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脱炭素特集

中高層ビルにCO2排出少ない木質化の計画広がる――木造マンションでも新ブランド

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三井ホーム木造マンションのエントランスホールには象徴的な国産材での木造作がある

建設時の二酸化炭素の排出が少なく、木材利用による炭素固定効果もあることから、一般住宅だけでなく中高層ビルを木質化する動きが広がっている。大東建託は直交集成板と呼ばれる建材「CLT」を使った集合住宅を商品化、アキュラホーム(東京・新宿)は日本で普及している木造軸組み工法の一般的な製材を使った「普及型純木造ビル」を開発する。さらに、三井ホームは木造マンションの新ブランドを10月に立ち上げたほか、三井不動産と竹中工務店は東京・日本橋に地上17階建の木造オフィスビルの計画を打ち出す。背景には建築物に木材利用を促進するための法改正や、主伐期を迎えた日本の人工林の現状もある。(環境ライター 箕輪弥生)

コンクリートから木へ、技術や政策が追い風に

木は鉄やRC(鉄筋コンクリート)に比べて製造、加工、建設時に必要とされるエネルギーが約半分と少ないため、CO2の排出量を大きく削減する。同時に、木材を利用することで建物に炭素を固定し、解体後も再利用や燃料としてのカスケード利用が可能だ。

日本の森、特に人工林には戦後の拡大造林計画で植えられ、収穫期を迎え、老齢化した木が膨大にある。これらを使い、新たに植林をするという森林更新をしていくことが森林のCO2吸収量を増やしていくことにもつながる。

政府のカーボンニュートラル宣言もあり、これまで木造ビルで課題となっていた耐火性能や耐久性能、耐震性などをクリアする技術も各社が競うように開発し、これまで培った技術を生かして木造ビル普及に各社がしのぎを削る。

政策的にも追い風が吹く。10月からは「公共建築物等木材利用促進法」が改正され、その名も「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」となり、木質化の対象も公共建築物から民間建築物にまで拡大した。林野庁は中高層木造ビルを造るための技術開発や木材の安定供給を推進していく意向だ。

CLTを利用した集合住宅を開発、販売する大東建託

大東建託の集合住宅「フォルタープ」躯体イメージ

CLTと呼ばれる直交集成板を使った集合住宅「フォルタープ」を開発し2019年と早い時期から販売するのが大東建託だ。

CLT(クロス・ラミネーティッド・ティンバー)は、ひき板を互いに直角に交わるように積層接着した木質パネルで、オーストリアで開発され、欧州や北米などでも木造のビルに数多く使われている。

同社の製品は、コンクリートと同様の強度をもち、軽量で、躯体を耐火被覆材で全て覆うことにより耐火性能も担保する。

「フォルタープ」には同規模の鉄筋コンクリート造の建物と比較して、1棟あたり約274トンのCO2削減効果があると同社は試算する。

全国の工務店が施工できる「普及型純木造ビル」を開発するアキュラホーム

アキュラホーム「普及型純木造ビル」社屋の外観イメージ。コストも従来の木造ビルの3分2を目指す

一方、特殊な資材を使わず、一般的に普及している木造軸組み工法の製材、プレカット加工技術などを使い、地場の工務店でも施工できるような「普及型純木造ビル」を開発するのはアキュラホームだ。

同社は5階建てまでの木造耐火建築物の普及をめざすが、それに先立ち、埼玉県さいたま市にある敷地内に8階建ての木造新社屋を計画しており、2024年度の完成を目指す。

木造新社屋は、日本古来より社寺建築でも取り入れられた伝統技術と、大学と共同で研究開発を進めてきた現代技術を融合させた「組子格子耐力壁」を使う。

伝統工芸の組子を使った構造体が露出するアキュラホーム「普及型純木造ビル」の内観イメージ

同社が普及材、流通材を使用し、一般的なプレカット加工技術を活用する理由は、「非住宅建築物の木質化には、地場の工務店をはじめとする日本全国の造り手が施工できるプロトタイプとすることが、重要なポイントだと考えている」(広報課)からだ。

同社の木造ビル建築は、全ての構造材を木造とすることで、1棟のビルで一般木造住宅の約500戸分の木材を利用するという。

ビルの木質化を進める狙いについて同社広報課は、「国内の森には50年を超える人工林が50%あり、計画的な循環利用が必要だ。森林の若返りには、木材利用を拡大することが有効であり、木造建築物は炭素を固定できる第二の森林ともいわれるように脱炭素社会に向けて重要な方向性だと考えている」と説明する。

ツーバイフォー工法を応用した木造マンションを手掛ける三井ホーム

三井ホーム「MOCXION稲城プロジェクト」(仮称)外観

大手住宅メーカーも、木造中高層ビルプロジェクトを進めている。三井ホームは今年7月に「木」を構造材に用いた木造マンションのブランド「MOCXION(モクシオン)」を立ち上げた。

同社はこれまでも5000棟を超える木造施設系建築の実績があるほか、北米を中心とした木造中層住宅の建築にも数多く携わる。

「これまでの実績をふまえ、木造マンションという新たなカテゴリーをつくることにより、中大規模建築物のさらなる木質化を促進して脱炭素社会の実現に貢献していきたい」(広報部)意向だ。

同社は木造住宅で培ってきたツーバイフォー工法を中高層木造ビルにも応用し、さらに中層マンションを木造化する際の構造性能と耐火基準などの課題を克服するために「高強度耐力壁」を独自に開発した。

構造に木材を多用する「モクシオン 稲城プロジェクト」

東京都稲城市で建設中の木造マンションは、1階部分を鉄筋コンクリート造とし、その上に4層の木造部分を積み重ねた5階建てだ。適切な維持管理により75年~90年の耐久性をもち、気密性、断熱性を高め、省エネ性能も高いという。

工場でカットされた木材を使い、パネルまで工場生産されるので、工期も従来のRC造に比べて短くなり、コストも削減する。

稲城市で建設中の木造マンションには、国産材(信州カラマツ)による枠組壁工法用製材(2×10材)を床組みの一部として採用するほか、三井不動産グループの保有林で伐採適期を迎えた木材や間伐材を軒裏や内装材として活用する。

広報部は「木材は輸入材と国産材の複線化で調達しているが、国産材活用は当社としても重要なテーマと捉え、徐々にその利用を拡大していきたい」と話す。

同プロジェクトでの炭素(CO2)貯蔵量は、約736.4トン、スギの木(35年生)に換算すると2953本に相当する(広報部)という。

三井不動産、竹中工務店が国内最大の17階建の木造高層ビルを計画

2025年竣工を目指す三井不動産・竹中工務店の木造高層建築物

一方、三井グループである三井不動産は竹中工務店と共に、東京・日本橋に国内最大の17階建、高さ約70m木造の高層ビルを計画する。

こちらは、主要な構造材に竹中工務店が開発した耐火集成材の「燃エンウッド」などの耐火、耐震技術を採用した木造ハイブリッド建築だ。

同プロジェクトの建造物は、同規模の一般的な鉄骨造オフィスビルと比較して、建築時のCO2排出約20%削減効果を想定する。

木材は三井不動産グループが北海道に保有する森林の木材を活用する。構造材に使用する木材量は1000㎥超となる見込みだ。

木材を大量に利用する木造の中高層ビルによって国産材の調達が促進されれば、森林の保全や循環にとってもプラスに働く。森林は二酸化炭素の重要な吸収源であり、生物多様性を育む重要な場所でもある。

また、日本には法隆寺など伝統工法によって長期に現存する建造物が多々ある。各社の木造建築の知見を生かした中高層木造ビルは、今後、大きなマーケットに成長する余地がありそうだ。

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箕輪 弥生 (みのわ・やよい)

環境ライター・ジャーナリスト、NPO法人「そらべあ基金」理事。
東京の下町生まれ、立教大学卒。広告代理店を経てマーケティングプランナーとして独立。その後、持続可能なビジネスや社会の仕組み、生態系への関心がつのり環境分野へシフト。自然エネルギーや循環型ライフスタイルなどを中心に、幅広く環境関連の記事や書籍の執筆、編集を行う。著書に「地球のために今日から始めるエコシフト15」(文化出版局)「エネルギーシフトに向けて 節電・省エネの知恵123」「環境生活のススメ」(飛鳥新社)「LOHASで行こう!」(ソニーマガジンズ)ほか。自身も雨水や太陽熱、自然素材を使ったエコハウスに住む。

http://gogreen.hippy.jp/