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COP26は生物多様性と経済のルールも変える

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足立直樹

Mark Lowery

いよいよグラスゴーでの気候変動枠組条約 COP 26が始まりました。気温上昇を1.5度にとどめるような削減目標に世界が合意できるか、これからの社会の命運がかかっていますし、なによりその危機が迫っているわけですから、注目されるところです。

しかし実は今回のCOPの目的は気候変動の緩和にとどまらないことをご存知でしょうか。もちろん一番の目的は今世紀半ばまでに世界全体でネットゼロを確実に達成し、気温上昇を1.5度以下に抑えることです。そして2番目が、地域社会と自然の生息地を守るために適応することなのです。そのための具体的な行動として、住宅や生計、そして生命を守るためのインフラを整備すること、そして“生態系を保護し回復する”ことが挙げられています。

日本国内では、気候変動への適応策や緩和策として生態系の保護や回復が強調されることは少ないように思いますが、国際的には近年、大変注目されています。なぜなら、これまでの緩和策、すなわち再エネへのシフトやエネルギー効率の向上だけでは不十分だというのがまず第一点。そして、生態系がこれ以上損なわれるようなことがあれば、生物が深刻な影響を受けるだけでなく、人間社会が危うくなることも明らかだからです。ですから、気候危機と生物多様性の危機にバラバラに対応するのではなく、両者は一緒に解決すべき問題であり、そうしなければ間に合わないという認識が急速に高まっているのです。

考えてみればこれは当たり前のことで、気候システムも地球生態系の一部です。気候と生態系は相互に影響を与え合うのですから、それを切り離して考える方がそもそもおかしいと言えます。ですので、生態系を活用して気候変動を緩和したり、それに適応しようという自然に基づいた解決方法、いわゆるNbS(Nature based Solutions:ネイチャー・ベースド・ソリューション)やNCS(Natural Climate Solutions:ネイチャー・クライメイト・ソリューション)に脚光があたっているのです。

イギリスの戦略に注目

このことを既に自国の政策に反映し始めているのが、ホスト国のイギリスです。昨年8月にはこれから25年間で環境を改善するための大規模な計画を発表しており、気候変動を含めたさまざまな環境問題を解決しながら自然環境を改善するとしています。

また今年2月に発表されて注目された『生物多様性の経済学』、いわゆるダスグプタ・レビューは、イギリス財務省の諮問でまとめられたものです。イギリス政府はこの報告書の「自然とそれを支える生物多様性が経済、生活、幸福を支えている」という結論に同意し、ネイチャー・ポジティブな将来を国民に提供すると約束しました。もちろん今後も必要な開発行為は行うけれど、その際には生物多様性や生態系をネット・ポジティブにすると宣言したのです。

そしてこのレビューの発表と同時に、イギリス政府はFACT対話をスタートさせました。FACTは、森林(forest)、農業(agriculture)、コモディティ(commodity)、貿易(trade)の頭文字をとったもので、森林、農業のための土地利用、そこで作られたコモディティの輸出入について国際的に議論し、より持続可能な土地利用に移行しようというものです。この対話にはパーム油、牛肉、大豆、紙・パルプ、カカオなどのコモディティを生産する途上国とそれを利用する先進国の双方から、企業、金融機関、農民、先住民、NGOなどさまざまなステークホルダーを招き、貴重な森林を守りながら経済発展と食料安全保障を支援するとしています。そしてここでまとめられた意見が、COP26で行われる政府間の議論に反映されるのです。

なぜ気候変動がメインテーマのCOP26でこうした議論が行われるのでしょうか。それだけ森林開発や農業が気候変動と切り離せない問題であることはもちろんですが、自分たちがホストである機会を利用して、この重要な議論をリードしたいというイギリスの戦略であるように私は思います。そしておそらく、ここでの議論が、これからの国際貿易、ひいては経済のあり方を大きく変えるはずです。

実際イギリスは、森林破壊を伴って作られた原材料を企業が使用することは許さないというきわめて強い政策を打ち出しています。まもなくイギリス国内では、森林破壊と関わりがあるコモディティについて、大企業は森林破壊を伴って作られた原材料の使用を禁止され、使用する原材料にそうしたリスクがないことを確認し、情報を開示することが法律で義務付けられるようになるのです。大変厳しい法律のように思えますが、イギリス国内で行われたパブコメでは、企業も含めて99%の意見がこれに賛成でした。イギリスは現在法改正を準備中ですが、そこで採用される国内基準や認証制度が、FACT対話などの枠組みとしても役立つだろうと言っています。つまり、まずは自国内のルールを作り、次にそれを国際ルールにしたいということでしょう。

こうして見ると、ダスグプタ・レビューの自然を前提とした経済に変化すべきだという結論は、美しい建前に終わるわけではなさそうです。イギリス政府は真剣にその変化を起こそうとしているように思えます。だからこそイギリスは、COP26のホストという立場を利用して、気候危機だけでなく、生物多様性の危機に対しても強力なリーダーシップを発揮し、パリ協定を上回るような歴史的転換をしかけようとしているのかもしれません。来年開催される生物多様性条約のCOP15の後半戦が、今後の生物多様性について大きな転換点となることは間違いありません。けれども、もしかするとCOP26がその露払いとなり、イギリスはそこを一貫としてリードするつもりなのかもしれません。ですので、COP26をウォッチする際には、生物多様性に関する議論も要注目なのです。

足立 直樹 (サステナブル・ブランド国際会議 サステナビリティ・プロデューサー)
東京大学理学部、同大学院で生態学を専攻、博士(理学)。国立環境研究所とマレーシア森林研究所(FRIM)で熱帯林の研究に従事した後、コンサルタントとして独立。株式会社レスポンスアビリティ代表取締役、一般社団法人 企業と生物多様性イニシアティブ(JBIB)理事・事務局長。CSR調達を中心に、社会と会社を持続可能にするサステナビリティ経営を指導。さらにはそれをブランディングに結びつける総合的なコンサルティングを数多くの企業に対して行っている。環境省をはじめとする省庁の検討委員等も多数歴任。

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