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脱炭素特集

積水ハウスなど住宅メーカーが卒FITの余剰電力買取で「RE100」を達成へ

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家庭用ソーラーの卒FIT余剰電力は今後、大規模発電所を超える発電量に拡大する (写真:積水ハウス「瓦型太陽光発電システム」)

住宅用太陽光発電設備の“卒 FIT”電力を活用し、脱炭素を実現しようという動きが住宅メーカーで拡大している。固定価格買取制度が始まってから10年が経過する2019年から余剰電力を買取ることが可能となり、積水ハウス、住友林業、大和ハウスグループなど「RE100」に加盟した住宅メーカーが続々とこの電力を買い取って、事業用電力として活用している。中でも積水ハウスは、この仕組みが好調に推移し、当初2040年だったRE100達成目標を2030年に前倒しできる見込みだ。住宅メーカーが顧客基盤を活用して卒FIT電力を積極的に買取るのは、企業側の再生可能エネルギーの購入コストが抑えられると同時に、顧客側の売電収入が安定し、双方にメリットがあることが大きい。(環境ライター 箕輪弥生)

毎年2億kWh増加する“卒FIT”の余剰電力

家庭用太陽光発電の卒FIT件数の累計>

経済産業省資源エネルギー庁、(一社)太陽光発電協会

日本が2050年にカーボンニュートラルを目指すためには、温室効果ガス排出量の約8割を占めるエネルギー分野の取り組みが必須だ。そのため、省エネをさらに進めると同時に、温室効果ガスを排出しない再生可能エネルギー(以下、再エネ)をどれだけ事業に取り入れるかが問われている。しかし、脱炭素を目指す企業にとって、再エネを十分に確保することは決して容易ではない。

現在国内では、確保できる再エネの供給量や、再エネ電力の価格の高さなどが大きな障害となっている。特に「RE100」へ適合した電力を、非化石証書を購入して対応する場合には、欧米の環境価値証書と比べて10倍以上の価格差を容認しなければならない場合もある。

このような状況の中で注目されているのが、「再エネの固定価格買取制度」(FIT)の買い取り期間を満了した、太陽光発電いわゆる“卒FIT”電力である。一般の家庭の10kw未満の太陽光発電は、10年を過ぎるとFITの適用が終了し、買い取ってもらう電気事業者を選ぶことができる。この卒FIT電力はその名の通り、FIT制度が終了し、FITを使っていないので環境価値があると認められ、RE100にも対応する。

資源エネルギー庁は、2019年から3年間の家庭用太陽光発電の卒FITは228万件発生し、約24億kWhの余剰電力が生まれ、今後も毎年約2億kWhずつ増加すると推定する。この家庭から生まれる卒FIT市場は環境価値をもった電力として、企業からも注目されている。

卒FIT買取りで、積水ハウスは2030年に「RE100」達成前倒し

この卒FIT市場に早くから注目してきたのが住宅メーカーだ。太陽光発電設備を設置した自社の顧客を囲い込み、積水ハウスは「積水ハウスオーナーでんき」、大和ハウス工業は「ダイワハウスでんき」、住友林業は「スミリンでんき」という名称で、それぞれ卒FITで生まれた余剰電力を自社ユーザーから買い取る仕組みを構築する。

中でも積水ハウスは、年間約700GWというユーザーが持つ大きな発電設備を背景に、再エネの確保を確実なものにしている。同社の環境推進部温暖化防止推進室、清水務課長は「2019年にFITが終了することを心配したオーナーからの買い取り制度への問い合わせと、自社で使用する再エネの価格を抑えたいという課題からスキームが生まれた」と振り返る。

同社は1kWh当たり11円で小売電気事業者(ファミリーネット・ジャパン、大阪ガス)を介してユーザーから卒FIT余剰電力を買い取り、それを事業用電力として活用し、再生可能エネルギーだけでの事業経営「RE100」を目指す。

一般的な価格より高い買取価格の設定と、自宅を建てたハウスメーカーによる買い取りはユーザーにとって十分な魅力と安心感があり、当初2~3割を想定していた買取申し込みユーザーの割合は5割と予想を超えた。

これにより、同社の年間120GWhの事業用の電力使用量を2030年にはすべて再エネにすることが可能になると予想され、当初2040年だった「RE100」達成目標を2030年に前倒しできる見込だ。

同社の清水課長はこの理由について「顧客と自社のニーズが一致し、小売電気事業者のメリットにもなるという三方良しのスキームだったことや、あくまでもユーザーへのサービスと位置づけ、利益誘導をしなかったことが、よい結果を生んでいるのでは」と分析する

同社は2008年に住まいからのCO2排出ゼロを目指す「2050年ビジョン」を宣言し、2017年には日本企業として2番目に「RE100」に加盟するなど、「脱炭素」経営にいち早くかじを切ってきた企業のひとつだ。

同社のコミニュケーションデザイン部広報室の山中敦志氏は「2019 年度のZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の比率が新築戸建て住宅の 87%まで高まり、CO2の削減は本業と完全にリンクしている」と話す。

脱炭素への取り組みにより事業機会を拡大する住宅メーカー

一方、大和ハウス工業は、卒FIT余剰電力の買い取りに加え、全国44カ所の風力発電所や太陽光発電所を含む全国で管理・運営する310カ所、発電容量約329MWの再エネ発電所で発電された電力に、電力の再エネ価値を証書化した「トラッキング付非化石証書」を取得し、RE100達成を目指す。

昨年からは自社工場で使用する電力を自社でつくり出した再エネに順次切り替え、2040年度には100%を再生可能エネルギーで賄う計画だ。

同社の「ダイワハウスでんき」は、自社ユーザーだけでなく他社ユーザーの卒FIT余剰電力の買い取りを行うほか、家庭用リチウムイオン蓄電システムを購入する顧客にはより高い買取価格を提示するなど、メニューも多様だ。

住友林業は、顧客からの卒FIT余剰電力の買い取りに加え、国内の森林資源や建築廃材などを使った木質バイオマス発電所に力を入れ、将来的には300MWの発電規模を目指している。「スミリンでんき」での電力供給は、各エリア電力会社(旧一般電気事業者)の一般家庭向けプランよりも低価格で提供する。

このように住宅メーカー各社は、それぞれの強みを生かしながら、再エネの導入を拡大している。卒FITの活用やZEHの推進など脱炭素への道筋は事業との相乗効果が大きく、事業への機会として脱炭素に積極的に取り組むことが顧客満足度にもつながり、それが家庭からのCO2排出を減らすという好循環を生んでいる。

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箕輪 弥生 (みのわ・やよい)

環境ライター・ジャーナリスト、NPO法人「そらべあ基金」理事。
東京の下町生まれ、立教大学卒。広告代理店を経てマーケティングプランナーとして独立。その後、持続可能なビジネスや社会の仕組み、生態系への関心がつのり環境分野へシフト。自然エネルギーや循環型ライフスタイルなどを中心に、幅広く環境関連の記事や書籍の執筆、編集を行う。著書に「地球のために今日から始めるエコシフト15」(文化出版局)「エネルギーシフトに向けて 節電・省エネの知恵123」「環境生活のススメ」(飛鳥新社)「LOHASで行こう!」(ソニーマガジンズ)ほか。自身も雨水や太陽熱、自然素材を使ったエコハウスに住む。JFEJ(日本環境ジャーナリストの会)会員。

http://gogreen.hippy.jp/