コーヒーショップはまちをつくっていると思って店をやっています。コーヒーショップがこういう活動をしているから、そこに共感し、共感した人たちがまちに集まってくる。まちがよくなるというのはそういうことだと思います。海外に行って、CUPLESのような取り組みをまち全体でやっていたら、いいまちだなと思いますよね。自分たちの店を起点に共感者が出てくるというのは、売り上げ以上に価値のあることだと思って取り組んでいます」

実際に、CUPLESはまちというエリア単位で取り組むことで、新たな価値を地域に生むサービスのようだ。世田谷や渋谷などとは違って、CUPLESの加盟店が近隣にまだない東京都台東区蔵前のCoffee Wrights 蔵前を訪ねると、店の人は「CUPLESの利用者は少しずつ増えてきています。蔵前のなかで加盟店が増えたら、さらに利用者が増えると思います」と話していた。

Coffee Wrights 蔵前 ロースタリー&カフェ
裏には「地球のための一杯。一杯のカップが、より持続可能な世界への一歩に」という意味の言葉が書かれている

「人とのつながり」を大切にしてきた10年

オニバスコーヒー 八雲店 (東京都目黒区) 床材の一部には千葉県の酒造・寺田本家の解体材が使われている

坂尾さんは都内のゼネコンに就職し、地元・千葉県銚子市で大工の父と共に働いた後、バックパッカーとしてオーストラリアやアジアをまわった。旅のなかで、オーストラリアではコーヒーショップが、インドであればチャイなどお茶を飲む場所が地域のコミュニティになっていることを知った。地球上で起きている問題に対し、自分の仕事を通してなにかしたいと思うようになったのもこの旅がきっかけだった。

「オーストラリアで体験した空間と、美味しいコーヒーがあり、情報が集まって次に進むような場所を日本でつくりたい」――。坂尾さんは都内の有名店で2年間修行をして、2012年にオニバスコーヒーを立ち上げた。今では社員10人を含め22人が働く。

オニバスコーヒーの店名は、「onibus」というポルトガル語で「公共バス」を意味し、「万人の為に」という語源を持つ言葉から来ている。「バス停からバス停へと人を繋いでいく」バスのように「コーヒーで、人と人をつなぐ」という思いが込められている。

坂尾さんらが日本で起こしたスペシャルティコーヒーの波は、日本のコーヒーシーンや人々の日常、楽しみの在り方を変えてきた。特に若い世代は、生産管理が徹底され、産地や焙煎などによって多様な風味を持つコーヒーをさまざまな形で楽しむことが当たり前になっている。

この10年間で大切にしてきたことについてこう話す。

「やはり店の名前の由来になっている、人とのつながりをつくっていくことです。そして、スペシャルティコーヒーには、コーヒーの生産と流通におけるサステナビリティとトレーサビリティを大切にするという世界共通の定義があります。それであれば、カフェの運営においても同じようにサステナビリティとトレーサビリティを大切にするべきだと思います。そうすることで、本質的なお店になるのではないでしょうか」

その言葉どおり、オニバスコーヒーではさまざまな取り組みを行っている。新型コロナウイルス感染症が拡大する前まで、坂尾さんや社員は店舗で扱うコーヒー豆の9割の生産地を定期的に訪問してきた。2019年に訪れたコスタリカでは、気候変動の影響で元の場所でコーヒー豆を栽培するのが難しくなり、標高の高い場所に農園を移動したという話も聞いた。「最終的にどうなるのかなという風に思います。コーヒー豆の価格も上がってきています」。オニバスコーヒーでは、2019年から全店で再生可能エネルギーを使い始めている。

国内でも、坂尾さんは店で販売するお菓子の原材料を生産する農家を訪ね、話を聞くようにしているという。小麦や苺を生産する栃木の有機農家や、最近はジンジャーブレッドに使う生姜をつくる高知の農家のもとにも足を運んだ。土づくりと環境・風土にあった農業を大切にする有機農家に話を聞く経験は、「コーヒー農園に行った時に見聞きする視点も変える」と言う。

「最終的には、もう少しコーヒー農園と深い関わりを持ちながら、その風土にあった土づくりとかコーヒーの栽培方法も提案できるような企業になりたいという思いがあります」

「土」に関しては、オニバスコーヒーが1年間に出すコーヒーカスのうち10%を都内の農家に持っていき堆肥化してもらい、その培養土「COFFEE SOIL (コーヒーソイル)」を店舗で販売する。包装材には、適切に管理された森林から調達した木材の利用を示すFSC認証の紙が使われ、堆肥化できる素材を使用している。

社内ではこの2年、従業員が増えるなかで、理念を共有し、方向性を確かめるために、外部講師を招いてチームビルディング研修を月に1度、半年間かけて行なってきた。「お店を成長させたり、売上高を上げることもそうですが、それに伴って働く人たちの内面的なこと、内面的な成長が大切になります」。

来年春には、新たに東京都目黒区の自由が丘にブランチカフェを開く計画だ。

その後の店舗展開については「理念とクオリティが担保できるのであれば増やすべきだと思います。カフェがあることで、本当にそのまちがよくなるような店づくりができるなら店をつくっていきたい」と話す。

そして、理念とクオリティを担保するために大切なことは、やはり「人」と言う。

「店舗に立っている人が一番お客さまとの距離が近い。働く人たちがどこまで理解してくれているのか、同じ方向を向けているか。働いている人たちが会社のやっていることに少しでも共感できるということが本当に大切です。共感者を増やしていくというのは、お客さんや働いている人たちもそうですし、まちであっても同じです。同じようなことを共有できる人がいて、まちができていき、まちが良くなるのだと思います」

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小松 遥香 (Haruka Komatsu)

アメリカ、スペインで紛争解決・開発学を学ぶ。一般企業で働いた後、出版社に入社。2016年から「持続可能性とビジネス」をテーマに取材するなか、自らも実践しようと、2018年7月から1年間、出身地・高知の食材をつかった週末食堂「こうち食堂 日日是好日」を東京・西日暮里で開く。前Sustainable Brands Japan 編集局デスク。