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脱炭素特集

みんな電力、アーティストが気候変動対策にコミットする「アーティスト電力」を本格展開へ

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「アーティスト電力」の第1弾として展開している福島県にある「いとうせいこう発電所」

みんな電力(東京・世田谷)は、アーティストの発電所で作った再生可能エネルギー由来の電気を一般消費者に使ってもらうことで、気候変動対策やアーティストの支援につながる「アーティスト電力」を年内にも本格展開する。これは今年4月にスタートした第1弾の「いとうせいこう発電所」に続くもので、気候変動に関心のあるさまざまなアーティストがすでに参加意向を示しており、現在、個人発電所向けに発電源が特定できるブロックチェーンを使ったシステムの整備を急ぎ進めている。気候変動に向けて活動をしたいアーティストと消費者や企業をつなぐ「アーティスト電力」の狙いや今後の展開について、同社の大石英司代表取締役に話を聞いた。(環境ライター 箕輪弥生)

ブロックチェーンを使ってアーティストと電気でつながる

多くの人に影響を与えるアーティストが発電所を所有したらどうなるのか。もちろん電気は再生可能エネルギーによるものだ。アーティストは再エネを使って作品を作って発信し、ファンや一般の人に伝えていく。それだけでなく、自らが発電所を持ち、その電気を、アーティストを応援したい人に使ってもらう。電力を購入したファンは、特典として好きなアーティストの限定音楽ライブや映像などの作品を楽しめる。

つまり、これまで電気を消費する側だったアーティストが電気の生産者となり、アーティストとファンが一緒に気候変動に関する脱炭素のアクションをとれる仕組みが、みんな電力が開発した「アーティスト電力」だ。

この仕組みを実現した技術が、同社が開発したブロックチェーン技術のP2P(Peer to Peer:ピア・トゥー・ピア)電力トラッキングシステムである。需要家ごとに、どこの電源からどれだけ電力が供給されたかを30分単位で可視化する。自宅で使う電気の中でどれくらいがアーティストの所有する発電所からの電力なのかを、購入者がPCなどを使って実際に確認することができる。

「個人向けの電力販売はなかなか価格の壁を打ち破れない。価格でなく、価値で電気を選んでもらうためにはどうしたらいいか、そのひとつのアイデアがアーティスト電力だった」と同社の大石英司代表取締役は話す。

「気候変動対策に興味があるけれども、テーマが大きすぎて何をしていいかわからないというアーティストも多い。彼らがコミットメントできる方法としてアーティスト電力が生まれた」(大石代表取締役)

「アーティスト電力は、エネルギーと文化を変えていくプロジェクトになる」と話すいとうせいこう氏

4月15日からスタートした第1弾の「いとうせいこう発電所」はミュージシャン、作家などクリエーターとして多方面で活躍するいとうせいこう氏がみんな電力のブロックチェーンシステムを使って、福島県二本松市の太陽光発電システムにより発電された電気を100名限定で9月末までの期間、販売している。

いとうせいこう氏は「エネルギーも文化も中央集権型ではなく自律分散型に変わるべき」と話す。「ひとりのアーティストが大きな発電所を持つのは負担が大きくて無理だが、何人かでその権利を分けて持つことはできる」とアーティスト電力を考案した経緯について話す。

コロナ禍で発表の場を奪われ疲弊するエンターテイメント業界にとって、ファンやコミュニティと電力販売を通じて作品の発表や双方向のコミュニケーションがとれるのも魅力の一つだ。

「仕組みの中で、アーティストの出身地域や思い入れのある地域で発電された再エネを使うなど、アーティストと電力を介して地域活性化にもつなげることができる」と大石代表は期待する。

アーティストもグリーンリカバリーの潮流を生かしてほしい

「この仕組みが進むと、誰もが発電所をもつことができる」と話す大石英司代表取締役

大石代表によると、「いとうせいこう発電所」に続き、さまざまなジャンルのミュージシャン、文化人、芸人、ラジオ番組などから「アーティスト電力」への賛同、参画の意向があるという。

同社は年内をめどに本サービスとなる第2弾を展開する計画だが、「まずはいとうせいこう発電所の展開を通じてB to Cの電力販売の検証を行い、サーバーの設計など仕組みの改修を行っていく」という。

予定される仕組みでは、再エネによる電力と、非化石証書の環境価値を組み合わせたFIT電気による再エネ100%の電気を販売し、1kWhあたり2円がアーティストの支援として使われる。

2011年に創業した同社は、2016年の電力小売全面自由化後、“顔の見える電力”と言われる生産者、生産方法がわかるプラットフォームを開発し、今年5月までに累積調達額は41.5億円となり、売り上げも企業向けを中心に、2020年3月決算で売上高57億円に達した。

企業向け再エネ電力販売が好調な理由について大石代表は、「1、ブロックチェーンで証明された環境破壊リスクのない再エネの豊富な仕入れ量、2、CDP(カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)から認定された電力であること、3、電力価格がリーズナブルであること、4、生産者と需要家のネットワークが形成されていること」と分析した。

「企業は気候変動に対応していないと企業価値そのものが維持できない時代であり、ESG投資などお金の流れが明らかに変わってきている。アーティストもそこを見極めて、グリーンリカバリーの潮流をとらえてカルチャーリカバリーをしていけばいいのではないか」と大石代表は提案する。

そのため、同社は「アーティスト電力」は個人向け販売だけでなく、法人向けにも販売強化をしていきたい意向だ。

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箕輪 弥生 (みのわ・やよい)

環境ライター・ジャーナリスト、NPO法人「そらべあ基金」理事。
東京の下町生まれ、立教大学卒。広告代理店を経てマーケティングプランナーとして独立。その後、持続可能なビジネスや社会の仕組み、生態系への関心がつのり環境分野へシフト。自然エネルギーや循環型ライフスタイルなどを中心に、幅広く環境関連の記事や書籍の執筆、編集を行う。著書に「地球のために今日から始めるエコシフト15」(文化出版局)「エネルギーシフトに向けて 節電・省エネの知恵123」「環境生活のススメ」(飛鳥新社)「LOHASで行こう!」(ソニーマガジンズ)ほか。自身も雨水や太陽熱、自然素材を使ったエコハウスに住む。JFEJ(日本環境ジャーナリストの会)会員。

http://gogreen.hippy.jp/