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脱炭素特集

大地とコミュニティを再生し、エネルギーと作物を生み出す次世代「ソーラーシェアリング」とは

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植物の根や土の中の微生物の働きで土づくりを行う不耕起栽培で作物を育てる「市民エネルギーちば」のソーラーシェアリング

日本のソーラーシェアリングの先進地、千葉県匝瑳市では、耕作放棄された土地を回復させ、有機農法で作物を育てるリジェネラティブなソーラーシェアリングが進行中だ。この事業を担う「市民エネルギーちば」(千葉・匝瑳市)は、太陽光発電と植物の光合成、化石燃料を使わない有機農業により、事業のカーボンマイナスを目指す。同時に、不耕起栽培により二酸化炭素を大地に固定し、土壌の微生物を豊かにし、大地を再生することにこだわる。同地域では、有機農業に取り組む若手農家らがソーラーパネル下の農業を担い、移住者による農作物の加工、商品化の推進やパタゴニアやENEOSホールディングス、サザビーリーグ(東京・渋谷)といった企業との協業など、地域活性化につながるプロジェクトが次々と生まれている。(環境ライター 箕輪弥生)

増える耕作放棄地をエネルギーと農作物の生産地に変える

里山に点在するソーラーシェアリングは、災害時には地域の電源としても機能する(写真:みんエネ)

営農型太陽光発電とも言われる「ソーラーシェアリング」は、その名の通り、農地の上部に太陽光パネルを設置し、農業と発電を両立させる事業だ。荒廃する農地に再エネ設備を設置するための農地転用規制の見直しなどもあり、申請数が2020年には3000件に近づくなど拡大傾向にある。

この背景にあるのが、国内の耕作放棄地の拡大だ。高齢化や後継者不足、農作物の価格低迷に加え、近年では気候変動の影響や鳥獣害の被害も加わり、日本の農地が40万ヘクタールを超えて失われつつある(平成27年内閣府)。

千葉県北東部に位置する匝瑳市も、耕作放棄地が点在し、過去15年間で2割も人口が減少した地域だった。

ピンチをチャンスに変えようと、匝瑳市では農地の上にソーラーパネルが並ぶ。大豆や麦などの作物と電気の二毛作を行うソーラーシェアリングがのどかな里山に広がっている。

匝瑳市がソーラーシェアリングの先進地として年間1500人もの視察者を集めるようになったけん引役が「市民エネルギーちば」だ。

同社は2014年に市民出資のソーラーシェアリング(発電量35.07kW)を自分たちの手で建設してスタートし、これまでに低圧(50 kW以下)を約30カ所、1.2MWのメガソーラーシェアリングを含む高圧2カ所と合計2.7MWのソーラーシェアリングを運営する。

来年には行政によって大規模に行われた土地改良事業で生まれた余剰地に、さらに2.7MWのメガソーラーを計画する。

同社の東光弘代表は「事業への信頼度が高まり、資金調達もしやすくなってきている」と話す。

大地を回復するリジェネラティブなソーラーシェアリングへ

市民エネルギーちばの山内猛馬常務取締役(左)と東光弘代表(右)

「市民エネルギーちば」のソーラーシェアリングは有機農業を基本としてきた。同社は有機農業に取り組む若手農家グループによる「Three little birds(スリー・リトル・バーズ)合同会社」と連携し、ソーラーパネル下で営農に取り組む。

その畑で作られた大豆は大豆コーヒーに、麦は来年度からクラフトビールに加工、商品化される。訪問者が増えたことで、古民家をリノベーションした民泊やエコツアーなどの6次産業化は移住者による企業「Re」(千葉匝瑳市)が請け負う。農地の管理を行うのは新たに設立した農地所有適格法人「匝瑳おひさま畑」だ。

さまざまなプロジェクトは、地元出身者と移住者、リピーターなど地域と多様に関わる人が有機的につながる形で運営する。「匝瑳おひさま畑」の山内猛馬代表取締役は「地域に関わる人を増やし、営農者を育て、地域を活性化させていきたい」と話す。

多様なビジネスを生む次世代ソーラーシェアリングについて、東代表は「自然環境、農業、地域コミュニティ、社会課題によりそう」という4つのポイントをあげる。

ソーラーシェアリングは太陽光発電と光合成によるCO2削減を推進するが、有機農業を行うことで、地中への炭素固定量を増やし、事業のカーボンマイナスを目指す。

さらにこれを一歩進めて、水脈を意識した設備作り、土壌の改善や不耕起栽培などによって土地の持つ力を回復させるリジェネラティブなソーラーシェアリングにも取り組む。

「劣化した大地を回復し、炭素を循環させ、生態系を育むことを意識している」と東代表は話す。

企業との協業、設備のソリューションで経済的にも循環するモデルに

2019年に行われた「ソーラーシェアリング収穫祭」では関係者が一堂に集まった(写真:みんエネ)

ここ数年、同社の環境への取り組みを評価した企業との協業も増えている。

パタゴニア・インターナショナル・インク日本支社(本社:米国カリフォルニア州)は、同地域に市民エネルギーちばが運営する440 kWのソーラーシェアリングからの電力を渋谷ストアなどで使う。不耕起栽培などもパタゴニアと連携して進めている。

ENEOSホールディングスとは災害時に電力を供給する地域マイクログリッドの構築をはじめ、さまざまなプロジェクトで協業する。

一般社団法人エシカル協会(東京・渋谷)やボーダレス・ジャパン(東京・新宿)が運営するハチドリ電力、Three little birdsが連携して建設したソーラーシェアリングを自然エネルギーや有機農業を学ぶ教育的な場として活用しようというプロジェクトも6月末から動き出した。

順調にソーラーシェアリングの容量もプロジェクトも広がるが、東代表は次世代ソーラーシェアリングを持続可能なものにするための新しい太陽光パネルの開発にも力を入れる。

同社はこれまでも農作物に負荷をかけない細型パネルを使ってきたが、架台と一体化した1列セルのモジュールを開発し、年内にはプロトタイプを作成する予定だ。「新たなセルは工期とコストを削減し、FIT価格の低下にも負けない」と東代表は胸を張る。

増え続ける耕作放棄地を再生し、農業とエネルギー産業の融合を導く匝瑳市のソーラーシェアリング。「経済的にも循環するモデルをつくりたい」という東代表の構想は国内だけでなく海外も見据えている。

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箕輪 弥生 (みのわ・やよい)

環境ライター・ジャーナリスト、NPO法人「そらべあ基金」理事。
東京の下町生まれ、立教大学卒。広告代理店を経てマーケティングプランナーとして独立。その後、持続可能なビジネスや社会の仕組み、生態系への関心がつのり環境分野へシフト。自然エネルギーや循環型ライフスタイルなどを中心に、幅広く環境関連の記事や書籍の執筆、編集を行う。著書に「地球のために今日から始めるエコシフト15」(文化出版局)「エネルギーシフトに向けて 節電・省エネの知恵123」「環境生活のススメ」(飛鳥新社)「LOHASで行こう!」(ソニーマガジンズ)ほか。自身も雨水や太陽熱、自然素材を使ったエコハウスに住む。

http://gogreen.hippy.jp/